新・暮らしの経済手帖 ~時評編~

わたしたちの暮らしを大切にするための経済解説サイトを目指して開設しました。こちらは時評編で基礎知識編もあります。

簡単にもらえない生活保護 ~保護利用を妨害する水際作戦と硫黄島作戦~

今回は生活保護問題で最も大きなものである漏給についてです。様々な理由でひどい貧困状態に陥っているにも関わらず、生活保護による支援が行われていない状況が漏給問題です。多くの人たちは不正受給のことばかり気にしますが、保護が必要なのに受けられない漏給問題の方が深刻です。人の生死に直結する重大な問題であります。

前回前々回の記事で荒唐無稽で極めて悪質な生活保護叩きのビラについて批判しましたが、どうもビラをつくった人間は厚生労働省などがまとめた統計すらまともに読んでいないということと同時に、生活保護なんて失業したり、お金に困って役所に泣きつけば簡単にもらえるだろ」という安直な思い込みをしているのではないかということです。

私の身の回りの人なんかも「生活保護は申請したらすぐに受給できるもの」と思い込んでいるのではないかと思われる発言をしたりします。その人が「いっそのこと年金の保険料なんか払わずに、年をとったら生活保護をもらった方がマシじゃないのか」などといったので、私は「そんなに甘くないですよ」「生活保護なんて制度はないと思っておきなさい」と注意したことがあります。

あとネット上に書いてあったことですが、長い間引きこもりをしていた兄が親と喧嘩してお金を持たずに家を飛び出したものの、役所に生活保護を申請したら「あなたその年齢なら働けるでしょ。まずは仕事を探してください」と門前払い。絶望したその兄は入水自殺をしたなどという話がありました。この人は生活保護を軽くなめてかかっていたということでしょう。

私は生活保護は簡単にもらえると高をくくっている人が想像以上にたくさんいるのではないかと思えてなりません。生活保護の受給認定は極めて厳しいです。誰が見ても放置したら間違いなくこの人は死ぬだろうと思えるほどかなり切迫した状況でないと保護申請受理はありえないと思っておいていいのです。

いきなり厳しいことを申し上げましたが、かなり苦しい状況に追い込まれて必死の思いで生活保護を申請しても、役所で冷たく門前払いをされて、保護の利用を諦め、そのまま餓死をしたとか、自殺をしてしまったという事例は過去に山ほどあります。バブル景気の真っただ中の1987年にも北海道札幌市で、極度の貧困に陥っていた母子世帯の母親が餓死してしまうという悲惨な事件が発生し「福祉が人を殺すとき」(あけび書房 寺久保光良氏著)という本が出されました。
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その後も同様の事件が絶えることがなく発生します。
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生活保護利用者が餓死した事件で有名なのは「おにぎり食べたい」という日記を遺して死亡した北九州市の男性のケースでしょう。2007年7月の事件です。
死亡した男性は元タクシー運転手で肝硬変や内臓の潰瘍を患って就労ができないために生活保護を申請。一時受給を認められたものの、福祉事務所のケースワーカーから強く就労を勧められ、男性は生活保護の辞退届を書かせられます。この対応について男性は日記に「働けないのに働けと言われた」などと記していました。
近所の人によればこの男性は死の直前は痩せ衰え、病気の進行にかなり苦しめられていたようです。
北九州市では他にも生活保護利用者や申請者の餓死や孤独死事件がいくつも発生していました。


2012年1月20日に札幌市白石区で姉妹がマンションの一室で死亡していた事件が起きていますが、やはりこのときも姉が市に何度も生活保護の申請をしていたものの、「懸命なる求職活動」ばかりを求められ却下され続けていました。妹は中度の知的障がいを持ち、姉が洋服店とホテルの洗い場をダブルワークしながら生活を維持していたものの、その姉が体調を崩し定職に就くのが難しくなってしまったのです。姉は生活保護申請を繰り返している間にもハローワークの教育訓練を受け、必死に就職活動を続けてきましたが、妹の体調不良も重なり、簡単に仕事が見つからなかったようです。それでも市は生活保護の開始をしようとしませんでした。


このような事件は氷山の一角です。餓死や孤独死だけではなく、生活保護を利用できない貧困者の自殺や心中、殺人事件も発生しています。
2014年に千葉県の銚子市で母子世帯で極度の貧困状態となり、住んでいた県営団地の家賃を滞納し続けてしまったために強制退去を命じられ、その執行が行われる当日に母親が娘を絞殺してしまうという痛ましい事件がありました。この母親は殺してしまった娘が運動会で活躍する姿が映った映像を観ながら、娘の頭を撫でていたようです。あまりに悲し過ぎる話です。


2006年1月7日にJR西日本下関駅が放火で全焼するという事件が起きましたが、この犯人も犯行直前に生活保護の申請を行っていたものの「住所がないとダメ」という理由で門前払いとなり、「(寒さと飢えから逃れるため)もう一度刑務所に戻りたかった」ために再度放火事件を起こしたのでした。そりゃあ寒空の下で飢えて野垂れ死にするよりは刑務所に入った方がはるかにマシですからね

仮に生活保護の利用申請が受理され、保護が開始されたとしても、利用者は福祉事務所のケースワーカーからかなり厳しく生活状況を監視されることになります。


役所の人間が生活保護削減ありきで保護申請者を門前払いする水際作戦や、一旦保護を認めてから利用者に威圧などの心理的圧迫を加え保護辞退へとつなげることを硫黄島作戦を仕掛けて、生活保護の利用を妨害する不祥事が後を絶ちません。その結果として上で述べてきたような悲惨な貧困者の餓死・自殺・心中・殺人といった事件が過去数十年に渡って連発しているのです。

水際作戦でよく使われる手は
住所がない人は保護できません
あなたは働けるから保護を受けられません。ハローワークに行って仕事を探してください
家族に扶養してもらってください
がもっとも多いのですが、ひどい場合女性の保護申請者に対し、窓口のケースワーカーが「(風俗などで)体を売ればいい」などと言った場合もあります。
ついでに言えば男性ケースワーカーが女性保護利用者に対し「胸が大きいですね」「ノーブラで来て」「一緒にホテルに行かない」「割り切って肉体関係持ったら」などと言ったり、キスや胸に触れるといったセクハラを行うといった不祥事があちこちで起きております。


硫黄島作戦はケースワーカーが利用者訪問や相談の際に、しつこく就労を無理強いしたり、ねちねちと嫌味を言うなどして生活保護の利用をやめさせようとするやり方です。一度敵(生活保護利用申請者)を上陸させるが、その後壊滅させる作戦という意味で遣われているようです。

水際作戦と硫黄島作戦はどちらも旧日本軍が活用していた軍隊用語で、それが生活保護行政に流用されてしまっているのです。役所の人間が生活保護を担当する福祉事務所の現場を「戦場」と見立てているということなのかも知れませんが、戒律化したタテ社会で旧日本軍にもたとえられることがある財務省内でも、かなり軍隊用語が符牒として利用されています。もしかしたら水際作戦と硫黄島作戦という言葉は生活保護の受給抑制を計りたがっている財務省が生み出したのかも知れません。

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小田原市の福祉事務所職員が着用していたジャンバー
ここの職員たちも現場を戦場に見立てていたのか?

とにかく生活保護の申請は極めて難しく、明らかに公助が必要な事態であるにも関わらず保護が行われていない事例は少し調べただけでも恐ろしいほどの数が見つかります。日本の公的扶助の捕捉率が他の欧米諸国と比べて極めて低い水準で15~18%で全人口に比較した利用率は僅か1.6%に留まっています。
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貧困者に対し極めて冷淡な日本の行財政です。

次回書く予定ですが、生活保護の申請で特定政党の議員や貧困者の生活支援を行っている団体や生活保護専門の行政書士さんなどの口添え・付き添いがないと、役所が保護を認めないといった状況があったりします。

今後日本の政局や北朝鮮問題についての論考は下記ブログで掲載していきます。

「お金の生み方と配り方を変えれば 暮らしが変わります」

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