新・暮らしの経済手帖 ~時評編~

わたしたちの暮らしを大切にするための経済解説サイトを目指して開設しました。こちらは時評編で基礎知識編もあります。

介護施設経営者ならびに施設長を変えなければ福祉はダメになる

前回「施設に紛れ込むブラック介護職員・看護師 ~病院や介護施設で起きる暴力・殺人 その3~ 」では介護福祉施設に著しく人格に問題があったり、漢字がまともに読めない・書けないなど知性や能力が著しく劣った人物が職員として流れ込んでしまっていることについて話しました。地方の介護施設経営者などが口にしますが、中学・高校時代に不良だったような人が介護職員となり、現場に居座ってしまうという話も入ってきます。介護職員のヤンキー化です。
これは介護業界が負担が重く、長時間労働になりがちでありながら低賃金であるために慢性的な人手不足状態であり、かなり職能が低い人物でも雇わざる得ないし、利用者への虐待や他職員へのいじめ・パワハラなどの行為をやっても簡単に解雇できないという事情が絡んできます。「悪貨が良貨を駆逐する」ように有能な職員がどんどん他業種へ転身・転職し、問題が多い職員だけが業界に残ってしまうという悪循環を繰り返すのです。

こうした介護業界の体質を生んだのは国や行政の無関心や職員の賃金引き下げなど待遇悪化を招く緊縮財政にあることは言うまでもないのですが、福祉を知らない人間が施設経営者や施設長となり、利用者を飼い殺しにしてしまう収容主義的な施設をつくったり、職場環境が荒れたブラック施設にしてしまっていることも大きいかと思います。措置方式時代の社会福祉法人施設でも天下った役人が施設長になっているようなところがあったり、大きな声で言えないような関係者(?)の人間が法人格をとって施設を運営している例もありましたが、介護保険法成立ならびに(新)社会福祉法成立以後はさらに人材派遣会社や居酒屋チェーン、土建屋、ラブホテル経営者、損害保険会社など畑違いの業界が介護福祉事業に参入してきます。
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ここで何度か紹介しました中村淳彦さんもルポライターから転身して介護施設を経営されていたことがあります。

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私は昔のように介護福祉施設の運営を行政機関か社会福祉法人だけに限定しろなどと主張するつもりはありません。そのようなことをやれば急増する介護需要に間に合うだけのサービス供給は不可能になり、介護難民が続出することになります。介護福祉事業者の参入に関する門戸は広く開くべきでしょう。

しかしながら福祉のことはよくわかっていない人間が介護施設の経営に携わってしまうことは決して望ましいことではありません。病院の院長が医師であるように、介護福祉施設の施設長も大学で福祉を学び、なおかつ現場経験が豊富な人間がなるべきではないでしょうか?

前にも紹介した中村淳彦氏が書かれたルポですが、入所者転落殺害事件が起きたSアミーユ川崎幸町でも現場を知り尽くした施設長が別の施設へ転勤し、福祉のことをまったく知らないような人間が新しい施設長に交代してから、職員の士気が失われ、現場が荒れていったことを元職員が証言しています。

あと高齢者介護福祉施設で勤められていた経験を持つ方のブログでも実務経験ゼロ・実質無資格の天下り施設長が現場にもたらす弊害について書かれています。

 和賀英良氏 

施設長が現場が混乱したときに応援に入ろうともしない、職員にトンチンカンな指示を出したり叱責をする、認知症利用者の特性や対応方法を知らないし無関心、職員が改善要望を出しても馬事東風、「利用者様本位のまごころがこもったサービス」などというポエムだけを唱えるといった態度をとっていたら職員が離反してしていき、職員同士もバラバラになって職場が機能不全化していくのは明白です。無政府状態と化した施設はそれぞれの職員が派閥ごとに勝手な現場ルールをつくって、利用者に大きな苦痛や不満を与えたり、虐待を行いはじめるといったことにつながっていったりします。

このサイトで書いた「寝たきり老人をつくってしまう病院や介護福祉施設 」という記事で、西宮市で介護に関わる人たちが集まる「つどい場さくらちゃん」を営む丸尾多重子さんが、ホームヘルパー1級の資格取得のための研修先である特養でみた粗雑な利用者への扱いに憤慨されたことを述べました。

ブックマン社「ばあちゃん、介護施設を間違うと、もっとボケるで」
「許さへん!老人ホームは魚屋か⁉」

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右 丸尾多重子氏

利用者を薬漬けにし、寝たきり状態に追い込んでブロイラーのように飼い殺していく収容主義・管理主義的な特養の実態を丸尾さんや在宅診療医の長尾和宏さんは問題視しておられますが、上に述べたような介護ビジネスの経営者や福祉知らずの施設長がこのような実態を変えようと考えるでしょうか?絶対にありえないでしょう。

ここで私がひとつ提案したいのは介護施設経営者ならびに施設長に社会福祉士の資格取得や現場経験を義務付けることです。

第2種社会福祉事業に参入することは誰でも・どんな事業者でもかまわないという現行の社会福祉法の考え方自体は変更しませんが、介護福祉に関する経験や学識を持たない者には施設の運営をさせないという規制は必要でしょう。病院の院長は医師資格を持っているのが当たり前です。それに近い介護福祉施設の施設長も当然大学で福祉学を学び長い現場経験を持った者であるべきです。上の者が変わらなければ下の者も変わることは絶対にありえません。

介護福祉の世界に関わっている人や機関を分類すると
1 国や地方自治体などの行政機関
2 介護福祉施設経営者ならびに施設長などの幹部職員
3 介護職員や看護師などの現場職員
4 福祉系大学・専門学校
にわかれますが、この4者の歯車がうまく噛み合っていないことは何十年にも及ぶ問題です。このことが介護現場の崩壊につながっています。その歯車を噛み合わせるための第一歩が経営者ならびに施設長に対する資格および現場経験取得の義務付けとなります。
経営者と施設長への資格義務づけ化によって2と3、つまりは経営側と現場職員間の意思疎通の齟齬を解消します。そして4の福祉系大学・専門学校と介護現場が密接な関係を築き上げ、情報交換をしあうことで、両者がより高いレベルのケアを探求し合えることになります。福祉先進国と云われている合理的な北欧圏の福祉サービスやシステムのノウハウを広く、日本の各介護福祉施設へ広めていくといったことを進めるべきでしょう。

次回の予告になりますが、北欧圏の国では高齢者の認知症悪化を食い止めるケアが積極的に行われており、寝たきり老人の発生そのものを抑えています。日本のように重度の要介護者をどんどん増やし、ますますケアの需要が逼迫してしまうようなマッチポンプなことを起こさないようにしています。
日本では丸尾さんや長尾先生が仰るようなブロイラー飼育型の介護が当たり前になってしまい、経営者・施設長・介護職員・行政がそういう状態を改善しようとしません。これではいたずらに多くの勤労者が稼いできたお金と将来のある若い人々の労働力を介護福祉の世界で消耗し続けることにもなります

それを防ぐには国や厚生労働省が「寝たきり高齢者の増加ならびに認知症高齢者の症状悪化を食い止める」といった目標を掲げ、そのための初期ケアに力を入れる施設経営者や施設長・現場職員を育てるといった取り組みをしていくべきです。介護現場の崩壊は行政が無責任な介護施設経営者に事業を丸投げしてきた結果に他なりません。

~お知らせ~
今後日本の政局や北朝鮮問題についての論考は下記ブログで掲載していきます。

「お金の生み方と配り方を変えれば 暮らしが変わります」

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