新・暮らしの経済手帖 ~時評編~

わたしたちの暮らしを大切にするための経済解説サイトを目指して開設しました。こちらは時評編で基礎知識編もあります。

逆にロスジェネ層や女性就労者・ひとり親世帯を苦しめる昭和型雇用制度

「失われた20年」といわれる1990年代以降の日本経済停滞によって、生まれた貧困や経済格差問題のことを取りあげ続けています。
1990年代の雇用不安定化とロスジェネ世代の発生がもたらした深い傷 」という記事で20年間にも及ぶ雇用の不安定化によって正規雇用という形で就職できなかったり、就職できてもリストラや会社の倒産、ブラック企業と呼ばれる劣悪な労働条件の会社で心身ともに消耗してしまうなどして、所得が著しく減少したり不安定になってしまった勤労者が数多く生まれたことを述べました。
さらに「「失われた20年」で露呈した高度成長期型社会保障制度の限界 」で終身雇用や完全雇用が当たり前だった昭和時代に設計された社会保障制度が、バブル崩壊以後に生まれた長期失業や非正規雇用の拡大といった問題に対応できなくなっている点を指摘しております。

私は金融政策や財政政策といったマクロ経済政策と厚生行政について強く関心を持っており、どちらかといえばミクロの経済政策である”構造改革”の話についてはここであまり触れてきていません。しかしながら昭和時代の終身雇用制度や年功序列制度、厳しい解雇規制がバブル崩壊以後の不確実性を増した経済情勢に合わなくなってきた点を無視することはできないでしょう。解雇規制緩和や同一賃金・同一労働制や男女間の賃金格差・待遇是正といった雇用制度改革の必要があると思います。

金融緩和政策や財政拡大政策によって供給側に比べ不足する有効需要を盛っていくことによって、企業の投資が活発になり、就労者へも雇用や賃金上昇によって所得分配が加速すると説明されます。しかしそれはマクロすなわち全般的に所得分配が進むという意味で、個々の分配状況は大きく異なります。「金融緩和政策や財政拡大さえやれば景気が良くなって雇用が回復し、賃金が上がっていく」というだけで済まされがちですが、個々のミクロ面を見渡すとそれだけでは不十分だということに気が付かされます。金融政策で国全体の富というパイを大きくし、雇用制度の改革や財政政策でより広くまんべんなく所得(再)分配できるようにしていくべきでしょう。
2013年以降のアベノミクスによって企業の設備投資や雇用が劇的に改善したと言われていますが、「パートやアルバイトなどの非正規雇用ばかり増えているだけ」とか「正規雇用がさほど増えず、賃金も伸び悩んでいる」などと批判されたりもしました。あと「失われた20年」によって長い間非正規雇用に甘んじ続けたまま中高年になってしまった人たちの所得が伸びないことや結婚・出産で一度離職した女性が復職しても高い所得が望めないという問題も存在しています。そういった人たちはアベノミクスの恩恵を受けられていないじゃないかという声が左派系の人たちを中心に出ています。

日本の場合、右肩あがりの高度成長期に生まれた終身雇用制度や年功序列制度といった雇用慣行が今もなお深く根付いたままですが、これがいわゆるロスジェネ世代の復職や転職を阻み、不安定な低所得者のまま中高年を迎える原因をつくっていたりします。男女間の雇用・賃金・待遇格差は離婚などでシングルマザーとなってしまった女性や子どもたちを貧困に追いやることにもつながっています。
長年日本は「新卒で一度コケたら後がない」「男女間の賃金格差が先進国の中で最大」「転職は35歳が上限」といった常識に縛られ続けました。このことは日本の雇用の柔軟性を大きく損ね、中途失職者や女性たちの再就職を阻んだり、所得を低く不安定なままにしてしまいました。
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解雇規制緩和や終身雇用制度ならびに年功序列制度を解体することは労働者側に不利だと思えるかも知れませんが、人生のやり直しができない社会がほんとうにいいものなのか考えてみるべきでしょう。

企業側にとって雇ってみたけれども、仕事の能力だけではなく性格までひどくいびつで顧客や他の社員ともトラブルを起こすようなひどい社員であることがあります。解雇規制が厳しいとそういう社員を辞めさせることが困難で、たった一人の社員が会社全体の人間関係をおかしくしてしまい、業績を悪化させることにもなりかねません。中村淳彦氏の「中年童貞」に登場したような人物が入社してきたらどうしますか?
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逆に労働者側にとっても入った会社がものすごくブラックで、毎日過酷な長時間過密労働やパワハラによって、ひどい鬱病に追い込まれてしまうような状態でしたら、早く退職して別の会社へ転職した方がいいときがあります。ブラック企業に勤めて過労自殺に追い込まれるような人たちも「新卒で一度コケたら後がない」「転職は35歳が上限」といった思い込みで自分で自分の逃げ道を塞いでしまっていた可能性が強いでしょう。
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もう企業側が終身雇用や年功序列制度といった昭和型雇用制度を維持できなくなっています。欧米のように何度でも転職しやすく、それをやっても不利にならない雇用慣行へ移行した方が労使ともども身軽でいいのではないかと思います。

解雇規制緩和を行うと労働者側は無収入になってしまうリスクが生じますが、それについては解雇時の補償金増額や長期失業に対応した雇用保険制度、給付付き税控除やベーシックインカムの導入で対応すればいいでしょう。もちろんそれより前に、適正な金融政策による雇用需要の確保が第一となります。

こちらでも政治等に関する記事を書いています。

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