新・暮らしの経済手帖 ~時評編~

わたしたちの暮らしを大切にするための経済解説サイトを目指して開設しました。こちらは時評編で基礎知識編もあります。

適正な貨幣発行供給管理と財政の公正な分配ができるのか ~統治貨幣制度の課題~

非常に簡単ではありますが、アイスランドの通貨改革について解説してきました。私がアイスランドのフロスティ・シガーヨンスソン議員によってまとめられた「通貨改革 アイスランドのためのより優れた通貨制度」を読んだとき、「これはなかなかよくできたレジュメだ」と感心したのですが、ここで書かれたプランを日本にそのまま持ち込んで採用するには制度設計の煮詰めが少し足りない部分があります。それは統治貨幣制度のいちばん肝となるところで通貨発行委員による通貨発行・供給量の決定とその分配の政府による財政の公正さが保障されるのかという問題です。内容は「通貨改革というプログラムに恣意や裁量主義というウィルスが紛れ込む危険性 」と被りますが重要なことなのでご容赦ください。

シガーヨンスソン議員自身もその可能性を完全に否定していませんが、通貨発行委員が適切な貨幣発行・供給の決定をするのかという金融政策のテクニカル上の懸念と政治家・政党による財政肥大化の危険性が僅かですがあります。日本で言いますと前者は三重野康白川方明に至る日銀の金融ウルトラタカ派というべき金融引き締めで、後者は戦前・戦時中の軍部による軍事予算膨張と終戦後の悪性インフレ発生です。どちらも金融政策に対する無知と無視が引き起こした問題です。

いまの安倍晋三総理がリフレーション政策に開眼し、これまで日本で生まれた政権でほとんど重視されてこなかった金融政策を前面に打ち出した経済再生政策・アベノミクスを5年前よりはじめます。これに伴い日銀の副総裁に岩田規久男教授を登用したのを皮切りに、原田泰教授や片岡剛士氏を審議委員に登用してやっと日銀は世界標準に近い金融政策をとるようになってきました。

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とはいえど世間や安倍総理菅義偉官房長官山本幸三議員ら数名以外の政治家・官僚らの金融政策に対する無理解ぶりは絶望的なほどひどいままです。一般の国民についても金融政策がどれほど生産活動や雇用と密接につながっているのか理解している人はほとんどいないかと思われます。

財務省の言いなりになってしまっている御用学者やマスコミは重いデフレ状態のままなのに、「量的緩和でマネーを増やしたらハイパーインフレになる」とか「日銀国債買受をやると国債が暴落する」などとデタラメを言い続けました。財(モノやサービス)と貨幣のバランスが全然わかっていない証拠です。その一方で同じ人間が「金融緩和をやっても物価が上がらないからアベノミクスは失敗だ」などとまったく逆のことを言っているので全然信用できません。支離滅裂です。

かと思えば逆に「政府が財政赤字を増やさないと国民の資産が減る」「国債をどんどん発行して財政出動をしないとデフレのままだ」などと言って土木建設公共事業の濫発を推し進めようとするグループがいたりします。これはこれで困りもので際限なく貨幣や負債を増やして財政をどんどん膨張させてやっても構わないという誤解を多くの人に与えてしまっています。土木建設公共事業の予算がたくさんほしいという欲の方が前のめりになっているのです。

通貨発行委員が不適切な判断でマネーの発行や供給を出し渋る、もしくは反対に過剰に発行・供給してしまう可能性についてはきちんと金融政策のノウハウを身に着け、磨くしかありません。中央銀行総裁や政治家だけではなく、国民自身が金融政策の意味を学び、より適切な金融政策をするよう要求しないと三重野~白川時代の暗黒時代を繰り返すことになります。
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できることであれば人間の裁量判断ではなく、AI(人工知能)を活用して公正・的確な政策判断ができるようにしておきたいもいのです。(日銀の政策判断も9割がAIに置き換え可能だという人がいる) いまの潜在GDPと有効需要(GDP)の差や実業家の投資と雇用意欲、消費、物価等のデータを入力し、増やすべきマネーサプライを算出できるプログラムがあるといいでしょう。

次に政治圧力で財政が膨張してしまう可能性ですが、通貨発行委員会と財政を決める政府は独立したものとし、分権体制にしておく必要があります。そして政府は通貨発行委員会が供給する新規発行貨幣の枠内で財政予算を決める原則を明確に定めておかねばなりません。金融政策ファースト・財政セカンド主義です。

新しく刷ったお金についても政治家や役人の恣意や裁量が入らないよう、国民全員に現金で直接給付する形が最善です。一部は実業家への融資用資金に回すことがあってもよいかと思われます。
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前に財政政策は政府(統治)貨幣という形であっても国民が保有している財を国家が収奪するかたちになりかねないことを指摘しました。「国民からお金を遣う自由や裁量を奪っていけない~国家社会主義的思考を撃つ~

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しかし国民全員に現金を給付するかたちにすれば国民同士がお互いに持っている財を等価交換し合えることになり、誰かの財が一方的に収奪されるだけの形になることはないと考えられます。
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上の図は政府はたぬきからの徴税権ときつねからの徴税権を財と交換するという手形=統治貨幣という形で交互に交換し合う形となり、たぬきはぶどうをきつねに、きつねはたぬきにりんごをといった形で財を等価交換できます。現金直接給付はお互いに損をしませんし、全国民均一に給付するならば実質どっちかが負債を背負うといったこともないです。(もちろん所得の少ない人に多く新貨幣を分配するというのはアリです) 統治貨幣はクリスマスパーティーなどのプレゼント交換券みたいになります。

上の二つの課題は統治貨幣導入議論の前に必ず解決しておくべき問題です。アイスランドのように統治貨幣を導入して銀行に代わり通貨発行委員が貨幣の発行や供給を行う形にしても、その委員メンバーが三重野や松下、速水、白川並みにお粗末であれば日本経済はデフレ蟻地獄へ引きずり込まれてしまうでしょう。結局何も変わらないということです。
私はアベノミクスが成功できなかったら通貨改革をやっても失敗すると思います。
AT車でさえまもとに運転できない人がMT車を運転できるかというとできるわけがありません。ギアの切り替えが巧くいかずガクガク走行やエンストを起こしたりギアを飛ばすといったことになるでしょう。

~お知らせ~
今後日本の政局や北朝鮮問題についての論考は下記ブログで掲載していきます。

「お金の生み方と配り方を変えれば 暮らしが変わります」

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