前回の記事「「リフレーション政策でハイパーインフレ」なんてバカげている 」では量的緩和や日銀国債買受といった財政ファイナンスといった手法でハイパーインフレを起こすなどという話は荒唐無稽もいいところだと話しました。
戦時中に日本の軍部が戦時国債や日銀国債引受といった財政ファイナンスを濫用して、軍事予算を膨張させたために終戦後悪性インフレを招いたのですが、それは金融政策を無視して財政を肥大化させたことが悪かったのです。金融政策はモノやサービスといった財と貨幣の供給・需要のバランスをとるもので、戦時中の軍部はそれを完全に無視していました。リフレーション政策の場合はその調和をとることが目的です。
そういう意味で「ヘリマネ」という言葉を聞いたとたん、脊髄反射のごとく「ハイパーインフレが起きる」などという人は戦時中の軍部と実は変わらないのです。モノやサービスと貨幣の調和が数量的に把握できないという点で一緒です。
いま現在の日本の経済状況でハイパーインフレを引き起こす可能性ですが、極めて低いでしょう。
財務省や政治家・経済学者・評論家たちが「日本の国家財政は危機的状況にある」「国の借金は1000兆円超え」などと煽っていますが、これまで述べてきたように彼らはバランスシートの資産側を隠して負債側だけを見せて「こんなに借金がある」と言ってきております。おかしな話です。政府が保有している資産は600兆円以上に上ります。日銀を除く政府連結ベースでみると負債が1400兆円以上になりますが、資産も900兆円以上あります。そこへ日銀の資産も加えますと日本政府の純債務はうんと少なくなります。
話は「税と国家財政問題 」編で詳しく触れ直す予定ですが、日本の国家財政状況はあまりヒステリックに騒ぎ立てる必要がないことだけは覚えておいてください。金利上昇率がGDPの上昇率を大きく上回っていった場合やプライマリーバランスの赤字幅がどんどん拡大していくような状況でなければ国家財政破綻のリスクは少ないと見ていいでしょう。いまの安倍政権ではプライマリーバランスの赤字が縮小傾向です。(風船にどんどん空気を送り続けるといずれ風船玉は割れるが、それが増えなければ割れる可能性が低い)
これまで「ハイパーインフレについて」編を綴ってきて浮かびあがってきたハイパーインフレ発生要因をあげると次のようになります。
1 人・物資が枯渇し、生産や供給が著しく劣化してしまっている。
2 他国からの侵略や革命・クーデターなどによって貨幣の発行主体である政府の存続が危ぶまれる。(貨幣が無価値化する可能性)
3 他国に売却できる財を生産・供給する能力がないにも関わらず、政府が外国資本からの負債を膨張させ、他国や国際市場からの信認を失ってしまった場合
4 生産や供給が衰えているにも関わらず、負債の膨張や貨幣を濫発した場合
現在の日本を見ますと
1のモノやサービスといった生産・供給能力はかなり高い方です。ほしいと思ったモノやサービスは基本的にお金さえ出せばいつでも手に入ります。財は十分あります。
3については中南米諸国でよく見られた事例ですが、日本の場合海外からの負債を多く抱えるどころか、世界でもトップクラスの債権保有国で349兆円以上も対外資産を持っています。国債も国内で賄えています。中南米みたいに金融をアメリカやグローバル金融資本に依存していたというわけではありません。また円の信認も極めて強く、有事の際に円買いが進むぐらいです。
4については上で説明しました。
ということで今の日本の経済状況でハイパーインフレを懸念する必要はほとんどありません。
しかしながら強いていうならばデフレ脱却に失敗し、日本経済の劣化が再び進行してしまうことによって、悪いインフレが発生する可能性がなくもないかも知れません。財務省や金融機関がらみのエコノミストが煽っているように国家財政悪化がそれを招くというよりも、経済力の衰弱がそれを招くのです。
アルゼンチンのケースを思い出してほしいのですが、この国で起きたカルロス・メネム政権後の悪性インフレと同じく、不釣り合いな通貨高や強すぎる金融引き締めによって自国の経済力の劣化や国際競争力の低下が進行し、逆に政府の財政悪化がひどくなってしまうことで、結果的にひどいインフレを招いています。
メネム政権のときの状況は日本の白川日銀総裁時代を想起させるようなもので、ドルペッグの固定相場と為替高維持に固執し、そのための金利引き上げで国内の投資を衰えさせたり、ブラジルに輸出競争で負けてしまったりします。当時のアルゼンチンは11%にも及ぶマイナス成長への転落と失業率20%という事態を生み、国民の4割が貧困層となる悲惨な状況を招きます。
もし仮にこれまで進められてきたリフレーション政策が安倍政権の崩壊やレームダック化で頓挫した場合、再び企業の業績悪化や雇用の不安定化といった由々しき事態を招き、産業の衰退が再び加速してしまう恐れがあります。これが税収不足と企業への補助金や社会保障費などの歳出増大を招き、ほんとうに国家財政がどんどん悪化していくのです。これまでの「失われた20年」で有数の優良企業と言われた会社が破産危機に陥ったり外資に吸収されていっています。IT技術は日本より中国の方が目覚ましく進歩している状況で、いずれこの国は中国に頭を下げて低収益の仕事をわけてもらうしかないといった構図になるかも知れません。
国家財政のことにしか目配せできないのは官僚的思考です。彼らは自分でモノやサービスを売って稼ぐという能力は低いのです。借金をするなというよりもこの国の稼ぐ力が失われて借金の返済能力が無くなってしまうことを恐れるべきです。民間企業はたくさん借金をしますが、それ以上に稼ぐ力を持っています。愚かな金融引き締めでそれを削ぐようなことは愚かなことでしょう。
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