前回記事は旧ソ連とロシアの話を中心とした「旧社会主義国家の崩壊で発生したハイパーインフレ 」でした。今回も社会主義政権の国で起きたハイパーインフレの事例でジンバブエです。昨年末に40年の長きに渡ってこの国の権力者として居座っていたロバート・ムカベ大統領とその一族が軍のクーデターによって失脚しました。
19世紀後半から長らく、イギリスの植民地であったジンバブエが独立したのは1980年のことです。ムカベは反植民地闘争に関わっていた一人で、国民から英雄視されていました。政権獲得直後のムガベは白人の協力も得て順調に経済運営を行い、教育や医療に資金を充てたことで低い乳児死亡率とアフリカ最高の識字率を達成するという偉業を成し遂げます。このことは「ジンバブエの奇跡」として絶賛されました。
しかし時が経つにつれムガベは独裁者の顔を見せ始めます。彼は若い頃マルクス主義に傾倒し、毛沢東思想やソ連型社会主義・共産主義に賛同していたのですが、スターリンや毛沢東などといった他の社会主義・共産主義者同様に凶暴性を剥き出しにしはじめます。1980年代より、北朝鮮による訓練を受けた軍の特殊部隊が、野党の支持者、数千人を虐殺したとされています。また、治安当局によるジャーナリストや野党の政治家の拘束や拷問も繰り返されました。
彼が政権を握った当初はまだ白人に対し融和的だったのですが、2000年あたりから白人経営の農場を強制収用し、黒人農民に再分配するという「ファスト・トラック」を断行します。白人地主を追っ払ったのはいいのですがが、彼らが持っていた農業技術が失われ、「アフリカのパンかご」とまでいわれた高い農業生産力や効率がガタンと落ち込みます。それによって食糧危機と第二次世界大戦後において世界最悪となるハイパーインフレを引き起こしたのです。毛沢東の大躍進政策とまったく同じ失敗です。
白人資本が国外逃避したことで為替レートは大きく下落します。これによってガソリンや電力、工業用部品、足りなくなった食糧などの輸入コストが上昇します。
ジンバブエ政府は激しくなっていくインフレを物価統制で抑え込もうとします。2007年に政府が強制的に物価を半額に引き下げる政策をやるのですが、これによって値段が高いときに仕入れをしていた企業は政府の命令によって強引に安い値段で売らされることになり、採算割れして赤字倒産します。
ムガベは金の卵を産む鶏を潰しまくるようなことばかりやらかしたのです。これもまた多くの社会主義国家がやらかした典型的な失敗です。多くの社会主義者や共産主義者は資本や富裕層と思われる人間から富や財を収奪することしか考えず、産業を育成することができません。ムガベもその中の一人でした。
自国産業をどんどん崩壊させていったので当然人々は働き場を失います。失業率は9割にも達しました。歳入はどんどん減るのに歳出だけはぶくぶく増大していきます。ジンバブエ政府は背に腹を換えられず、自国通貨のジンバブエドルを大量に刷りまくって財源を補おうとするのですが、当然のことながらモノやサービスの裏付けがないマネーは誰からも信用されず大暴落・・・・・紙屑になっていきます。
祖国独立の英雄だったはずのムガベは国民の多くが貧困や飢餓に苦しんでいるにも関わらず、巨額の富を蓄財し、豪邸を建て贅沢三昧の生活を送っていました。ムガベの妻であるグレースも非常に勝気な性格でグッチなどのブランド装飾品を買い漁り、おまけにイギリスのカメラマンを指輪のついた手で殴打し暴行を加えるといった蛮行もしでかしています。アフリカで最も嫌われたファーストレディーです。
民衆の怒りは積もりに積もって、ムガベは権力の座から引きずり降ろされました。
社会主義国家や統制経済は健全な産業の活発化や育成ができないために、モノやサービスの生産が衰え不足します。だからこれまで起きたハイパーインフレの56例のうち、半数が共産・社会主義国家が占めることになってしまうのです。
次回は南米で起きた事例を取りあげる予定です。
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