新・暮らしの経済手帖 ~時評編~

わたしたちの暮らしを大切にするための経済解説サイトを目指して開設しました。こちらは時評編で基礎知識編もあります。

資本の膨張と富の寡占が起きてしまう背景

今回もまたトマ・ピケティ教授の「21世紀の資本」で取り上げられていた経済格差問題の話です。
 参考

前回は日産の会長を務めていたカルロス・ゴーンが会社の利益を私物化してしまっていたという事件を通して、経営者や役員らが自分の貢献や能力を実際以上に鼓舞して富を独占してしまう問題について述べました。

今回は経営者自身の強欲さやペテン師まがいの収益搾取の問題ではなく、少数企業による業界シェアの独占・寡占について考察していきます。

資本の集中や独占・寡占の問題についてはカール・マルクスの時代から指摘されております。
イングランド産業革命は繊維などの軽工業から始まっていきましたが、やがて鉄鋼や鉄道・船舶・兵器などといった重化学工業の発展も進んできます。それは当然のことながら莫大な資本がないと起業できない事業です。こうした重化学工業は巨額の富を集めることができる資本家が多く勃興してきたから、その事業が実現可能になったということができますが、この時期において圧倒的な資本力をもつ資本家と弱小の中小企業が持つ競争力の差は加速度的に拡がっていきます。やがてはごく少数の巨大資本が販売市場を独占するようになり、中小企業がどんどん淘汰されてしまうことになります。

現代においてもこうした資本の一極集中化や寡占という現象がありとあらゆる業界で見受けられ、それが世界規模で行われています。自動車メーカーや電機メーカー、その他の業種でも特定の企業が競争力を失った企業をどんどん呑み込んだり、メーカー同士が業務提携や合併という形で経営統合されていきました。
自動車を例に言いますと近年環境規制や安全性の強化などで開発コストがどんどん嵩むようになってきています。エンジンなどの開発は単独で自力開発できなくなってしまい、他のメーカーから供給してもらうなどしないといけない場合が出てきています。また業界全体で需要のパイが拡大しにくくなると、ますますその研究開発コストを回収しにくくなります。

そして世界規模で市場の独占や寡占が極端に進んでしまった業界といえばコンピューターなどの電子機械や情報産業ではないでしょうか。我々の使っているパソコンやスマートフォンタブレットなどのOSは僅か数社で市場を寡占しています。
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OS分野で圧倒的な市場占有率を得た企業の一つである
マイクロソフトの創業者の一人で会長も務めたビル・ゲイツ

旅客機については1位エアバス、2位ボーイング、3位エンブラエル、4位ボンバルディアの4社が市場を寡占しています。
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そのうち1位のエアバスと2位のボーイングが旅客機がなんと8割もシェアを占有している状況です。

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多くの人命を預かり空を飛ぶ航空機は全体で数百万個という部品をミリ単位以下の精度で組みあげ、しかも高度なコンピューターによる制御系統が何重にもめぐらされております。巨大でありながら非常に複雑かつ繊細な精密工業製品であるともいえます。そんな航空機の開発には長大な時間と何兆円にものぼるコストがかけられることになり、それだけ企業が負担するリスクも大きなものになるわけです。巨大な資本がないと開発できないのが飛行機です。昔はダグラスとかロッキードといった航空機メーカーもありましたが、莫大な開発コストとリスクに耐えきれず消えてなくなりましたね。
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今後も技術の高度化とその競争はますます加速し、さらに巨大な資本力を持たないと各企業は競争に参画することが難しくなってきます。ある業界に新規参入するにしても、競争レベルが既にかなり高くなっているために、参入の軍資金(資本)をかなり高く積まないといけなくなっています。資金だけではなく、高度な技術的蓄積や経験がないまま新規参入しても、すぐに競争から脱落することでしょう。「勝ち組」企業が延々と勝ち続け、ますます市場を独占的に支配するという流れになっていきます。

さらに資本集約型産業の場合、人よりも機械や設備に対する投資の割合が大きくなってきます。巨大産業でありながら、雇用はさほど吸収されず、それによる所得分配もあまり進まないという技術的失業が拡大される可能性も出てきます。仮に雇用が生まれたとしても、その巨大企業グループの中でピラミッド構造が構築されていると、その中で大きな所得分配格差が生ずることが起きがちです。

ピケティ教授は資本のことを不動産や株式投資、債権と言った資産と定義づけているようであり、読み取りに注意が必要ですが、資本収益率(g)>経済成長率(r)となっていく構図も、産業界において工場や生産設備など比重が高まったことも関係あるかも知れません。商工業活動で得た収益を新たな設備投資につぎ込み、それが資本としてさらに巨大化していくという流れを私は想像しています。

このようなことを延々と書き続けていくと、資本主義経済は格差や不平等をどんどん拡大させる悪魔的なシステムだと思われるかも知れませんが、多くの人々に優れたモノやサービスといった財を豊富に分配し続け、非常に効率がいい経済システムであるという善の部分を捨てるわけにはいきません。上で述べたように我々が普段使用している電子媒体や旅客機、船舶、クルマなどは独占資本の財力があるからこそできたものです。

資本主義経済の下で起きる経済格差の問題については次回以降にお話する予定の所得再分配で改善していくしかないでしょう。

資本主義経済による非常に高い財の生産力や効率性を活かしつつ、それによって得た富をさらに広くまんべんなく、(再)分配していくことが大事になってきます。

こちらでも政治等に関する記事を書いています。

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