新・暮らしの経済手帖 ~時評編~

わたしたちの暮らしを大切にするための経済解説サイトを目指して開設しました。こちらは時評編で基礎知識編もあります。

役所の裁量に左右されてしまう生活保護の受給資格

前回「簡単にもらえない生活保護 ~保護利用を妨害する水際作戦と硫黄島作戦~ 」は生死に関わるほど極端な貧困状態に追い詰められたとしても、生活保護がすんなり簡単にもらえるものではないということを書きました。過去数十年の間に生活保護を申請しても受理してもらえなかったり、ケースワーカーから執拗に保護を辞退するよう仕向けられるなどして、完全に無一文となり、餓死・自殺・殺人などの犯罪といった形で貧困者が悲惨な最期を遂げるといった事件は数えきれないほど起きています。

生活保護制度最大の欠陥は受給資格の判断が福祉事務所の裁量に委ねられ、外から見たら受給判定の基準が非常に見えにくく曖昧であることです。試しに各自治体のウェブサイトに設けられている生活保護の案内を見ても非常にわかりにくかったり、時には誤った記述まで書かれていたりします。生活保護を必要とする人たちが利用するのを役所が阻んでいるのではないかと思われるようなものまで存在します。

近年生活保護の利用者を求める人たちに対し、なるべくわかりやすく明確な情報を提供するよう改善した好例は市職員による威嚇ジャンバー事件が起きた神奈川県小田原市が作成した「 保護のしおり 」でしょう。

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市職員による威嚇ジャンバー事件が起きたときに小田原市がウェブページに公開していた生活保護の利用案内のページは生活保護が利用できない条件ばかりが先に書かれており、利用者にとっていちばん大事な生活保護の制度主旨を説明したページを一番下に設けるなど、関係者からかなり厳しく批判されたものでした。厚生労働省が示していた生活保護ガイドラインからも外れた記載も多くあったのですが、事件発覚後に小田原市は迅速にウェブサイトの内容の改善を進めのました。

 稲葉剛氏公式サイト記事

小田原市福祉事務所の生活保護に関する業務は、事件以後かなり改善されたという評価が、社会保障関係者から多く報告されるようになりましたが、各自治体の福祉事務所が行う生活保護の受給資格判定のあり方についての問題は解決されたわけではありません。

私が生活保護の受給資格判定で問題だと思うのは各自治体の福祉事務所や担当するケースワーカーによって、判定が緩かったり厳格過ぎるなど統一性がないことです。そのために生活保護の受給資格判定が甘そうな自治体に生活保護利用を求める人が集まってしまうといった問題が起きたりします。
また同じ自治体でも首長が変わったとたんに生活保護行政の締め付けが厳しくなったり、逆に緩くなったりすることもあります。2012年に起きた生活保護バッシングを境に日本全国で生活保護資格認定の厳格化が進みましたが、そのときの政治状況によって判定が厳しくなったり、緩くなったりの繰り返しは利用者に大きな不安を与えることでしょう。

それとよく耳にする話かと思いますが、ある政党の代議士が付き添いや口添えすると、これまで保護申請を却下し続けていた福祉事務所の窓口やケースワーカーの態度が一変し、すんなり保護が開始されたという事例があったりします。貧困者の支援団体や生活保護専門の行政書士が付き添うかどうかで受給資格判定が変わってきたりするのです。

保護を利用をしたい人から見たら判定基準が不透明で、しかも極めて敷居が高く見えてしまう上に、担当ケースワーカーの当たりはずれで保護が受けられたり、受けられなかったりというのは公平性から言っても問題があるでしょう。受給資格判定の際に利用者は資産や所得状況を徹底的に調査されますし、受給が認められてもケースワーカーの訪問のときに、根掘り葉掘り重箱の隅をつつくように生活状況を調べ尽くされます。

関西テレビ制作のドラマ「健康で文化的な最低限の生活」で義経えみる役の吉岡里帆さんは健気で、利用者の気持ちに寄り添ったケースワーカーを演じましたが、実際は彼女のようなケースワーカーはなかなかいないという声が利用者側から出ています。保護利用者が威圧的な態度の男性ケースワーカーにねちねちと嫌味を言われたり、冷淡な態度をとられたという事例はいくつもあります。
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あと先日述べたように日本の公的扶助捕捉率と利用率が他の欧米諸国と比較してかなり低いです。
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その原因は生活保護の受給資格判定の不透明さやケースワーカーの訪問時に土足で私生活を覗かれ、踏み込まれてしまうことへの抵抗が保護の利用を遠ざけているからでしょう。もちろんスティグマ(貧困の烙印)の問題もあります。 

ここまで述べてきた問題はすべて生活保護の受給資格判定が裁量主義的なものであることからきています。
私は生活保護に限らず、行財政は「裁量からルール(法)へ」であることが望ましいと考えています。どういう場合にお金の給付をするのかという明確な線引き・基準・ルールに基づいて、公正・公平に制度運用をすべきでしょう。

私はベーシックインカム・給付付き税控除制度の推進論者ですが、これは所得という条件だけに応じてお金を支給する・しないが決まる現金直接給付制度です。他の理由は一切問いません。いまの生活保護のように役所の福祉事務所がごちゃごちゃと生活状況を聞きだしたり、訪問して資産や所得・生活状況を調査して保護するかしないかを決めるのではなく、確定申告やマイナンバーを活用して所得が極めて低ければ自動的に給付が開始されるような形にすれば制度はうんと利用しやすくなるでしょう。

知的障がいや精神障がい、回避性人格障がいなどで大きく対人コミュニケーション能力が低くなってしまった人ですと、敷居の高い役所に出向き、生活保護の申請を行ったり、受給資格判定を受けることが非常に大きなストレスとなります。そうでない人であっても自分のプライバシーを役所の人間にさらけ出すことは大きな心理的負担となります。
ですので税申告という手続きだけで納税と給付をまとめて済ませられるようなベーシックインカムや給付付き税控除制度に私は惹かれるのです。

ベーシックインカムや給付付き税控除のしくみについては「ベーシックインカム構想 」編で改めて詳しく述べていきます。

次回は福祉事務所のケースワーカーたちが置かれる厳しい職場環境について取り上げます。


今後日本の政局や北朝鮮問題についての論考は下記ブログで掲載していきます。

「お金の生み方と配り方を変えれば 暮らしが変わります」

サイト管理人 凡人オヤマダ ツイッター https://twitter.com/aindanet

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