新・暮らしの経済手帖 ~時評編~

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ピケティ教授が立証しようとした資本主義経済における経済格差

マルクスの労働価値説と剰余価値説は正しいのか 」でマルクスエンゲルスは資本主義経済下において労働者はその労働力を資本家に搾取され、経済的不平等が発生する構造を「資本論」で書き明かそうとしたという話をしました。彼らは(労働)時間という観点から立てた労働価値説や剰余労働価値説を用いて、資本家による労働者からの搾取構造を説明しようとしたのですが、この論法は無理があったという話を私はしています。

けれどもマルクスらが思い描いていた一部の資本家・資産家に富や財が集中してしまう構造的問題を資本主義経済は抱え持っているのだという仮定は外れていなかったとも述べました。数年前に世界的なベストセラーとなり、日本でも大ブームとなったトマ・ピケティ教授の「21世紀の資本」で経済成長の進み方よりも、富裕層らの資産が膨張する勢いの方が上回っているという事実があることを膨大なデータを示しながら立証したのです。

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この本は600ページにも及ぶ分厚い本ですが、その内容は過去200年以上の歴史的なデータとその解説が多くを占めており、そこから導き出されたことはr(資本収益率)の方が、g(経済成長率)を上回ることによって貧富の差は広がる
という事実です。

通常「資本」とはモノやサービスを産み出す事業の源となる財貨等を指し、生産の三要素(=土地・資本・労働)の一つであります。しかしながらピケティ教授が定義する資本とは不動産や株式投資、債権と言った資産のことを指すようです。上のr>gの式に出てくる資本収益率rとは、そうした資産から得られる利潤、配当金、利息、貸出料などといったものの割合です。そして経済成長率gは、給与所得など実働・実業から得られた収益を指します。

ピケティ教授は長期的にみると、資本から得られる収益率が経済成長率を上回れば上回るほど、それだけ富は資本家へ蓄積されてしまうと述べます。そして富が公平に分配されないことによって、貧困が社会や経済の不安定を引き起こしていくといいます。
本の中に書かれている具体的数字では資本収益率(r)が平均で年に5%程度で、経済成長率(g)は1%から2%の範囲しか伸びておりません。社会の中で一般的な人々が実業や実働で得ている富よりも、人口全体のわずか1割にも満たない資産家たちが株や不動産などから得る利得が蓄積される勢いの方が上回っているということです。

さらにピケティ教授は資産家たちが蓄積した富を労働者に分配せずに、自分の子へ相続させることで、さらに経済格差が増長することを指摘します。これを氏は「世襲制資本主義」と呼びます。

所得の偏在状況について述べるとアメリカの場合、所得高上位1割の層が得る所得の割合はなんと国民全体の総所得の半分である50%を占めます。ヨーロッパでも国全体の総所得の40%を上位10%の層が得ているというのです。
一方資産の方ですと驚くべきことにアメリカ・ヨーロッパ共々上位10%の層が7~8割も寡占しています。

2011年にアメリカのウォール街で貧困や格差の拡大に不満を持つ一般市民たちがアメリカ経済界・政界に対して抗議運動が繰り広げられましたが、このときに「We are the 99%」というスローガンが用いられました。ピケティ教授らの研究が反映されてのことです。
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これはピケティ教授が言っていたことから少し外れますが、モノやサービスの交換といった実物経済での取引に遣われるマネー以上に、株や為替取引など投機に遣われる泡銭のようなマネーが何倍も生まれています。こうした投機マネーが信用膨張による資産バブルやその後の金融危機や恐慌といった経済混乱を招くのです。

話を戻しますと、世界中で富やマネーが極めて少数の富裕層に一極集中し、他の99%の民衆には所得が分配されない状況にあり、遠心分離機にかけたように貧富の二極化が加速していきます。企業は競争を繰り返すうちに絶対強者というべき企業がシェアを独占・寡占するようになったりします。一部の者や企業による経済支配力がどんどん強大になり、寡頭化していく流れです。自動車や電機産業なんかを見ましてもメーカーの統廃合や系列化が世界規模で進み、集約化されていっています。国際競争だけではなく、環境や安全規制の厳格化でひとつの商品を開発するにも巨大な資本力が必要となってきているため、企業同士の統合や集約が避けられなくなっているのです。
かつてドイツの自動車メーカーであるメルツェデスベンツは「最善か無か(Das Beste oder nichts.)という標語を掲げ、この会社の人間は「世の中で最善と呼んでいいのは我々メルツェデスだけなんだよ。BMW?あんなのはクルマもどきだ!」などとゴーマンをかましてたりしましたが、唯一の絶対王者とそれ以外といった調子で世の中が二極分解していくのが資本主義の帰結といえるかも知れません。
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草食動物のインパラもボスである一頭のオスが多数のメスを独占します。彼らも寡頭社会です。

このまま富やマネーの一極集中が進んでしまってはまずいでしょということで、ピケティ教授は最高税率年2%の累進課税による財産税と最高80%の累進所得税を富裕層に課すことを提言します。ただし一国だけがこのような税をかけてしまうと、資産家や企業がタックスヘイブンといわれる国へ資産を移し替えてしまい、租税逃れをする可能性があるので、国際条約を結んでそれを防止しなければならないことも述べておりました。

とピケティ教授の主張をあっさりとまとめて書きましたが、経済格差を是正するための税制のあり方についてはもう少し掘り下げて検討しなければならないと思います。教授が提言した累進課税による資産税および所得税についても賛成・反対双方の意見が出されています。ピケティ教授の研究で資本主義経済で富の偏在という問題が発生するらしいということはわかったけれども、だからといって資産家に重税を課していいものなの?といった道義的疑問も出てきましょう。その議論も不可避です。

次回は富の一極集中といった現象がなぜ発生するのかということについて考えてみたいと思います。


こちらでも政治等に関する記事を書いています。

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