新・暮らしの経済手帖 ~時評編~

わたしたちの暮らしを大切にするための経済解説サイトを目指して開設しました。こちらは時評編で基礎知識編もあります。

寝たきり化や認知症悪化を防止する北欧流の高齢者福祉システム

ここまでずっとブラック医療施設や介護施設の問題について延々と記してきました。病院ないしは介護施設というハコだけをつくって重度の入院患者もしくは入所者を押し込め、診療や介護報酬だけを稼ぐために人件費などのコストを抑え込み、寝たきり化や認知症の進行をよりひどくしてしまっている病院・介護施設経営者が数多くいるのです。そういう施設で働く職員も荒廃した職場の中で高い熱意や善意、志、理想をへし折られ、肉体・精神共に疲弊し、職能を腐食させていきます。

こうした収容主義・管理主義的な施設は高齢者を動かさず縛り付けることによって、ますます自分で動けなくし重度の要介護者となっていきます。廃用症候群です。施設自体が寝たきり老人や重度の認知症患者をつくってしまうことによって、さらに社会保障費が膨張し、多くの勤労者たちの税や社会保険料負担が重くなっていきます。重度化した数多くの要介護者を介護するために多くの労働力を注ぎこまねばなりません。いまの医療・介護業界が莫大な社会保障費と若い人材の労働力をブラックホールのように吸い込み消耗させているのです

少子化によって今後ますます労働可能人口が減少していくでしょう。限られた労働力を潰さず大切に扱っていかねばなりません。寝たきり老人や重度の認知症患者の増加を早期のリハビリやケアで食い止め、社会全体の介護負担を減らす努力をしないといけません。

認知症の発生原因や予防方法等について調べていきました。


認知症といってもアルツハイマー病をはじめ、血管性やレビー小体型など、いろいろ原因や症状の違いはありますが、日本で最も多いアルツハイマー病の場合は脳にアミロイドβやタウというたんぱく質がたまり、脳細胞を破壊していくことで発症するといわれています。このアミロイドβがなぜ脳に蓄積していくのかという原因ははっきりわかっていませんが、喫煙や飲酒の抑制による生活習慣病予防が認知症の発症リスクを低減させることもわかってきています。友人や仲間同士の付き合いを活発にし、体を動かすことも脳によい刺激を与えて認知症になるリスクを抑えます。
仮に認知症になったとしても軽いうちなら早期の診断と脳トレーニングなどの訓練によって進行を食い止めることが可能です。

よく日本の福祉関係者が持ち上げますが、北欧諸国では高齢者を寝たきり状態にさせたり、どんどん認知症を進行させてしまうようなことを防止するケア体制が用意されています。2015年の記事ですが藤原瑠美さんがスウェーデンのオムソーリケアについて紹介されたことがあります。(「ニルスの国の認知症ケア―医療から暮らしに転換したスウェーデン」)
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(画像はすべて上記サイト様より引用)

藤原さんがレポートされているオムソーリケアは基礎的な医療の知識・技能を身に着けた介護スタッフであるアンダーナースによる訪問介護サービスです。アンダーナースは認知症チームをはじめ、在宅リハビリチーム、在宅看取りチームなどといったように各自専門性を強めたチームとなっているようです。
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アンダーナースによる認知症高齢者の訪問介護は薬の用意や身辺介助、掃除・洗濯を除く各家事援助そして利用者の話し相手といった業務を行いますが、1軒・1人あたりの平均訪問時間はわずか15分と非常に短時間です。日本の認知症ケアの常識では考えられないことでしょう。しかしながら「幸せや悲しみを分かち合う」というオムソーリ(Omsorg)の言葉どおりに利用者とのあたたかいふれあいやコミュニケーションを大切にしています。

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スウェーデンのオムソーリケアのような訪問介護サービスが成り立つのは利用者の認知症が軽度に止まっているからです。この国の認知症高齢者のうち9割以上が中・軽度です。重度化している人はごく僅かです。スウェーデンの場合はプライマリーケア(初期診療)を担う家庭医や高齢者の疾病を扱う老年科という診療科目が存在しており、彼らが高齢者の認知症を早期のうちに診断し、症状の悪化を食い止める予防策を打ちます。
ある高齢者が認知症だと診断されるとケアの担い手は医療から福祉部門へと移ります。スウェーデン認知症対策で投ずる費用のうち、85%が福祉部門で医療は5%のみです。病院数ですがスウェーデンは日本に比べかなり少なくなっています。病院が多くの社会的入院患者を抱えている日本とは大きく事情が異なります。

あと藤原さんのレポートで見逃してはならない点はスウェーデンにおいて誤嚥性肺炎による吸引という場面がほとんどないことでしょう。ベテランアンダーナースが「いま大変なことが起きているの。痰の吸引が必要な患者さんがいるのよ。20年以上介護の現場にいて、こんなことは初めてよ!」と言っている姿が書かれていますが、日本の終末期医療の現場では痰の吸引が当たり前になっています。
私が「終末期医療について考え直す 」でも書きましたが、スウェーデンをはじめとするヨーロッパ圏では終末期の患者さんに栄養点滴など過剰な延命治療を行わず尊厳死・自然死へと導くので、頻繁に痰の吸引が必要になってしまう前に亡くなってしまいます。

生活援助を中心としたオムソーリケアですが、認知症利用者の自立した生活能力を支援することを重視しております。利用者ができることは自分で極力やってもらうことで生活能力の低下を抑制し、結果的に手がかからない状態を維持できているのです。
高齢者の認知症を早く発見し、病院や介護施設の中に認知症の高齢者を押し込めるようなことをせず、自宅で自立した生活が維持できるよう福祉的支援を行うといった介護ケアシステムは、個人の幸福を尊重しつつも欧州らしい合理主義も感じられます。

このオムソーリケアによる訪問介護サービスは1990年代にスウェーデンが国家主導で肥大化させすぎた医療・福祉行財政をスリム化させる目的で進められたエーデル改革によって生まれたものです。スウェーデンでも日本と同じように病院が社会的入院患者を抱え込んでいましたが、このエーデル改革で医療から福祉へのシフトが進みます。結果的に医療費の抑制にも結び付いていきました。


日本の介護保険制度の構造上、介護福祉施設は重度の要介護者をどんどんかき集め、多くの介護報酬点数を稼ぎ、法定ギリギリの少人数の職員で機械的かつ流れ作業的な介護を行った方が施設経営者は儲かりやすくなっています。このことが多くの介護施設経営者が認知症の進行を軽度のうちに止めさせるリハビリやケアに取り組むことに不熱心となってしまうことにつながるのです。

日本も今のうちにマッチポンプ的な介護経営や福祉行財政から抜け出さないと、多くの貴重な社会資源を空費し、日本の国ならびに経済まで疲弊させることになりかねません。日本の国や行政機関・介護福祉施設経営者にそうしたビジョンが描けていないのです。

2018/10/01 追記
デイリー新潮の記事ですが、アルツハイマー認知症の発症に糖尿病とも関係が深いインスリン作用の障害が考えられるという研究結果が出てきつつあります。もしこの説が正しいのであればアルツハイマー認知症の予防や治療がかなり進むでしょう。

参考記事

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「お金の生み方と配り方を変えれば 暮らしが変わります」

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