新・暮らしの経済手帖 ~時評編~

わたしたちの暮らしを大切にするための経済解説サイトを目指して開設しました。こちらは時評編で基礎知識編もあります。

ベーシックインカムと他社会保障制度との兼ね合い

前回ベーシックインカムは基本的に所得税制と組み合わせた形で制度設計するのが望ましいという話をしました。
 
 
 
原田泰教授のベーシックインカム導入案はすべての人に所得の30%にフラットタックスを課すことで、77.3兆円の所得税収が得られると算出します。しかしながらそれだけですと月額7万円の支給額には届かないために、BIと重複する社会保障給付や雇用創出目的の公共事業ならびに特定業界への補助金などを削り落としてBI財源を賄います。
他のBI導入案でも他の社会保障制度との統配合を前提に制度設計を組むものが多いですが、これについて多くの誤解が拡がってしまっています。それを解消していかねばなりませんが、ベーシックインカムを導入すると公的医療保険まで全部廃止になってしまうというのはとんでもないデマです。極力既存の社会保障制度を利用している人たちがBI導入で大きく損することがないように配慮しないといけません。
 
BIと既存社会保障制度の統廃合について考える前に、現行の社会保障制度がどういう制度体系になっているか、もう一度復習しないといけません。こちらがまとめた記事です。
 
 
下が現行社会保障制度の基本体系の図です。
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この制度構造を頭に入れないまま、「ベーシックインカムを導入すると社会保障給付が削減される」とか「社会保障制度が全部廃止になる」などと勝手な思い込みで話す人がかなり多いです。
 
ベーシックインカムが導入されたと仮定すると、統廃合される可能性の高い社会保障給付は社会保険のひとつである雇用保険と老齢基礎年金、公的扶助である生活保護の生活扶助、児童手当などをはじめとする社会手当が対象になるでしょう。ベーシックインカムは社会手当の一種に相当します。
 
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*一部こちらの統合案と異なる箇所がありますが、日本維新の会が提案したベーシックインカム案を元にRyuga (@Sun220020918) | Twitter氏が作成されたベーシックインカム財源の説明図はさらにわかりやすいものになっています。(2021/9/1追加)

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図表引用元
 
公的医療保険や老齢年金の二階部分、社会福祉サービス、公衆衛生はBIと統合することはできません。保険方式を採った制度を解体することは極めて難しいことですし、行政コストもかかります。財政の考え方から言っても社会保険料特別会計として一般会計から分離し、徴収した保険料が保険給付以外に使われないようにしないといけません。保険料収入=保険給付となるようにするのが保険の原則です。公的医療や老齢年金(二階部分)の財政を一般会計でどんぶり勘定してしまうべきではありません。
 
当然のことながら医療や介護、障碍者に対する援助は現金支給制度であるベーシックインカムで置き換えできるはずがありません。BIとの統合は生活保護の生活扶助や失業給付などのように現金給付で行われている制度のみです。雇用保険は保険方式で雇い主の事業者と労働者側が折半で保険料を負担していますが、BIが導入されると雇用保険は事実上不要となります。
 
それといまの日本の老齢年金ですが、一階部分の基礎年金は半分が国庫負担となっています。さらに年金だけでは生活費が不足する世帯は生活保護で補う場合が多いです。基本的には年金は保険制度であり、現役時代に支払う保険料(税)と老後受け取る年金給付額が同額になるようにしないといけません。保険料に比べ不足する給付額を国庫負担で穴埋めしないといけないような日本の状況は異常といえるのですが、いまの時点で既に実質高齢者限定のベーシックインカムを給付しているような状態です。あまりいい考えではないですが、年金の国庫負担分ならびに障害年金の一部や生活保護費をベーシックインカム制度に統合してしまうという案も出てはいます。
 
ベーシックインカム生活保護についてですが、BIが導入されると自動的に生活保護の生活扶助がBIに吸収合併されることになります。どういうことかと言えば現行の生活保護制度は補足性の原理という考えが用いられており、給与所得や何かの臨時収入が得られたときや年金の受給ができるようになると、その分だけ生活保護費が減額されます。BIが導入されると生活保護法を変更しなくても、生活保護費がBI支給額分減額されるのです。
 
 
生活保護 補足性の原理
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つまりはBI制度がはじまると生活保護は生活扶助の中からBI支給額分だけ置き換わり、他の住宅扶助や医療扶助といった別の扶助はそのまま存続することになります。今まで生活保護を利用してきた人たちはBIが導入されても手取りは増えもしないし、減りもしません障碍者の補装具の補助やリハビリ、医療に関する給付も身体障害者福祉法をいじらないままにしておけば従来どおりの福祉サービスが行われます。
 
いずれにしても、BIが導入されると他の社会保障制度を利用してきた人の受給額が削減されてしまうという話はデマだということです。そういうデマを流す人たちに限って社会保障制度のことにほとんど関心を持っておらず、上で述べたような基本的な制度構造すら頭に入っていなかったりします。
 
私が考えているベーシックインカム制度の導入案は現行の社会保障制度を存続させたまま、露払い的に最高支給額が数万円程度の給付付き税控除制度を導入させます。これによってかなり窮乏した生活状況にありながら、今まで既存の社会保障制度の恩恵を受けられなかった人たちすべてに現金支給を行います。それから教育バウチャーや保育バウチャー、住宅バウチャーの導入を進めていくことにより、生活保護制度の必要性をどんどん薄めていきます。
 
給付付き税控除制度は月額最高4万~5万円程度のものならば数兆円程度の予算で実現できますので、現状の社会保障支出+数兆円程度ならば緊縮財政だとか社会保障費削減などという批判は相当しないでしょう。本格的なベーシックインカムですと税制や社会保障制度の大幅な変更が余儀なくされますが、給付付き税控除ならば割りとすぐに実現できそうです。
 
 
「お金の生み方と配り方を変えれば 暮らしが変わります」
 
サイト管理人 凡人オヤマダ ツイッター https://twitter.com/aindanet
 
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