新・暮らしの経済手帖 ~時評編~

わたしたちの暮らしを大切にするための経済解説サイトを目指して開設しました。こちらは時評編で基礎知識編もあります。

福祉を喰い物にする天下り役人と介護福祉ブローカー

介護福祉問題の話はそろそろ終えようと思っていますが、介護福祉施設の理事や施設長などに天下り、何もしないのに高給だけを盗ってしまう天下り役人や介護報酬ならびに補助金等を貪ることしか考えない福祉ブローカーたちについて述べておきましょう。

再度リンクさせていただきますが、介護施設職員の経験を持つ方のブログで天下り施設長について厳しく批判する記事を書かれています。

このブログサイトで既に申しましたが、これまで大学で福祉の勉強をせず、介護の現場で働いた経験が一切ないような天下り役人が突然ポンと施設長になってしまうようなことが平気でまかり通っております。

 和賀英良氏 

介護のことをまったくわからない人間が上から目線でデタラメな指示や職員への叱責を行えば職員は完全にやる気を無くすでしょう。毎日上辺だけのきれいごとを並べ、そのくせ現場が混乱しているときに応援にも入らないし、職員の相談にものらないというのでは誰もついてこないでしょう。職員の仕事は投げやりになり、乱暴な介護になって利用者にも大きな迷惑をかけます。

御存じのとおり介護職員の給与は高くなく、財務省の緊縮財政の煽りを食らって簡単に引き下げられてしまいます。その一方で何もしない・何もできない・何もわかっていない天下りの施設長が高額の報酬を受け取っているなんてやられたら腹立たしいことこの上ないでしょう。
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ここのブログで既に述べたように社会保障費が膨張し、現役世代の就労者や納税者が負担する税や社会保険料負担が重くなる一方です。天下り施設長らの高給も社会保障費から捻出されています。「寝たきり老人をつくってしまう病院や介護福祉施設 」で述べたように、介護福祉の現場経験や知識がほとんどない天下り施設長は高齢利用者を施設に押しこめ、薬漬けで寝たきり状態にしてしまったり、認知症をどんどん進行させ、重度化させていきます。そうなると施設に支払われる措置費や介護報酬は加算され、その額がうんと増えてしまい、これもまた社会保障費の膨張を加速させるのです。「福祉」という大義名分で天下り役人たちが国民の血税・保険料を貪り、レントシークしているといえましょう。

かれこれ20年以上も前の話ですが、当時の厚生事務次官が特定の福祉施設経営者に法人認可ならびに施設開所とその建設費・措置費・補助金の交付で便宜を計り、利益供与を得るという贈収賄汚職事件が発生しました。1996年に事件が発覚した岡光序治厚生次官と彩福祉グループによる特別養護老人ホーム汚職事件です。

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元厚生事務次官:岡光序治と彩福祉会オーナー:小谷博史

 事件の詳細についてまとめたブログ記事
 「岡光事務次官福祉汚職事件 - クール・スーサン(音楽 芸術 医学 人生 歴史)」

社会福祉法人は施設の開所が認可されると、国が施設設置費用の総額の半分を、県が4分の1を補助し、残り4分の1も市町村の補助、低利融資を受けられるようになっていました。さらに開設後は、お年寄り1人に対し措置費という補助金が出る仕組みです。彩福祉グループは福祉法人認可を得て、埼玉県を中心に次から次へと特別養護老人ホームを開設していきます。小山は彩福祉会だけではなく「ジェイ・ダブリュー・エム」という建設会社も経営しており、彩福祉会の施設建設の仕事をさせていました。この建設会社はトンネル会社で別の建設会社に低額で仕事を丸投げします。小山という男はその建設会社から2割のマージンを受け取って27億円も稼ぎまくっていたのです。
小山は福祉予算を食い物にするレントシーカーでした。

小山は岡光らをはじめとするエリート厚生官僚ら30人を赤坂、向島浦和市内の料亭に招き、接待攻勢をかけて抱き込みます。小山は岡光から厚生行政の情報を取り、厚生行政による事業を先取りして事業を展開していきました。その便宜を計った岡光や彼の部下である茶谷滋は小山から見返りとして数千万円以上の現金や乗用車、ゴルフ会員権を贈られ受け取ります。茶谷は衆議院埼玉6区の自民党候補として出馬(橋本龍太郎小渕恵三梶山静六の応援があるも落選)しますが、小山はこのときの選挙資金援助も行いました。岡光の妻も業者に
提供を受けた車の色が気に入らないと言っては取り換えさせたり、マンションの購入資金だけでなく、改築費まで出させるといった「おねだり」を繰り返しました。

この事件は官僚と民間が癒着したとんでもない汚職事件で、国や埼玉県から福祉施設建設費や運営費にあたる措置費等を私物化してしまったというものです。社会福祉施設の措置費はもともと生かさず殺さずで、法定で定められた職員配置基準の人数だけで業務を回すのは大変で、措置費もギリギリです。真面目に施設経営をやっていたらとても蓄財できる余裕なんかないのですが、小山は数十億円も私服を肥やしていました。この施設の職員の勤務は大変だったと思います。

(自分の経験談になりますが、岡光らの事件が起きる直前あたりの時期に、ある特別養護老人ホームの就職面接を受けに行ったことがあります。その施設の敷地に入って目に入ったのは真っ黒な高級車で、施設の門のインターホンを押しても無反応、出てきた職員も無愛想でなんとも卑しい目つきでした。嫌な予感がしつつも理事長室へ入り、こちらが挨拶すると、理事長の「おう、入れ!」という横柄かつ威圧的な返事。それからひどい圧迫面接を受けました。あとで調べるとこの理事長は県の役人だった人間で、この施設で勤めた経験のある人によればかなりワンマン理事長であるとのこと。こういう経験がある故に岡光や彩福祉会が起こした汚職事件を知ったとき、どす黒い感情が抑えきれませんでした。)
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岡光は介護福祉制度の導入を推し進めた男でもあります。この制度が施行されてから、介護福祉とは無関係の人材派遣会社、居酒屋チェーングループのみならず建設会社や不動産ディベロッパー、ラブホテル経営者、し尿処理会社といった業者が介護業界に参入してきます。まだこれらの事業者が真剣に福祉のことを考えて事業に参入しているのであればいいのですが、高齢者の財産や年金・介護保険生活保護費等を食い物にするような悪質業者がかなり紛れ込みました。

2011年に「高齢者住まい法」で生まれたものですが、サービスつき高齢者住宅というものが登場しました。これは厚生労働省ではなく国土建設省が音頭をとって制度化されたもので、介護福祉施設ではなく高齢者向けの民間の賃貸住宅です。この住宅の登場で特別養護老人ホームの入所待機者が一気に減ったのですが、このサ高住を経営する事業者の中に極端な営利主義に走り、入居者にフルオプションで介護サービスを押し付け、彼らの財産や年金保険・介護保険医療保険生活保護費の給付(金)を貪り喰う問題が発生しています。

 相沢光一氏
 中村淳彦氏×藤田英明氏

サ高住は比較的自立度の高い高齢者向け住宅であり、介護サービスはおまけみたいな感じでついているといったもので、国としては特養などの福祉施設より措置費や介護保険報酬の支払いが低くなって、社会保障費削減につながるだろうという目算ではじめたのでしょう。しかしその期待は営利主義のサ高住経営者によって見事ぶち壊されました。藤田氏は「サ高住は高齢者の囲い込みビジネス。住宅を提供して囲った高齢者に介護保険の支給限度額の満額を使い、さらに医療保険を使って在宅医療、訪問看護を入れて診療報酬も使う。高齢者1人に対して特養でかかるお金より、圧倒的に費用が高い。めちゃめちゃお金を使っている。」と述べます。

岡光が厚生官僚時代からやってきたことは田中角栄経世会流の土建政治でやっていた手法を厚生行政にぶち込んだようなものです。役人を社会福祉法人の理事・施設長に天下らせるだけではなく、営利目的の介護福祉ブローカーを多数業界に参入させ、福祉法人に支払われる措置費・補助金や介護福祉サービスに支払われる保険報酬などを吸い尽くさせるような介護福祉利権の拡大を計ったのです。小泉純一郎政権時代に削減された土木建設公共事業のかわりに介護福祉業でレントシークしようと参入してきた建設会社や不動産ディベロッパーは少なくないでしょう。これでは福祉行政ではなくハコモノ行政です。

今回の記事だけではなく他のいくつかの記事でも、介護福祉・医療業界の暗部を延々と語り尽くしてきました。
このような話を続けてきた意図を箇条書きでまとめて述べておきます。
それは
1 社会保障費が年々膨張し続ける原因はただ高齢者の人口が増え続けているだけではなく、役人の天下りや営利主義の介護福祉ブローカーならびに悪徳病院の経営者によるレントシーキングで加わっている可能性が高い。

2 介護・医療業界の慢性的人手不足は低賃金・低待遇・過密労働だけではなく、利用者の福祉に反した経営者がもたらした現場崩壊が主因している。

3 近年一部の社会保障・福祉研究者が好む現金給付からモノやサービスという現物支給主義にシフトさせるという考えは官僚の利権肥大化や介護福祉ブローカーによるレントシークの温床となる危険がある。

4 このような税の浪費が国民の税ならびに社会保険料負担をいっそう重くし、さらには荒廃した介護施設等で限られた労働力を疲弊・消耗・劣化させる。当然日本経済全体を地盤沈下させかねない。
という指摘を行うためです。

こうした問題を解決するには豊富な現場経験で介護福祉・医療を熟知し、福祉系大学等で専門的知識を身に着け、社会福祉士介護福祉士などの資格を有した者だけに介護福祉施設の経営を認めるといった法規制を加えるべきでしょう。もちろん天下り規制も強化すべきです。この施策が介護福祉業界の健全化を計る第一歩であり、さらには社会保障費の適正化につなげることになっていくでしょう。

~お知らせ~
今後日本の政局や北朝鮮問題についての論考は下記ブログで掲載していきます。

「お金の生み方と配り方を変えれば 暮らしが変わります」

サイト管理人 凡人オヤマダ ツイッター https://twitter.com/aindanet
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