新・暮らしの経済手帖 ~時評編~

わたしたちの暮らしを大切にするための経済解説サイトを目指して開設しました。こちらは時評編で基礎知識編もあります。

生活保護に関する統計を見てみる

今回は生活保護の受給世帯数や支給総額の変化やどういう扶助が多いのか、誰が受給しているのかといった統計を確認していきたいと思います。「誤解と偏見だらけの生活保護問題 」で述べたように生活保護の関して多くの人々は、基礎的な統計すら確認せずに、強い思い込みや先入観だけで「もっと保護費支給を厳格化しろ」とか「保護費はみんな酒やギャンブルにつかわれる」といった発言をしています。冷静に統計を確認してみると生活保護の実情が違った姿に見えてきますし、意外な問題点も気づくことでしょう。これまでこのブログサイトで書いてきた生活保護関連の記事も再度読み直していただけたらと思います。

生活保護関連の記事

生活保護に関する統計は厚生労働省がまとめております。

まず生活保護受給世帯者数の変化からみていきましょう。
当たり前の話ですが、生活保護受給者・世帯の数は経済動向に大きく左右されます。戦後の高度経済成長期から平成バブル景気に至るまで日本経済は右肩上がりの経済成長を続けてきましたが、それに伴い生活保護受給世帯数もどんどん減っていきます。

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しかしバブル崩壊後の平成初期・1990年代から生活保護受給者・世帯が、みるみる上昇してしまいました。世界金融危機とそれに伴う「派遣切り」といわれる非正規雇用者の大量解雇が発生した後は受給世帯が急増します

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しかしながら平成25年に安倍自民政権が発足し、リフレーション政策の理論を基にしたアベノミクスと云われる経済政策が実行されます。


これによって企業の投資意欲が促進され、雇用改善の動きがしっかり現れました。この前後から生活保護受給者・世帯の増加に歯止めがかかりはじめ、平成27年3月をピークに受給者数は減少に転じます。

次に年齢階層別の生活保護受給者・世帯数推移を見てみましょう。

日本の場合、生活保護受給者は65歳以上の高齢者が半分近く (45.5%) を占めています。

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生活保護をもらっている人間は働かない怠け者だというレッテル(スティグマ)が貼られがちですが、高齢で体が動かなくなり、就業が難しくなった人たちが受給している割合が高いと見るべきでしょう。老齢年金の支給額が低いために生活保護費で不足分を補填してもらっている人たちが多い状況なのです。
高齢者以外の生活保護受給者は平成23~24年より減少傾向です。行政による生活保護支給厳格化が効いたのでしょうか?

そして生活保護費の負担金実績は医療扶助が約半分を占めています。
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生活保護費の削減というと、受給資格の決定や保護費支払いの厳格化によって不正受給を取り締まれという話になりがちですが、金額面でいえば生活扶助などよりも医療扶助の方を注視すべきでしょう。後で取り上げますが、一部の悪質な医療機関によって生活保護受給者が過剰診療を受けさせられ、扶助を詐取されるといった事件が起きています。「患者を殺す劣悪なブラック病院 」という記事で終末期や認知症になった患者を抱え込み、超低コスト経営で診療報酬だけを収奪するような病院経営者が存在することを書きましたが、生活保護の医療扶助もその標的にされています。

不正受給の発生件数や被害金額の割合を見てみましょう。
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上の表によれば不正受給の平成27年における発生件数は約4万4千件です。被害金額は約170億円にのぼります。ただし1件あたりの38万7千円でした。表には書かれていませんが、不正受給に伴う保護の停廃止は1万0587件。悪質性が高いとして刑事告発に至ったのは159件でした。

参考 yomiドクター 原昌平編集委員 

不正受給発生件数・被害金額そして刑事告発レベルの159件にも及ぶ悪質な不正受給件数は看過できるものではありません。保護費の総額に対する不正受給額の割合は平成27年の場合ですと170憶円/3兆7786億円(予算ベース)で0.45%。要保護者世帯全体の中で不正受給を行った世帯の割合は4万4千件/160万2551世帯で2.7%。36.5世帯に1件の不正があったことになります。
この数字を多いと捉えるか少ないと捉えるかは判断が割れますが、世界の中でも日本の不正受給率はかなり低い方です。とくに近年の不正受給傾向は被害金額が大きく悪質性の高い不正受給よりも、小さいものでは100円単位という細かく悪質性が高くない不正受給の割合が高くなっています。それこそ重箱の隅をほじるように、たとえ1円の不正受給も見逃さないといった行政の姿勢が反映されたものと見ていいかも知れません。

日本のGDP国内総生産)と生活保護費の比率に関するグラフです。引用元は「生活保護と就労支援」からです。
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やはり生活保護費総額と共にGDP比の方もだんだん上がってはいます。2012年では約0.7%です。
ただし他の国と比較しますと日本の生活保護費対GDP比はUK・アメリカ・ドイツ・フランスよりも低いです。
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総人口に対する生活保護の利用率は日本ですと2010年の数字で人口比のわずか1.6%です。100人に1人を超える程度の割合です。生活保護が必要な生活水準の人が保護を受けている捕促率もわずか15.3~18%でかなり低いです。日本は貧困者を見放し放置しているといっていいでしょう。
ドイツ・フランス・UK・スウェーデンと比較すると

ドイツ     利用率9.7%   捕促率64.6%
フランス    利用率5.7%  捕促率91.6%
UK       利用率9.27% 捕促率47~90%
スウェーデン 利用率4.5%  捕促率82%

とかなり低いことに気づかされます。

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公的扶助の給付額についても他国と比較した表がないか探してみましたが、財務省主計局が作成した図表を載せておきます。
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この表を単純に見ただけですとこの公的扶助の所得保障水準(日本の生活保護の生活扶助に相当)が他国に比べ、日本は高い額の給付を行っているように見えます。他国が3~4万円程度でアメリカに至っては1万5千円程度しかないのに、日本は6~8万円支給されていることになっています。ただし日本の生活扶助については光熱費まで含まれており、ドイツ・スウェーデン・UK・アメリカでは別途支給となっています。
よく日本の生活保護費は他国に比べ給付額が高いと云われますが、光熱費などの補助も合わせると他国と変わらない給付額かも知れません。

このように諸統計を確認していくと、日本の公的扶助による支援状況は極めて薄く、低い水準であるということが見えてくるでしょう。相当生活状況が逼迫しても簡単に生活保護を利用できないものだと思っておいていいかと思います。

次回から順に生活保護制度の様々な問題点を取りあげていきます。

~お知らせ~
今後日本の政局や北朝鮮問題についての論考は下記ブログで掲載していきます。

「お金の生み方と配り方を変えれば 暮らしが変わります」

サイト管理人 凡人オヤマダ ツイッター https://twitter.com/aindanet

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