新・暮らしの経済手帖 ~時評編~

わたしたちの暮らしを大切にするための経済解説サイトを目指して開設しました。こちらは時評編で基礎知識編もあります。

希代のペテン師・ジョン・ローがつくったミシピッピ会社バブルとその崩壊

前回の記事「世界史上初のハイパーインフレ?フランス革命のときのアッシニア紙幣 」はフランス革命後に発生したハイパーインフレについて述べました。これは世界史上初のハイパーインフレと云われていますが、その前を遡ってみてもひどいインフレに見舞われ、庶民の生活を苦しめた記録があります。フランス革命が起こる直接的原因もやはり食糧難や物価高騰です。

それともうひとつ貨幣は金貨や銀貨などの正貨だけではなく、それらや土地ならびに貴金属類などの資産を担保にした証券や借用書・預かり証も含まれます。いま我々が日頃遣っている紙幣は後者となり、日本の場合「日本銀行券」にあたります。そういう観点でみますと今回お話するフランス革命前に起きたジョン・ローによるミシピッピバブルも一種のハイパーインフレと見做すことができるでしょう。本当は「バブルと恐慌の発生 」編で取り上げるべきことかも知れませんが。

ジョン・ロー
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それではまずジョン・ローが登場する前のブルボン王朝・ルイ14世の話から入っていきます。
ルイ14世は18世紀に絶対王政でフランスを治めており、太陽王と呼ばれたのですが、すざましい浪費家でした。
国内最高の造園家、画家、家具職人を集め巨費を投じてベルサイユ宮殿を建造し、世界中から芸術作品を買い漁ってきました。彼はかなりの美食家で数百人の料理人を使って毎日の食事を作らせていたとも云われています。ルイ14世だけではなく役人や貴族たちもそれにつられるかのように贅沢三昧の優雅な放蕩生活を送っていました。賄賂が横行して役人の腐敗もひどかったです。
さらにルイ14世は植民地拡大のためにあちこちの国に戦争をしかけております。こんな調子だったのでフランスの国家財政は火の車です。

その一方で庶民の暮らしは日々の食糧も満足に得られず、その上に重税が圧し掛かっていました。王朝や貴族・役人に対する怒りや不信はかなりのもので、これがフランス革命へとつながっていったことは言うまでもありません。

ルイ15世の代になったときのフランス国家財政は破綻寸前でした。歳入が1億4500万リーブルであるにも関わらず累積債務は30億リーブル。歳入と歳出を差し引いた額は300万リーブルだけしかありません。

ルイ15世は人々から強制的に金貨や銀貨をかき集め、他の金属を1/4混ぜ合わせ純度を薄めて鋳造し直すようなことを数回以上に渡って行います。このような”悪貨”は信用が下がりインフレを促します。民衆は露骨に王朝に対し反発するようになり、あちこちで暴動が発生しました。

そこへ現れたのがジョン・ローです。彼はスコットランド出身で家は金細工職人をしつつ金融業へと手を広げたゴールドスミスでした。ここで思い出して頂きたいのは「どうして借金からお金が生まれる制度ができてしまったのか? 」という記事で紹介したアニメ「お金ができる仕組み 銀行の詐欺システム money as dept」です。


ゴールドスミスは金という貴金属を扱う商売柄、堅牢な金庫を持っていたために、人々の財産を預かる貸金庫屋を始めだし、さらに金貸し業をやり出したり証券を発行するといったことも行っていました。いまの市中銀行が行っている融資によって新しいお金を生む信用創造の原型といえるものです。ジョン・ローはそういうことをやっていた血筋の人間でした。若いときはプロギャンブラーとして生活をしており、女を奪うために決闘をして相手を殺してしまうようなことまでしております。

野心家のジョン・ローはスコットランドを出て海外を放浪しながら、自分を採りたててくれる主君を探し求めていました。そこで出会ったのが財政難に苦しんでいたルイ15世だったというわけです。

ジョン・ローはルイ15世に硬貨だけではなく紙幣もつかうことを進言し、さらにフランス政府公認の王立銀行「ロー・アンド・カンパニー」を設立も頼み込みました。これは今で言う中央銀行日本銀行アメリカのFRB、EUのECBと同じです。ここまで来るともう完璧に今と同じ信用貨幣制度ですね。

ローは摂政の許可を得て金貨や銀貨といつでも交換できるという王立銀行券を発行します。それは日本銀行券などと同じもので紙幣に値するものです。人々はこの王立銀行券で納税も可能となります。

上で述べたようにフランス王朝が発行した金貨や銀貨・国債は価値がものすごく崩れていたのですが、面白いことにローが発行した証券(=王立銀行券)は発行時の価値を維持していました。つまりそれは正貨より安定的で高い価値を得て、信頼できる紙幣として市中に流通させることにローは成功したのです。このおかげでフランスの民衆は安心して商取引ができるようになりました。ジョン・ローは宮廷だけではなく国民に至るまでその才能を高く評価され、名声を得ました。

ところが・・・・・

ローは実際に人々から預かった金貨・銀貨の量を超える証券=王立銀行券を発行しておりました。やったことは「お金ができる仕組み 銀行の詐欺システム money as dept」に登場したゴールドスミスと同じです。ローは当初預かった金貨・銀貨を超える量の証券=王立銀行券発行を禁じていましたが、ルイ15世や摂政たちから圧力をかけられ、王立銀行券の濫発を始めだしたのです。当然このことが人々にバレたら取り付け騒ぎが起きます。おまけに巨額の政府の債務償還も待ち受けています。

そこでローが考え出したのはミシピッピ計画という大風呂敷を広げて、その開発会社の株価を吊り上げ、その収益で国債の償還を計るという策でした。日本ですとかつてバブル時代に高騰したNTT株の売却益で国家財政の補填をしようとした考えと似ています。
ローはまずミシピッピ会社という架空の貿易会社を設立し株を発行します。そして彼は人々に「ミシピッピには金銀や財宝が山ほど眠っている」とか「貿易で稼ぎまくれる」というホラ話を人々に吹き込み信じ込ませました。彼のカリスマ性に騙された人々はミシピッピ会社の株を我こそはと買い求め、この会社の株価は天井知らずで上昇します。

ミシピッピ会社は王朝からあらゆる特権を与えてもらい、日本でいうと専売公社(→JT日本たばこ)と造幣局、徴税を行う国税庁、そして中央銀行=日銀を合体させたような組織になっていきました。

大人気のミシピッピ会社株と国債を交換するという形でローは国債の買受を始め出します。国債の買受がどんどん進めていくことによって市中に対する政府の負債を無くしてしまうという発想でした。ミシピッピ会社というペーパーカンパニーですのでその株も所詮はただの紙切れです。これを国債保有者に握らせてドロンしてしまおうと考えました。

ローは大人気のミシピッピ会社の株の発行をさらに進めます。それだけではなく彼は株購入希望者に対し分割ローンや株を担保にしたお金の融資まではじめたのです。となってくるとさらに現金である王立銀行券を刷り増ししないといけません。「バブル経済と恐慌の発生」編へ 」で述べたような信用膨張が急速に加速し、貨幣の発行量もうんと殖えます。

しかしこの王立銀行券は元々金・銀との兌換ができる紙幣として発行されたものです。本来交換にいつでも応じられるようそれに見合う金や銀を用意しておかないといけないのですが、ローが発行した王立銀行券は実際の金・銀よりはるかに多い量を発行しています。取り付け騒ぎが起きかねない危険性を高等法院が警告していたにも関わらずローは新しい銀行券を発行し続けました。

というわけでローが仕掛けたミシピッピ株バブルは非常に危いものでしたが、フランス全土にバブル好景気をもたらし、人々の生活はぐんと良くなりました。重税と食糧難に苦しめられていたルイ14世の代に比べ雲泥の差です。パリの街は高価な美術品や工芸品・高級家具・高級衣料品・高級食材を売る店で溢れ、一部の特権階級だけではなく、中流階級の人々もそれを買い求めることができました。ローの人気とカリスマ性はさらに高まります。1720年頃まではこれですべてうまく回っていました。

ところがミシピッピ株を売らないことに怒ったある貴族が自分の持つ王立銀行券をすべて金貨・銀貨に兌換してしまってから信用膨張の綻びが出始めます。異常なミシピッピ株や王立銀行券の濫発を不審に思っていた人たちがその時期から雪崩のごとく金や銀への換金を始め出しました。取り付け騒ぎの発生です。

ローは下流の貧困者に金鉱発掘の工具を持たせてミシピッピ行きの船に乗せ、ミシピッピ計画が実行されているかに見せかける偽装工作をはじめました。それでも事態の収拾がつかなくなります。

そしてついにミシピッピ株の大暴落と王立銀行券の兌換停止というカタルシスを迎えます。
金銀と交換できなくなった王立銀行券は価値を失い、誰も受け取ってもらえないので、この銀行券で何も買えないようになりました。紙クズ同然となります。おまけに法律で国民は金貨や銀貨を500リーブル以上所有することを禁止されます。経済活動がマヒしてしまったことは言うまでもありません。多くの人々は財産を失いました。

この結果ローは財務省をクビにされ、全財産を没収されます。命の危険があったのでローは無一文のまま国外へ逃亡せざる得なくなりました。

フランスの王侯貴族たちの腐敗政治はこの後も続き、ミシピッピバブル崩壊から60年後にフランス革命の時を迎えます。

今回取り上げたのは信用膨張によるバブル発生とその崩壊の事例ですが、ローが発行した王立銀行券が最後無価値になってしまったことはハイパーインフレ発生と同じメカニズムと同じではないかと思いました。岩井克人教授などが説明するようにハイパーインフレは人々が貨幣を貨幣だと信用できなくなることで発生するものだと捉えればローが犯した失敗も同類のものだということになります。

今回書きました記事は以下のサイト記事を参考にさせていただきました。
ペペラといっしょ様
 ペペラのバブル物語〜経済&金融バブルをわかり易く解説〜 / 「ミシシッピバブルをわかりやすく解説


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