新・暮らしの経済手帖 ~時評編~

わたしたちの暮らしを大切にするための経済解説サイトを目指して開設しました。こちらは時評編で基礎知識編もあります。

財務官僚が煽る国家財政危機の嘘 その1 バランスシートから

「日本の国家財政は危機的状況にある」

これは20年以上も前、いやその前からずっと大蔵官僚をはじめ、政治家や学者、マスコミ等を通じて国民に吹き込まれ続けました。1995年11月の村山富市内閣時代に、当時の武村正義大蔵大臣の口より「財政危機宣言」が出されています。その後小渕恵三政権時代の1998年あたりから毎年のように「~年国家財政破綻」とか「日本経済沈没」といったタイトルの「ノストラダムス本」が刊行されるようになります。「日本の国家財政が危ない」という意識はほとんどの国民に植え付けられているといっていいでしょう。

しかしながら「そのようなことはない」という経済学者もいます。何も知らない人だと「ほんとうに日本の国家財政って大丈夫なの?」と不安に思うことでしょう。
日本の国家財政危機論にはいくつかのトリックがありますので、それをいくつか取り上げていきます。まずは手始めにバランスシート(貸借対照表)から財政状況を見ることから入っていきます。

私自身プロの会計士ではないので簡略的な説明しかできませんが、複式簿記の場合ですと左側に借方・右側に貸方となります。貸借対照表(バランスシート)の資産項目は左で負債項目は右にきます。


財務官僚のトリックはこの貸借対照表の資産側を隠して、負債の方だけ見せることからはじまります。
「国の借金1100兆円」というのがそれです。

これは国家財政の累積債務=負債の積み重ねが1000兆円もあるということですが、バランスシートの見方を知っている人ですと「負債は1100兆円だというけど、資産側はどうなっているの?」となってきます。大蔵省~財務省はこれをなかなか公表しようとしてきませんでした。ここからおかしいのです。
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簡素なBS表ですが、財務省がまとめた平成27年度の「国の財務書類」を元に作成したものです。いちばん左側が政府だけの貸借対照表です。負債が1193兆円もありますが、資産は672兆円もあります。しかも換金しやすい金融資産が多くを占めます。差し引きすれば残りの負債額は520兆円ほどとなります。これでもかなり大きな純負債額ですが1100兆円からぐんと額は小さくなりました。

「国の借金1100兆円」というのはグロスの負債総額が1100兆円ということで、そこから資産を差し引いたネットの負債額ではありません。ネットでみた債務残高対GDP比は約100%。アメリカは80%ほど、イギリスでも79%。日本は少し悪いかな程度となります。

企業も多くは自前の持ち金だけではなく銀行融資や社債発行などによって資金を調達するのが当たり前となっています。つまりは最初に借金ありきです。どんな優良企業であっても負債は持っています。国も同じで税金をかき集めてというよりもまずは国債発行で財源を調達するという形になっています。国の財政や企業の経営健全度は負債がいくらあるかではなく、資産と負債のバランスをみながら判断しないといけないのです。

それと話が少し脱線しますが、国の会計は一般会計と年金保険料や労働保険、自動車関連(自動車安全特別会計)の他に外国為替資金、財政投融資といった各省庁が持つ特別会計があります。その予算規模が一般会計のなんと2倍以上もあります。

この特別会計がまた曲者で上のサイトに拠れば平成27年度の一般会計+特別会計の歳入は246.4兆円で歳出は244.6兆円で、僅かですが歳入の方が上回っています。そして特別会計には累計16.7兆円の剰余金が存在しており、小泉純一郎政権時代の財務大臣塩川正十郎氏が「母屋(一般会計)で粥をすすっているときに、離れ(特別会計)ですき焼きを食っている」と評したことがあります。
ところが以前この特別会計の負債側の額だけ見せて「日本の本当の債務は2,000兆円規模!大前研一の株式・資産形成 ...」などと言っていた人がいました。この人は基本的なバランスシートの見方すらわかっていないのでしょうか?

話を元に戻しますと、国の財務状況は政府単独だけではなく、その関連団体の会計や中央銀行の併せて貸借をみないといけません。同じく平成27年度の場合関連団体を含めた連結決算は負債側は1424兆円で資産側が959兆円で純負債が460兆円ほどになります。
そして日銀も統合政府として連結しますと政府が発行した国債と日銀が買い取った国債の額は互いに相殺されます。日銀が買い受けた国債は349兆円で、政府側の負債からその分を差し引きできることになります。
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日銀は市中に対し349兆円の負債を持つことになるのですが、それはわれわれが遣っている紙幣=日本銀行券という形に変わります。これは負債であることに違いなのですが、無利息で実質債務性がないものです。
アベノミクスの量的質的緩和政策を行うために、日銀は市中にある国債をどんどん買い取って現金化したことは既にここのサイトでも説明しました。これは夫がつくった借金の証文を奥さんが債権者から買い取って借金を返済したようなものだと述べております。参考「リフレーション政策と国家財政状況改善効果」
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このサイトの「ほとんどの人が知らないお金が生まれる仕組み 」でも述べましたが、お金は負債がないと生まれないという性格上、どこかで誰かがそれを担わないといけません。それを政府や日銀が担っていると見るべきです。(もちろん無制限に負債や貨幣を殖やしていいということをこちらで主張するつもりはありません)

それでも政府+日銀が市中に債務を背負っているじゃないかと思う人がいるかも知れませんが、もうひとつ政府が持つ見えない資産があります。それは徴税権というものです。

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 図説作成 高橋洋一

徴税権とは国が国民や企業から税を徴収できる見込みや権利を資産として見做したものです。
この額は毎年国が徴収できる税収の25倍と計算されます。日本の場合は少なく見積もっても30兆円(2017年度は57.7兆円の税収)でその25倍となると750兆円もの徴税権を得ています。

企業でもロイヤリティー(看板代)が資産として見なされることがあります。その会社のブランドを使うことにより一定以上の収益が見込められれば資産に値するという考えですね。かつて勝プロダクションが所有し、浅草ロック座の元オーナーの斎藤智恵子ママが買い戻した「座頭市」の映像化権も3億円ついていたようです。(千葉真一氏がその映像化権を智恵子ママから買おうとしていたらしい。後に智恵子ママはビートたけしに「座頭市」を撮らせた。)

最後に海外の投資家たちが日本の財政状況をどう見ているのかについて述べてみましょう。それはクレジット・デフォルト・スワップCDS)のプレミアム(保険料率)を見ると確認できます。これが日本の財政破綻の発生確率となり、それが1%にも満たないのです。2012年には1%でしたが、アベノミクス効果で近年どんどん下がっているのです。景気回復で財政破綻の確率が減ったということです。

~お知らせ~
今後日本の政局や北朝鮮問題についての論考は下記ブログで掲載していきます。

「お金の生み方と配り方を変えれば 暮らしが変わります」

サイト管理人 凡人オヤマダ ツイッター https://twitter.com/aindanet
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