新・暮らしの経済手帖 ~時評編~

わたしたちの暮らしを大切にするための経済解説サイトを目指して開設しました。こちらは時評編で基礎知識編もあります。

消費税に対する幻想が将来を奪う

今年2019年10月に消費税率を10%に引き上げる予定となっており、方々から非難の声が上がっています。
こちらもかねてより、まだ景気回復の動きが盤石とはいえない時点での消費税率引き上げにずっと反対し続けてきました。ここ最近中国・アメリカ・EU圏において経済失速の兆候がみられており、日本も景況感が悪化しつつある状況です。この状況で消費税率を10%に引き上げることは、これまで順調に回復してきた民間企業の投資や雇用を再び破壊してしまう危険性が高いでしょう。
消費税率10%引き上げの再延期あるいはもっと踏み込んで中止の決断を下せるのは安倍総理しかいません。その決断を下せる最終期限は今年4月まです。私のような一小市民が訴えても何の力にもならないでしょうが、安倍総理が消費税率引き上げ見送りをしなければ、これまでのアベノミクスは台無しになるかと思われます。

イメージ 6

しかしながらその一方で相変わらず消費税率を高めていかねば国家財政の健全性が守れず、社会保障制度の維持が難しいと考えている人たちが山ほどいます。これについてもここで何度か間違いだと指摘し続けてきました。それでも一度「国家財政破綻」とか「ハイパーインフレ」という言葉が頭にこびりついてしまうと恐怖心から逃れられなくなります。こちらとしては藤井聡三橋貴明、中野剛志らのような財政赤字当然論や財政政策一辺倒主義の主張を否定しており、財政規律を無視すべきではないと考えますが、金融緩和政策や財政拡大政策を完全否定し、財政規律のことしか頭にない人たちもかなり害悪な存在だと思っています。

消費税率の引き上げを主張する人たちの話を聞いてみると、それによって国家財政の健全性が確保され、さらには社会保障制度の維持も可能となって人々の安心感や信頼感を強めるという発言が出てきます。しかしながら自分は逆にこういう人たちの方の認識の方がむしろ甘さを感じられてなりません。少し税金が高くなって、歳出が削られるのを我慢さえすれば、将来への不安から逃れられると思っている節を感じるのです。

あと”構造改革”の推進を強く主張する人たちの間で、膨張し続ける社会保障費の削減によって、減税や社会保険料(税)負担軽減が可能だと思い込んでいる人たちもいます。実はこれもまた非常に甘い期待や認識です。あとで述べますが、消費税率の引き上げや社会保障費削減は医療・介護福祉サービス費用の国民負担軽減にまったくつながりません。少し考えたら気がつくことですが、われわれ国民が負担する医療や介護費用そのものは病気や怪我をし、高齢で体が動かなくなっていけば避けられない出費です。それを一旦国にお金を預ける形で負担をするのか、自己負担で支払うのかの違いでしかありません。フリードマンのいうように医療費や介護費は「ノー・フリーランチ」です。ひとつ言えることは社会保障制度の場合は累進性があるかどうかの違いでしょう。

まず消費税の増税が国家財政再建につながるのかということについてですが、「そうでない場合がある」ということに注意が必要です。多くの人は税率を上げるとそのまま税収も伸びると単純に思い込んでいますが、逆に税収が落ちることもあります。経済成長が衰えると企業や個人の所得が減少し、その結果として税率を上げても税収が変わらないか落ちてしまうからです。商品の価格や料金を上げても、お客さんがそれを嫌って買わなくなってしまったら売り上げが落ちるのと一緒です。

税率を上げたのに税収が落ちてしまったという例は1997年の橋本龍太郎政権時代に行なわれた消費税5%引き上げと社会保障関連を含めた歳出削減が挙げられるでしょう。
イメージ 1

消費税の増税だけが原因だと言い切れませんが、景気悪化で平成9年をピークにi以後税収が落ちてしまいます。
イメージ 3
図表 財務省より

にも関わらず橋本政権やその後の小渕恵三政権は予想以上に悪化した景気のテコ入れを行わざる得なくなり、5%に引き上げた消費税のかわりに所得税率の引き下げや大規模な財政政策を実施します。結果的には消費税率の引き上げで伸ばした税収を、所得税減税や財政政策で相殺してしまうことになったのです。

社会保障も1997年以降に無残なことになりました。社会保険料収入と給付が1997年以降にワニの口みたいに開きます。この年を境に賃下げや非正規雇用の拡大が目立つようになり、国民年金国民健康保険加入者が増え、企業が支払う社会保険料負担が落ちます。低所得の人は保険料を未払いのままにしたり減免を受けざるえません。社会保険財政の赤字を一般会計で補填するような形となり、そちらの社会保障支出の割合も膨張してしまう有様です。
イメージ 2
このような失敗例があるからこそ、増税の前に税を支払う企業の業績改善や雇用の拡大を先にやらないと、逆に税収を落とすはめになります。橋本内閣から小泉内閣の時代までをかけて社会保障制度の大改革を進めましたが、それでも間に合いません。おおよそわかることは国家財政や社会保険財政の悪化は三重野康日銀総裁の金融政策ミスによって民間企業の投資が一気に萎縮してしまったことが始点となっていることです。

ここまでの話は既に何度もしてきたことですが、消費税の増税で現役世代が負担する社会保障費の負担が軽くなるのかということも検証してみましょう。みなさんも強く実感されていることかと思われますが、公的年金や公的医療保険介護保険といった社会保険料の負担は極めて重いものになっています。現役世代の人たちはそれに対し大きな不満を持っており、消費税の増税という形で高齢世代も含め広く薄く負担を分散した方がいいとか、社会保障費の給付を抑制して消費税や社会保険料の引き下げをすべきだという主張や意見を出されている人がいます。

しかしながら社会保障負担を保険料負担から消費税へ、あるいは社会保障制度を縮小して自己負担に切り替えることが国民の医療費や介護費の負担軽減になるのでしょうか?

まず消費税率の引き上げで社会保険料の引き上げを回避する道を選んだとしましょう。その場合の税率はどうなるでしょうか?数年前の記事ですが原田泰先生が計算されたことがあります。

 参考記事 

上の記事からの引用になりますが

社会保障給付費と名目GDPの比率は、2010年の24.6%から2055年には54.0%まで29.4%ポイント上昇する。消費税1%でGDPの0.5%の税収であるので29.4%ポイントを0.5%で割って
58.8%の消費税増税が必要
になる。こんな大幅な増税が実現可能とは思えない。」 (引用終)
イメージ 4

「消費税率10%引き上げを呑み込めば将来は安心」なんて発想は大甘だということに気づきますね。

ここから先は原田泰先生が仰る「社会保障費は削るしかない」という見解と異なってきますが、仮に年金支給額を削減し、医療保険介護保険の自己負担割合を増やしていくとしましょう。

これは参議院の資料に掲載されていた社会保障関係予算内訳の円グラフです。半分弱が高齢者向けの支出です。
イメージ 5
実際にやるとなるとかなり激しい世論の反発が予想されますが、年金の方は政治・行政側で削減することができなくもありません。問題は医療や介護です。これについては医師などにコストダウンの協力をしてもらわないと不可能で、簡単にできないものです。医療はお金がかかるからといって、病気や怪我をしたときに激しい痛みや苦痛に耐えながら治療を受けずにいられる人なんかいません。また医療機関や介護福祉施設の職員は現状でもかなりの激務です。それを無視して診療報酬や介護報酬をこれ以上削れますか?という話になってきます。
イメージ 7イメージ 8


公的医療保険介護保険を縮小するとなると、当然自己負担分が増加します。ある日突然大病を患って入院やら手術、高額な医薬品をつかって治療したら数千万円の治療費を請求されましたとなったとき、どう対応しますか?結局は公的医療保険介護保険のかわりに民間の保険に加入するしかありません。結果的に現役世代が負担する保険料負担は変わらないか増えるだけです。

非常に気が重くなる話ですが、竹中平蔵氏が言うように自分が90歳まで生きると思ったら、その分のお金を貯めるか、国に面倒を見てもらいたかったら稼ぎの多くを税金として支払うしかないのです
イメージ 9
たかだか10%とか20%の税率の消費税で将来の安心が約束されるなんてことはありません
竹中平蔵氏の計算では税率30%以上)

結局私たちは自らの老後の貯えや大きな医療費や介護費の負担から逃れることは不可能だということです。
落ち込んでいても仕方がないので頭を切り替えるとするならば、どうやって医療費や介護費、老後の生活費を稼ぎ出すのかという発想を持つべきではないでしょうか。つまりは経済成長という話です。

医療費・介護費・老後の生活費などの国民負担を考える上で大事なのは、医療介護費のGDP比です。消費税のことやら、社会保障費の削減を議論しているヒマがあったら、少しでもGDPを大きくして医療費や介護費が占める割合が増えるのを防ぐ方法を考えた方が健全だと思います。

こちらでも政治等に関する記事を書いています。

「お金の生み方と配り方を変えれば 暮らしが変わります」

サイト管理人 凡人オヤマダ ツイッター https://twitter.com/aindanet

イメージ 1