新・暮らしの経済手帖 ~時評編~

わたしたちの暮らしを大切にするための経済解説サイトを目指して開設しました。こちらは時評編で基礎知識編もあります。

資本主義経済と共に生まれた不況や失業問題

今回も産業革命期と初期の資本主義経済についての話です。ここまでは資本家階級の暴走によって起きた貧困や格差、公害や疫病・犯罪の多発による都市の荒廃について述べてきましたが、今回は不況や失業の発生についての話です。

深刻な不況や貧困の発生は当然のことながら産業革命期以前にも存在しました。ただしそれは天災や戦争などの理由で農産物の収穫が著しく落ち込んだといった理由でしたが、資本主義経済が生まれてから発生する不況は性質が異なるものです。
資本主義経済において起きる不況はある一定の周期で発生するもので、原因として考えられるのは供給力が高すぎて余剰生産物が発生しやすくなるという理由です。いわゆる供給過剰・需要不足型不況です。19世紀のイングランドでは8~10年おきに大きな不況が発生します。1825年には初の恐慌という事態を迎えました。
この後に発生した1836年、1847年、1857年に恐慌が発生し、イングランドだけではなく、アメリカやフランス、ドイツまで巻き込むようになっていきます。
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1837年の恐慌による失業の様子を示すホイッグの風刺画

恐慌発生の理由は単に生産・供給の過剰とそれに対する需要不足だけではなく、金本位制が足かせとなっておきるマネー(資金)不足中央銀行の金融政策判断ミスによる高金利が招いたものでもありますが、その点の話はこのブログサイトの別記事 「バブルと恐慌の発生 」編に譲り、生産・供給と需要のアンバランスから生じる型の不況について論じていきます。

現代マクロ経済学ではあまり重視されなくなりましたが、古典的な景気循環に関する理論の代表例は4つあります。
1 キチン循環
 約40ヶ月の比較的短い周期の循環で、
 好況期で商品の過剰生産→在庫調整による生産活動の縮小で景気停滞→在庫解消による生産活動回復
 の繰り返しをするという学説です。
2 ジュグラー循環
 約10年周期の循環で、企業が投資した生産設備の更新間隔に起因するもの
3 クズネッツ循環
 約20年周期の循環で住宅や商工業施設の建て替え・更新の間隔によって生まれるもの
 約50年ほどの周期で起きるもので、産業の形態や構造変化によって生ずるものという説です。
 第1期の波はイングランドを起点とする産業革命で紡績や蒸気機関を中心とするもの
 第2期の波は1840 - 1890年代における鉄道建設ブーム
 第3期の波が1890年代以降の電機・化学・自動車産業
 そして現代はITなどの電子産業
といったところでしょう。

1~3の説はいずれも需要(デマンドサイド)がさほど伸びていないのに、供給(サプライサイド)能力が高すぎて、過剰生産物や過剰投資、過剰労働力が生じてしまうことが不況発生の主因であるという見方だといっていいでしょう。
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4のコンドラチェフ循環についてですが、これまで無かった新しい産業や革新的な商品が生まれることで、新規の需要が創出され、それまで過剰だった労働力や生産設備が、新興産業に吸収されていくことで不況を克服するものの、その新興産業がまた需要の飽和期を迎えると衰退していくという流れで生まれるものかと考えられます。

資本主義経済によってモノやサービスといった財の生産能力が飛躍的に向上したのですが、皮肉にもそれが供給過剰や需要不足に陥りやすいという問題を常に抱えるようになってしまいました。
さらに機械導入による効率化によって、少ない人の労働量でも生産量を増やすことが可能となります。多くの資本家・実業家たちは人間の労働者の雇用を増やすよりも設備投資で機械を増やしたがるでしょう。そうなると資本家・実業家から労働者へ賃金という形の所得分配が少なくなり、資本家や実業家の富が殖えていくだけとなります。「産業革命の陰で進んだ労働者の貧困 」で話したラッダイト運動での工場機械打ち壊しも労働者たちがそう考えたことにあります。
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カール・マルクスは資本家たちは機械を導入することで、労働者の労働時間を削り落として、相対的剰余労働時間(剰余価値を大きくすることで、儲けの中から労働者への分け前である賃金を少なくして、自分の富を殖やそうとすると考えました。資本家が労働者から剰余労働(価値)を搾取することによってどんどん富を殖やしていくのに対し、失業や賃金の低下で労働者への所得分配が薄くなり、さらに労働者は資本家から剰余価値がついてしまった高い商品を買わされることでまた搾取されるという繰り返しになるというものです。

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マルクスによれば不況や恐慌の元凶は労働者たちが資本家の搾取によって窮乏化してしまい、資本家が商品を生産してもそれを買うことができなくなってしまうからだと説明します。
(この後で述べるようにマルクスの言っていた説が正しいとは言い切れません。)

実際にはある産業分野の機械化や省人化が進んで、その雇用が減ったとしても、別の新しい産業が余剰労働力を吸収して、生産設備がダブつきまくったり、失業者が増えっぱなしになるようなことはありませんでした。しかしながら近年AI(人工知能)などの発達によって、技術的失業が増加するのではないかという話も浮上してきています。
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「AI→BI→CI」を唱えている井上智洋さん

できることであれば景気の浮き沈みによる生産活動や雇用の変動が少ない方がすべての人々にとって望ましいのですが、実際の経済活動はなかなかそううまくはいきません。好況期にはどこの会社の経営者も「いまの好調は今後も続いて、ウチの会社の商品はどんどん売れ続けるだろう」と考え、投資を拡大し生産の拡大を計ろうとします。ところが需要の飽和状態に達し、景気の減速期が来たことに気がつくのが遅れて、過剰投資や過剰生産をしてしまうといった調子で、経済活動のフラット化はなかなかできないものです。

とはいえど金融政策や財政政策によって景気が異常過熱しているときは金利引き上げや財政引き締め(増税や歳出削減)といった方法で冷まし、逆に景気や雇用が悪化したときは金融緩和政策で金利引き下げや銀行が企業への融資を行う資金となるマネタリーベースを積み増しするなどして企業の投資や雇用意欲を刺激したり、財政政策の拡大で人々の消費行動を活発化させるといった形で景気回復を計ることができます。適切な金融政策と財政政策を行えば需給バランスを適正に保ち続け、浮き沈みの少ない安定的な経済成長を持続することが可能です。拠って現代の経済学者は上で述べたような景気循環の理論についてはあまり関心を持っておりません。

調べてみますと1836年の恐慌についても発端はイングランド銀行の役員たちが金利を引き上げたことで、アメリカから金利の高いイングランドへ資金が流出してしまうのを恐れたアメリカの銀行までもが金利を引き上げてしまったことでした。イングランドはこのとき主食糧品である小麦の収穫が低く、輸入を増やさざる得なかったのですが、そのためにイングランド銀行保有残高が近年急激に減少したと役員は発表します。イングランド銀行はマネー不足のために金利を3%から5%へ引き上げてしまったというわけです。
金利の引き上げは実業家たちの投資意欲を冷え込ませます。また1990年代に日本でバブル景気が崩壊したときのようにアメリカの銀行は融資先から貸し剥がしを始め出しました。

となってくると産業革命や資本主義経済誕生直後におきた恐慌は、過剰供給力や過剰生産物の発生が招いたという説だけではなく、中央銀行の金融政策やマネー(資金・マネタリーベース)不足が招いたものだという見方をすべきでしょう。拠って一見景気循環要因で起きたかに見える不景気についても金融政策や財政政策で対応可能であるということになります。


日銀のウェブサイトに用意してある子ども向けの金融政策に関する解説図

景気過熱のとき
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不況のとき
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次回はマルクスエンゲルスについての話の予定です。

こちらでも政治等に関する記事を書いています。

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