新・暮らしの経済手帖 ~時評編~

わたしたちの暮らしを大切にするための経済解説サイトを目指して開設しました。こちらは時評編で基礎知識編もあります。

貧困はほんとうに自己責任か ~人は生まれながらにして不平等~

貧困・雇用・格差問題 」編の第2回目は貧困問題の捉え方についてです。

日本で月10万円以下で生活している貧困者の数は2005年のときまで2000万人近くもいました。生活保護の利用世帯は214万人です。そうした状態に至った経緯は様々でひと括りにできません。彼らをひとり一人そうなった理由を聞いて回るわけにはいかないでしょう。前回の記事で貧困・格差問題をいくつかの型に分類してみましたが、これもおよそです。(前回記事「貧困・格差はなぜ生まれる? ~経済学の最も重要な使命・貧困の解決~ 」)

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日本の中で貧困者と最も多く接する機会がある人は生活保護に関わる福祉事務所のケースワーカーであるかと思います。生活保護を利用する人たちの多くは高齢者や母子世帯、病気や障がいを持った人たちです。それ以外の理由で保護を利用している人は2割にも及んでいません。
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しかしながら生活保護を利用している中に酒に溺れて完全に身を崩してしまったり、反社会的行動を続けてきた元暴力団関係者や元服役者であったり、乱暴にお金を遣って遊興・放蕩の限りを尽くしてきたような人がいることも否定できない現実でしょう。もし仮に自分の目の前でこういう人たちがいたとしたら「貧困状態に陥ったのはあなたの自業自得でしょ」と誹りたくなるのは当然です。しかしながら彼らの状況を深く知っていくと、背後に人知れぬ障がいや離婚、家庭崩壊、事業失敗や失業、幼少期に親から受けた虐待といった不幸や不運が見えてくるかも知れません
また同時に一見とんでもない人の存在は貧困という現象の極めてごく一部分でしかないと思っておくべきでしょう。いちばん上の表で見たら気づかれるかと思いますが、本当に貧困者個人の自己責任でそうなったといえない事例の方が圧倒的に多いことが予想されるでしょう。

貧困に陥ってしまったのはすべてその人の責任だと受け止めてしまう人が多くいますが、私はそういう物事を全部黒か白、あるいは善か悪しかないような見方は非常に危険だと思っています。貧困問題というのは元々ひとつの原因や理由、過程で生まれるものではないということだけは必ず頭に入れておくべきです。

アルコール依存症で酒に溺れている人
元ヤクザ・元服役囚
芸能人や漫画家を目指す夢追い人
元成金で豪遊の限りを尽くし、散財して無一文になってしまった人

貧困者の中にこういう人が存在することは事実であるけれども、それは複雑多様な貧困問題の小さな一面に過ぎません。人間の視野はスポットライトと同じで極めて狭い範囲でしか、ものごとを把握できないものです。たまたま偶然どうしようもないほど崩れてしまった人を見たというだけで「貧困は自業自得だ」とか「自己責任だ」などと決めつけるべきではありません。

前回記事で自分が例示した貧困形態は5分類ですが、これは相当大雑把な貧困・格差の把握です。
それでも多くの貧困が個人の過失で起きたというよりは、社会構造問題や経済政策の失敗、自然災害や戦乱など個人の不可抗力によってそうなってしまっている場合の方が多いでしょう。

ここのブログサイトで散々批判してきましたが、日本が「失われた20年」という異様な長期経済低迷に陥り、それが元で雇用悪化や企業倒産・廃業を加速させ、貧困や格差を拡大してきたといえましょう。これは偶発的なものではなく三重野康から白川方明までの歴代日銀総裁による金融政策の失敗・無策や緊縮財政を推し進めた財務省とその子飼いである政治家たちがもたらした経済衰退です。この経済低迷期でよい就職先が見つからず、低賃金の非正規雇用に甘んじざる得なかった人たちは自身の能力不足でそうなったわけではありません。

それともうひとつ忘れてはならないことがあります。
「人間は生まれながらにして不平等」
だということです。

残念ながら人はみな同じ体、同じ脳、同じ顔・姿で生まれてはいません。
恐ろしく知能が高かったり、スポーツ選手のように身体能力がずば抜けて高い人がいるかと思えば、重い知的障碍を持って生まれてくる人もいます。
美人で生まれる人もいればそうでない人もいます。
日本という平和かつ安全で経済的にも先進国のひとつに入る国で生まれる人もいれば、独裁や戦争、経済混乱に陥っている国で生まれる人もいます。
同じ日本でも裕福で親の愛情をたっぷり受けられる家庭環境で生まれ育つ人がいれば、貧困世帯で生まれたり、親から虐待を受けて育った人もいます。

つまりすべての人が同じスタートラインに立って競争しているわけではありません。格差のある社会で私たちは生まれ育っています。

この世に神など存在しません。この世は不平等で不公正です。
個人の力だけではどうしようもない運不運で恵まれた生活が送れるか、貧困に喘がねばならないかが左右されてしまう現実があります。

そうした世の中の理不尽さを少しでも是正していくのが、政治や経済学、社会保障の使命といえましょう。

次回の予定は経済構造に起因する貧困・格差問題と景気循環要因による貧困の発生の違いについて取り上げるつもりです。ピケティ教授やマルクスを登場させるかも?

こちらでも政治等に関する記事を書いています。

「お金の生み方と配り方を変えれば 暮らしが変わります」

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