新・暮らしの経済手帖 ~時評編~

わたしたちの暮らしを大切にするための経済解説サイトを目指して開設しました。こちらは時評編で基礎知識編もあります。

カルロス・ゴーンの貢献は高額報酬に見合ったものだったのか?

前回の記事「ピケティ教授が立証しようとした資本主義経済における経済格差 」の続きで、教授が問題視していた富の偏在や寡占がなぜ起きるのかということについて、こちらで考察していきます。

ピケティ教授は「21世紀の資本」においてモノやサービスを生産する実業や実働で得られる所得である経済成長率(g)よりも、株や不動産などの資産の運用益や投機による利ザヤで得る所得(r)の膨張速度の方が高いと指摘します。
アメリカの場合、所得高上位1割の層が得る所得の割合はなんと国民全体の総所得の半分である50%を占めます。ヨーロッパでも国全体の総所得の40%を上位10%の層が得ております。
一方資産の方ですと驚くべきことにアメリカ・ヨーロッパ共々上位10%の層が7~8割も寡占しています。

ピケティ教授は過去200年以上に渡る膨大なデータからr>gの関係を導出してきたのですが、気になるのはそうした事象がなぜ発生するのかということです。資本主義経済というシステムにおけるモノやサービス、マネーを交換する商行為の契約関係に何らかの欠陥が潜んでいると見た方がいいでしょう。我々の経済活動において一見公正(justice)にみえて不公正な不等価交換が行われている場面があるということです。

ピケティ教授と同じくフランス絡みの話になりますが、長年に亘りルノーと日産の会長として君臨し続けたカルロス・ゴーン金融商品取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載)や特別背任罪等の疑いで東京地検特捜部に逮捕されるという事件が2018年末に起きました。
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彼が行った日産の収益の私物化が今後捜査によってどこまで立証されていくのかどうかわかりませんが、私が抱いているゴーンに対する見方は良くも悪くもハッタリ師だというものです。1990年代末期に日産が経営破綻の危機に陥っていたとき、当時COO(最高執行責任者)だったゴーンが債権者や株主などの不安を払拭し、業績をV字回復させた手腕は、彼のハッタリが良い意味で効いたといえましょう。ゴーンは日産リバイバルプランで1・・・3年間での販売台数をグローバルで100万台増やす 8・・・8%の連結売上高営業利益率の達成 0・・・負債をゼロにするという3つの目標を実現させる。それができなかったら自分は辞任するとコミットメントしました。自ら退路を断つほどの覚悟を見せて債権者や株主などの不安を封じ込めたのです。

しかしながら日産の経営を再軌道にのせた後のゴーンは、次第にフリーライダー(ただ乗り)と化し、自らの実力や貢献を高く見せかけ、日産の収益や資産をルノーに吸い上げさせたり、自分の私服を肥やすためのハッタリやペテンとなっていったのでしょう。日産を”サイフ”化させたのです。
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ゴーン個人の話は経済学的視点でいえば極めてミクロなことに過ぎず、すべての経営者にあてはまることではないのですが、彼らの貢献や能力、労苦が実際にはさほど大きくないにも関わらず、それを過剰に鼓舞し、莫大な報酬を奪っている強欲かつペテン師的な経営者はかなり多く存在するでしょう。日本においても深刻な経営危機や重大スキャンダルを起こした企業の経営者たちが巨額報酬を受け取り続け、非難を浴びたことがあります。

ゴーンは日産を復活させた辣腕経営者として高く評価され続けてきましたが、冷静に考えてみたとき、数百万円のお金を出して日産が生産したクルマを購入した顧客たちはゴーンの魅力に惹かれて選んだのでしょうか?ユーザー側からみたときの日産車の使用価値はゴーンが生んだものでしょうか?
本田宗一郎氏が現役で社長でありながらエンジニアでもあった時代だったときのホンダ車やバイクは「親父さんの魅力に惹かれてホンダを選んだ」なんてことがあったかも知れませんが、ゴーンが日産車の魅力を上げ、使用価値を高めるためにどれだけ貢献したといえるのでしょうか。彼の就任初期に「デザインを変えろ」と口出ししたことは憶えていますが、エンジニアではない彼が日産車独自の走り味というべき動質を高め、R32スカイラインGT-Rなどといった名機に惹かれたようなコアな日産マニアの満足度をどこまで深めたかです。

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シルビア
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「和製欧州車」とクルマ通から高く評されたP10 プリメーラ

かつて日産は「あっ、この瞬間が、日産車だね」「乗って体感 日産車」というコピーを使っていたことがありますが、日産車ならではのクルマの動きや操作感、エンジンフィールといった官能品質を造りあげてきたのは各エンジニアやテストドライバーたちであり、人々の心を惹きつけるような魅力的なデザインを生み出したのはデザイナー、そして安定した製造品質を守り続けたのは無数の職工さんやパーツを供給し続けたサプライヤーでしょう。顧客にとってかけがえないのない満足や使用価値を生み、そして剰余価値によって日産に多くの利益を与えたのはゴーンではなく、設計や製造に携わる日産の現場社員たちです

ゴーンは日産の再建を請け負ったCOO時代においては優れた経営者であったかも知れませんが、すでにそれは20年近くも前の話です。いま現在の彼がどこまで日産に貢献していたといえるのでしょうか。
漏れ聞こえてくる話では、フランスのマクロン大統領がルノーの経営に大きく干渉し、日産や三菱をルノーと完全に統合してしまおうという動きがあったようです。ゴーンはマクロンらの圧力を跳ね返し続けていたために、日産や三菱側はゴーンの金銭に対する強欲さを許容してきたけれども、ゴーンの態度が完全統合容認に傾いたために、三行半を突き付けられてしまったという話です。ゴーンはマクロンの圧力を跳ね返す役目を果たさなければ数十億円・・・・いや百億円レベルにも達するかも知れない報酬や陰で行われていた資金の私的流用はあまりに法外かつえげつないもので、今の彼の貢献度はその額にとても釣り合わないものであるというのが、西川社長らをはじめとする他の日産経営陣の見方だったのでしょう。

もちろん「日本企業が経営者や役員に支払う報酬額は他の欧米諸国と比べると低く、数十億円レベルを用意しないと優秀な経営人材が日本企業から離れてしまう」といった声があることは私も承知しています。その企業の業績を飛躍的に改善させるなど非常に高い貢献をした経営者や役人には惜しみなく、何十億円という報酬を与えるべきです。ついでに言ってしまえば民主党政権時代まで低迷していた日本経済をV字回復させ、外交もしっかりこなすことに貢献した安倍総理には個人的に億レベルの報酬を出しても国民として惜しくありません。

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ゴーンよりはるかに大きな兆円レベルの経済貢献をした日本という国の最高経営責任者・安倍現総理

企業の経営者や役員に支払われる報酬の支払いは、よく識者が述べているように、その企業の業績を反映する株式で行う形が最も公正で納得しやすいものでありましょう。経営者たちの経営手腕が高ければ株価が上がり、自分たちの報酬額が増えて、良い経営を行おうとするインセンティヴを高めます。

今回の記事は企業の経営者や役員に支払われる高額報酬についての批判となりましたが、かといってそれを完全に否定する意図を私は持っていません。優れた貢献にはしっかりと手厚い報酬をすべきです。
企業の活動で得た収益は経営者や役員であろうが、現場の社員であろうが、貢献度や労苦に応じて、それに見合う報酬をきちんと支払い分配していくべきでしょう。

次回も所得分配についての話です。

こちらでも政治等に関する記事を書いています。

「お金の生み方と配り方を変えれば 暮らしが変わります」

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