新・暮らしの経済手帖 ~時評編~

わたしたちの暮らしを大切にするための経済解説サイトを目指して開設しました。こちらは時評編で基礎知識編もあります。

生活保護・医療扶助を喰い物にする行路病院とぐるぐる病院

ここからいよいよ生活保護に関する各諸問題について細かく斬り込んでいきます。まずは医療扶助からです。
生活保護に関する統計を見てみる 」でも述べたように、生活保護で行われる扶助で最も多くの給付が行われているのは生活扶助ではなく、医療扶助(公費医療給付)です。その割合は45.5%と生活保護給付総額の約半分を占めます。我々日本国民の多くは公的医療保険(健康保険)を使って医療費の支払いをしますが、生活保護利用世帯・者の場合は全額公費負担で医療機関での診療を受けることができます

生活保護受給者は高齢者の比率が最も高く、慢性的な疾病や障がいを背負っている人が多く含まれることは言うまでもありません。生活保護受給者が病院の診察を受ける機会が多くなり、医療扶助の給付額や比率が高くなるのは当然じゃないかという見方に不思議はありません。
公費負担医療は自己負担がないのだから、生活保護受給者はいくらでも診療を受け放題なので、医療扶助が膨張していくのだという見方が強く、生活保護受給者であっても医療費自己負担を求めるべきだとか、ジェネリック医薬品を使わせるなどすべきではないかという声が大きいです。

しかしながら医療扶助の膨張は生活保護受給者自身よりも、公費医療制度を悪用し、生活保護受給者に対し過剰診療行為を行って、診療報酬を荒稼ぎする病院が存在していることの方が大きいのではないでしょうか

このブログサイトで以前、患者や公的保険財源を喰い物にするような悪質極まりないブラック病院が存在するという話を書きました。「患者を殺す劣悪なブラック病院

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「ミナミの帝王」の40~41巻「白い闇」編より

それと「福祉を喰い物にする天下り役人と介護福祉ブローカー 」という記事でサービスつき高齢者向け住宅を営む事業者の中に極端な営利主義に走り、入居者にフルオプションで介護サービスを押し付け、彼らの財産や年金保険・介護保険医療保険生活保護費の給付(金)を貪り喰う問題が発生していることも書きました。

 相沢光一氏
 中村淳彦氏×藤田英明氏

医療機関にとって生活保護受給者は保険患者と違い、全額公費ですので診療報酬の取りっぱぐれがありません。病院側がどんどん過剰診療を行っても自己負担がないので患者から文句を言われにくいです。そういう意味で営利主義に突っ走った医療機関にとって生活保護受給者はおいしいカモです。

生活保護受給者を囲い込み、本来不必要な診療行為を次々と行って荒稼ぎしていた悪徳病院の中でもっとも酷い例が奈良県の山本病院と大阪の安田病院グループでしょう。

雄山会・山本病院は山本文夫が経営していた病院ですが、彼は大阪や京都などから身寄りのない生活保護を受給している患者をかき集め、執刀経験がほとんどないにも関わらず高度な技術を要する心臓外科手術や肝切除手術を必要でもないのに、患者を脅迫するような形で受けさせ、診療報酬を詐取していたというものでした。その手術は稚拙かつ乱暴なもので山本らによって手術を強引に受けさせられた患者たちが次々と死んでいったのです

山本は実際にはやっていないにも関わらず、生活保護患者に心臓カテーテル手術を行ったというレセプトを作成して診療報酬を請求。患者8人分で計835万円余りを不正受給したことで詐欺容疑で逮捕・起訴されます。これについては懲役2年6月の実刑判決が下されました。さらにこの病院は140人以上の患者に不必要な心臓カテーテル手術を行っていたことも判明します。こうした不正請求で支払われた医療費は3億2000万円ほどだったのですが、各自治体が取り戻せた医療費は143万円だけでした。

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山本病院事件についての記事
 ヨミドクター 原昌平氏

 法と経済のジャーナル 出河雅彦氏

次の1997年に発覚した安田病院グループ事件ですが、こちらは大阪市住吉区の安田病院と、系列の大阪円生病院ならびに精神科の大和川病院で起きた医療費の過剰および不正請求事件です。この3病院が騙し取った医療費は24億5700万円にも及びました。

 ヨミドクター 原昌平氏

この病院は既に退職した元職員の名前を勝手に使うなどして幽霊職員を仕立て上げ、役所に医師や看護職員の数を水増し報告します。医師や看護師の数は医療法で定める最低基準の3~4割しか配置していない有様でした。当然患者は院内で放置状態となります。

この3病院は医師の診察が何か月もなく、ナースコールはなく患者はベットに縛り付け、病室はエアコンをつけず、衛生状態も最悪でダニ、シラミ、ナンキンムシ、ウジが繁殖し、薬剤耐性黄色ブドウ球菌MRSA)による院内感染が発生し、多くの患者が亡くなっています。
その一方でこの病院は医師だけでなくではなく看護師までフル動員して、カルテやレセプトの改竄を行い、架空の診療請求を行いました。カルテに書かれた病名とか病状は完全にデタラメで、レセプトも打ち出の小槌のような感覚で実際に行なっていない診療が書き込まれます。安田病院は「ミナミの帝王」の40~41巻「白い闇」編に登場した宇田川病院そのものです。

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精神科であった大和川病院ではさらに保護室での監禁や身体拘束、強い鎮静剤投与、職員ないしは牢名主的な患者による暴力、労役に就かせるといった蛮行が繰り広げられていました。看護人が脱走した入院患者をバットで撲殺したという事件まで起きています。

このように安田3病院は劣悪極まりない病院で、心ある職員による役所への内部告発も絶えなかったのですが、医療行政側はなぜか動きません。安田は大学の学長、医学部長、医師会長、高名な研究者、国会議員・府議大阪市議、そして厚生省の局長らに献金を贈ったり、自身が設立した「安田記念医学財団」の理事や顧問に招聘するなどして抱き込み、安田病院に対する調査を潰していたのです。そのためになかなかこの病院の凶状が明るみになりませんでした。

身寄りのない生活保護受給者を多く受け入れる病院を行路病院といいます。飢えや疲れのため、旅の途中で倒れた引き取り手のない人を行路病人といい、そうした人の保護をする目的の「行旅病人及行旅死亡人取扱法」という法律もあったりしますが、行路病院の中に山本病院や安田病院のような悪徳病院が多く混じってしまっています。あと今の医療機関に支払われる診療報酬は入院患者が長期の入院になると減額される仕組みになっていますが、そうした患者を別の系列病院に転院させて高い診療報酬を請求し、また一定期間を過ぎると別の病院に転院させるといったぐるぐる病院も存在します。行路病院やぐるぐる病院は関西に多くあるようです。

生活保護といえば多くの人は受給者による不正受給に目を奪われがちですが、1件あたりの不正受給額は38万7千円であり、さらに近年は一件あたりの被害金額が少額化してきています。それに比較して医療関係者が行う不正請求額は上の例のように数千万円や数十億円の被害額になります。本当は悪質な医療機関や介護福祉施設、サービスつき高齢者向け住宅の経営者などによる医療扶助や介護保険の不正請求の方に注意の目を向けた方がいいのではないでしょうか。

医療機関が行う生活保護の医療扶助不正請求は医学や医療の知識がない福祉事務所のケースワーカーが、過剰診療や不正請求を見破ることはまず不可能だと思われます。しかもケースワーカー1人が担当する保護世帯数は平均で80件、多い場合は120~130件に及びます。計算や書類作成など事務仕事に追われて、担当世帯への訪問・支援の時間さえ取れません。生活保護利用者が病院や施設へ入所した場合、そこが面倒を看てくれるので、ケースワーカー病院や施設に任せきりになりがちです。担当地域から遠く離れた病院や施設に入所した場合、自然とケースワーカーの足が利用者から遠のきます。そのために病院や施設内で利用者が診療報酬稼ぎの餌食となって、生命を脅かされるのような悲惨な状況に置かれていても、福祉事務所やケースワーカーに気づいてもらえないといったことになります。

安田病院はどんな患者でもいつでも受け入れてくれることを売りにしており、患者の入院先や搬送先の確保に困っている福祉事務所や保健所、警察などの行政機関や転院先が見つからない長期入院患者を抱える他病院にとって非常に便利な存在でした。この病院の事務職員は盆暮れに行政機関等へ土産物を持って、行路病人をまわしてもらえるよう「営業活動」を行っていたそうです。

こうした病院の不正行為を防ぐ案として読売新聞の原昌平編集委員が提案されていることですが、生活保護を支給する福祉事務所が、医師もしくは看護師の資格がある者を雇い、レセプトの確認や病院に入院している生活保護利用者のもとへ巡回訪問して療養状況を確認するといったことをやるのがいいかも知れません。
それと私立の病院に入院している生活保護利用患者を検診命令という形で公立病院に一時転院させて、適正な診療が行われているか確認するという手も提案されています。
それか生活保護利用者も国民健康保険に加入してもらい、保険料や自己負担分を別途扶助するような形にしていくことも考えた方がいいでしょう。

次回は多くの人が興味を持つ生活保護受給者による不正受給のことについてです。多くの不正受給はあまり悪質性が高くなく、被害金額もさほど大きなものではないことについて話をしますが、悪質性の高い多額の不正受給がなぜ起きたのかについても取り上げます。

今後日本の政局や北朝鮮問題についての論考は下記ブログで掲載していきます。

「お金の生み方と配り方を変えれば 暮らしが変わります」

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