新・暮らしの経済手帖 ~時評編~

わたしたちの暮らしを大切にするための経済解説サイトを目指して開設しました。こちらは時評編で基礎知識編もあります。

緊縮財政が招いた財政膨張の皮肉と流動性の罠の発生

前回記事「増税と緊縮財政が余計に財政悪化を進める謎 」の続編的内容です。軽くその内容をおさらいしますと、日本の国家財政がみるみると悪化していったのは平成の世に入って間もなくのことです。平成元年(1989年1)12月に三重野康日銀総裁に就任し、「バブル退治」と称して強烈な金融引き締めを行いました。

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これが元で銀行融資の一気に萎み、資金不足で企業の投資が詰まっていきます。
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その後バブル景気が弾けて日本経済は「失われた20年(四半世紀)」へと突入します。さらに傷口へ塩を摺込むように橋本龍太郎政権が消費税率5%引き上げと歳出削減を行って、その後デフレスパイラルに陥っていきます。
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日本の財政を考える - 財務省」にあったグラフですが

三重野の金融極右政策によって企業の業績が一気に悪化し、所得税収や法人税収が落ち込んだことは容易に想像できます。こうした状況に大蔵官僚たちは慌てふためいたのでしょう。大蔵官僚たちは村山富市政権時代の大蔵大臣・武村正義氏を騙して「財政危機宣言」をさせ、その後の橋本龍太郎政権に増税と緊縮財政を敷かせました。

ところが消費税率5%引き上げと緊縮財政の悪影響はかなり重く響いてしまい、バブル崩壊から立ち直りかけた日本経済を再び撃沈させます。橋本内閣は慌てて企業や高所得者向けを中心とした減税を行いましたが、追い付かず、経済状況の悪化が進行していきます。

さらにもうひとつ重要なのは消費税率5%引き上げとほぼ同時期に、長らく日本の雇用慣行として定着していた終身雇用制度が破綻し、非正規雇用の拡大と事実上の賃下げがはじまります。これによって若年層を中心とする勤労者の所得が低下し不安定化しました。このことは前回申しましたように社会保険料収入が伸びなくなり、赤字が増大して一般財源まで傷めることになっていきます。
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もうひとつ若年層を中心とした現役世代の所得低減と不安定化がもたらした災厄は慢性的な物価下落を招き、これが元で流動性の罠を引き起こしたことです。「お金が貯蓄として死蔵されてしまう流動性の罠 その2  」でフィッシャー方程式(実質金利名目金利−物価指数)を使って説明しましたように、連続的な物価下落は企業の投資意欲を失わせました。これがさらなる雇用削減や就労者に支払う賃金の低下を招きます。

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野口旭先生が「 「雇用が回復しても賃金が上がらない理由  」という記事で使っていたグラフです。

1990年代末期には日銀の金利はゼロ金利にまで達してしまいましたが、流動性の罠に陥ってしまったために失効してしまいます。流動性の罠に陥ると金融緩和は効かなくなり、財政政策のみが有効であるということは経済学の教科書にもよく書かれていることですが、恐ろしいことに日本が陥った流動性の罠は財政政策まで失効してしまうほどひどいものだった可能性があります。

増税と緊縮財政の猛批判を受けて橋本自民党政権は選挙で惨敗し、小渕恵三氏に政権を譲りました。小渕総理は「世界一の借金王」と自嘲しながら、宮澤喜一財務大臣にかなり思い切った財政拡大政策を行わせます。景気を浮揚させられそうなことだったら何でもやるといった勢いです。しかし宮澤氏が後年立花隆氏に述べたようにこの財政政策は「ヘドロにコンクリートパイルを打ち込むようなものだった」というぐらい効果が薄かったのです。このあたりからPB赤字幅が大きくなり国家財政の累積債務が雪だるま式に増えてしまいました。

テボドン東京さんが面白いツイートをしております。
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このツイートで述べられていることが現実に発生したのが1990年代末期の日本だったと私は解釈します。大型の財政出動で市中に大量のマネーを送り込んでもさほど投資や消費の向上に結びつかず、巨額の累積債務だけが積み重なっていくという状況で、ケインズが生前していた予想をはるかに超える金融政策も財政政策も効かない深刻な流動性の罠です。もし仮にケインズが1990年代末の日本をみたら何ということでしょうか?

「20XX年 国家財政破綻」とか「国債暴落」「円が紙屑に」などというタイトルがついた俗称「ノストラダムス本」や「ホラー本」といった類の書物が毎年のように刊行されるようになったは1990年代末期からです。
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流動性の罠脱出と債務も膨張を防ぐために日銀の審議委員の一人だった中原伸之氏がジョン・テイラー教授の助言に従い量的緩和政策導入を進言し、実行されました。

小泉内閣時代に景気の改善と増税なき財政再建が進められていきます。2006年に量的緩和政策は与謝野馨など財務省色の強い政治家の圧力によって中断させられてしまいましたが、賃金が上昇していくまで緩和が続けられていたならばリーマンショックによる打撃が小さかったかも知れません。

今回は日銀の金融無策と増税・緊縮財政ならびに財界の労働者シバキが異常なデフレスパイラル流動性の罠を引き起こし、このことが歳入縮小と歳出の膨張を招くという皮肉な事態を招いたことを述べました。
また改めて述べますが金融政策を含めたマクロ経済政策の理論や手法を政治家や財務官僚たちが理解していないが故に財政悪化をよりひどくしていったのです

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「お金の生み方と配り方を変えれば 暮らしが変わります」

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