新・暮らしの経済手帖 ~時評編~

わたしたちの暮らしを大切にするための経済解説サイトを目指して開設しました。こちらは時評編で基礎知識編もあります。

施設に紛れ込むブラック介護職員・看護師 ~病院や介護施設で起きる暴力・殺人 その3~

「病院や介護施設で起きる暴力・殺人」の3回目で、前回「介護絶望工場 ~病院や介護福祉施設内で起きる暴力・殺人 その2~ 」は収容主義・管理主義の施設経営が職員の精神を蝕む構造について述べました。今回は逆に元々人格的・能力的に著しい問題を抱えた人間が介護職に就いてしまい、施設全体を病んだ職場にしてしまったり潰してしまう事例について取り上げます。この問題は介護デイサービス事業の経営に携わった経験を持つルポライターの中村淳彦氏が「崩壊する介護現場」や「ルポ中年童貞」で述べられています。
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参考記事

この二つの本によれば中村氏が介護施設を経営していた時代に世間の常識を著しく逸脱したとんでもない職員が何人も入職してきたようです。仕事をまともに憶えられないどころか、利用者に暴言や虐待を行ったり、パワハラで新しい職員を潰したりしたそうです。そうした職員の行状を箇条書きしていきますと

トンデモ職員1
徘徊する利用者に対し「このやろう!おとなしく座ってやがれ!」と怒鳴ると共に、この利用者を投げ飛ばし羽交い絞め。食事介助の際も認知症高齢者の口に食べ物を詰め込んだり、利用者に威圧的な態度をとるなど、非常に乱暴。感情の抑制ができずキレやすい。別の職員が注意しても態度や行動を改めようとしない。
中村氏は悩んでこの男を解雇したが、その後ストーカー行為をはじめて中村氏とその家族に脅迫や嫌がらせを続け、裁判沙汰に。

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糖尿病で肥満体質。両親から過保護というほど溺愛され育つが、子どもの頃から勉強も運動もできなかった。漢字も書けない。高校に進学せずに中卒で工場や倉庫などの仕事を転々とする。2009年極度の不景気による派遣切りで失職。ハローワークの相談員から介護ヘルパー2級(現・初任者研修)の資格取得講座を受けることを薦められる。資格取得後に仕事が楽そうで上下の規律も厳しくなさそうな新規の小規模介護施設に入職。
しかし彼は介護経過表すらまともに書けず、2行の文章を書くのに1時間以上もかかってしまい、他の職員が彼の代わりに経過表を書くことに。さらに彼は肥満体質で何事も動きが遅く,要領も悪いため,送迎やレクリエーション,入浴や食事介助,身体介助などの仕事をするときにも,常に誰かに助けてもらっていたが、やってもらうのが当たり前だという態度。
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入職一年後に彼は新人パートに仕事を教える役を与えられるが、新人パートにパワハラを行い、次々と潰し辞めさせてしまう。
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介護ヘルパー2級の資格は講座を受講すれば誰でも取得できる事実上無資格に近いものに過ぎないが、この男は高度な資格を取ったと勘違いし、自尊心だけが肥大化してしまっている。

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女性利用者の入浴介護を行っていたが、そこでセクハラまがいの行動を行う。
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女性の介護福祉士であるが売春と横領の騒動を近隣で起こしたり、非常勤で働く介護職員の不倫問題でトラブルになったりする。

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やはり女性介護福祉士で、一見仕事ができて真面目に見えたが、ある日突然施設に暴力団員が現れ、この女性職員がつくった借金の取り立てをしにきたという。ここでこの女性職員が覚せい剤を使用していることが発覚。この女性職員は突然失踪する。

といったものです。

これは中村氏が経営していた施設に限ったことではなく、他の施設でもかなり劣悪な人材が多く流れ込んでいるようです。中村氏はそうなってしまった原因は介護業界の慢性的な人材不足にあると見ています。

これまでこのブログでも説明してきましたように1990年代から地方自治体などの公共団体もしくは社会福祉法人に認可が限られていた福祉施設の運営主体が、介護保険法によって通所型の施設や訪問介護サービス等は業種を問わず誰でも参入が可能になりました。これを機に介護施設の開所が相次ぎますが、肉体的にも精神的にもキツい上に低報酬である介護職員の不足がさらに顕著になっていきます。介護職の有効求人倍率は全国平均で2倍を超えており、現場がまわっていきません。
そのために施設は一般の企業等ではまともに勤められないような能力・人格共に劣悪な人材でも、無理に雇い入れてしまい、その結果介護の質がどんどん低下していったり、いじめやパワハラ・セクハラが蔓延する醜悪な職場環境を生み出すことになります。さらに悪貨が良貨を駆逐するように他業種でも勤まるような良質な人材は介護業界を捨て転職していき、悪い人材だけが残ってしまうという悪循環を繰り返します。

慢性的な介護業界の人材不足は政治・行政側も気づきますが、弥縫策の対策しか打ちません。
国はリーマンショックが起きたときに「重点分野雇用創造事業」として、派遣切りにあった失業者にヘルパー資格を取らせて介護業界に押しこみました。
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それだけではなくホームレスや刑務所の元受刑者まで介護職に就けさせようとします。今、アベノミクスが奏功してどこの業界も人手不足になってきていますが、介護業界はさらに人材不足となってきました。外国人労働者の受け入れも検討されています。
国の対応策に感ずるものは介護職員の量を増やすことだけで、質は二の次にしてしまっていることです。政治家・官僚の頭の中にあるのは「介護なんて誰でもできる仕事だから、失業者やホームレス、元受刑者、外国人でもいいじゃないか」という安直な発想ではないでしょうか。
中村氏はこうした国の姿勢が介護職員の質を大きく劣化させたと批判します。。

中村氏以外の記事も取り上げていきますとAERAでも介護現場の歪な職場環境について記事を書いています。
AERA 林壮一氏

上のヘルパー2級資格取得講座の記事でもやはり中村氏が報告されているように「老人」「枕」「有無」といった小学生レベルのものさえ読めない受講者がいたと述べられています。現場実習先の施設の職員たちは転職を繰り返している人がほとんどで、やはり漢字を知らず、新聞など読まないタイプがほとんどだったようです。

下の記事は40代の女性介護職員を取材した記事ですが、新人時代に利用者についての基本情報を書かれた書類を隠されたとか、わからないことを質問しても教えてもらえなかった、男性職員と肉体関係があるなどと根も葉もない噂話をされたなど陰湿な他職員からのいじめを受けたと記者に答えています。
この女性職員は「正直、他の仕事に就けない人が堕ちてくる業界だと感じざるを得ません。パワハラが多いのは、人生をちゃんと生きていないからでしょう。歪んでいる人が多く、屈折を吐き出す場所を探しているんじゃないかと思いますね」と話します。「介護現場のヤンキー化」というべき現象でしょう。

そこへさらに財務省主導の社会保障費削減が追い打ちをかけ、介護職員の報酬を切り下げられてしまうなどということが起きました。これがトドメとなって職員の離職に歯止めがかからなくなり、多くの中小の介護事業者は事業廃止を決断するに至ります。国の介護行政は支離滅裂といっていいでしょう。

国が介護職員を高い技能と知識を有した専門職として育て上げ、良質かつ合理的な介護サービスを提供していくというビジョンを描き、それに見合った報酬を支払うということをしないと介護業界は崩壊の一途を辿っていくに違いありません。
いや・・・・・介護職員に対してよりも、介護施設の経営者・施設長そのものを教育していかないといけないのではないでしょうか。介護保険法成立によって居酒屋チェーングループや人材派遣会社、損害保険会社、ラーメン屋に至るまで福祉の世界とは無関係だった業界が介護業界に参入してきました。入所者転落死事件が起きたSアミーユ川崎幸町もそうでしたが、介護のことをまったく知らない人間が施設長に立ってしまうようなこともあります。理想や志、介護の現場経験がまったくない経営者や施設長に現場の職員が振り回され、職員はどんどん士気を下げていくことになります。

いま介護現場に携わっている人やその地区に住んでいる人たちに大変失礼な言い方になりますが、いまの国の介護行政は介護現場を方々から流れ者が集まってきたタコ部屋あるいは九州筑豊の炭鉱にあった納屋か飯場のようにしかねません。介護福祉施設がヤンキーのたまり場のようになってしまい、ガラの悪い人間ばかりが職員として残ってしまう恐れがあります。

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質の高い人材が永く安心して勤められる条件をつくっていかないと介護職不足問題は一向に解決することはないでしょう。若い労働力を食い潰すことになりかねません。

~お知らせ~
今後日本の政局や北朝鮮問題についての論考は下記ブログで掲載していきます。

「お金の生み方と配り方を変えれば 暮らしが変わります」

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