新・暮らしの経済手帖 ~時評編~

わたしたちの暮らしを大切にするための経済解説サイトを目指して開設しました。こちらは時評編で基礎知識編もあります。

逆に生活の自立と再建を損ねかねない生活保護・補足性の原則

生活保護という制度が抱える問題をずっと取り上げ続けていますが、今回は「生活保護制度の4原則と保護費の算定 」で述べた補足性の原則が保護利用者の生活再建や自立を損ねかねない問題について述べます。

もう一度補足性の原則について説明させていただくと、生活保護制度による保護の開始は利用(申請)者が生活保護基準より所得や資産が下回るような状況にあるときで、基準より不足する額の現金もしくは医療・介護などの公的福祉サービスの支給を行うというものです。
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もし保護利用者が就労などで給与所得を得ている場合はもちろんのこと、老齢年金や障害年金、児童手当など他の社会保障給付や何らかの臨時収入を得た場合、保護を行っている福祉事務所にそれを申告する義務があります。100円単位でも申告ミスがあれば不正受給となります。
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よく高校生などが生活保護の補足性の原則を知らずにうっかりアルバイトの申告をしなかったという場合も立派な不正受給です。

柏木ハルコさん原作の「健康で文化的な最低限の生活」でも高校生の日下部欣也が、親や役所に黙ってアルバイトをしていたために不正受給となってしまった話がありました。日下部家は不正受給と認定された欣也のアルバイト収入分を東区役所に返還しないといけないことになってしまいました。これは生活保護法に基づく当然の行政処分ですが、欣也にとっては懸命に働いて得た収入を全部役所に召し上げられることになってしまい、働き損となってしまいます。欣也は納得いかず理不尽だと荒れ狂って、ケースワーカーえみるの前でギターを叩きつけます。
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とはいえどきちんとアルバイトなどで得た収入を福祉事務所にきちんと申告さえすれば、所得から基礎控除が15,000円、未成年者控除が11,600円差し引かれ、26,600円分は手許に残ります。あと修学旅行や学校の部活費用、学習塾、私立高校授業料の不足分などが控除されることもあります。そうすれば働き損にはなりません。

 参考 生活保護申請のたった2つの条件


このように生活保護の利用者は働いても働かなくても貰えるお金が変わらないなどということはないのですが、それでも控除額される額以上の就労所得を稼ぎたいという意欲を持ちにくくなってしまうという制度上の問題があります。これは保護利用者の経済的自立を阻む要因になってしまいます。

一方保護の開始ですが、利用申請者は不動産や自家用車、貯金や民間保険などといった資産を処分し尽くしてからでないと、保護が認められません。
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完全にスッテンテン状態になってしまってからでないと生活保護は受けられないのです。ほとんど働く能力や意思が失われ、生活再建のための資金や資産が完全に底をついたような状態でやっと保護が受けられるかどうかということです。

貧困状態に陥ってしまう理由や過程は様々ですが、早めに公的援助が行われていれば、就労意欲や能力が完全に損なわれるほどひどい事態になる前に生活再建ができるかも知れません。貧困も早め早めの対処が必要なのです。いまの生活保護行政はギリギリになるまで保護が開始されないために、余計保護者の生活自立を妨げています。

就職をするにしても、定まった住居がないような人ですと、企業が採用しない場合が多いです。地方ですと通勤をするにしても自家用車・バイクなどがないとダメだという場合が多いでしょう。資格を取得するにもそれなりの資金が必要です。そうなってしまうと就職がますます困難になります。

何度か繰り返し私が給付つき税控除やベーシックインカムの導入を進言しているのは、生活再建・自立の資金となる預貯金や生活基盤となる住居まで処分してしまう前に、現金給付という形で早めに所得支援を行った方が結果的に手当・扶助費が安上がりになるのではないかと考えているからです。
給付付き税控除の仕組みですと一定額の税控除額が決められており、低所得者層にはその額の現金給付が行われます。一方所得税率20~30%といったフラットタックスをこれまで非課税だった人にも課され、所得の高さに応じて実質給付額が漸減することになりますが、いまの生活保護制度に比べると働き損になるようなことはなく、働けば働いた分だけ手取りの所得が増えていきます。これなら就労意欲を削ぎにくいでしょう。

貧困状態は深みに嵌れば嵌るほど、就労意欲や能力を喪失し、その状態から脱することが難しくなってきます。生活保護に代わり、もっと柔軟に活用できる生活費支援制度の導入を計っていく必要があるのではないでしょうか。

こちらでも政治等に関する記事を書いています。

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