新・暮らしの経済手帖 ~時評編~

わたしたちの暮らしを大切にするための経済解説サイトを目指して開設しました。こちらは時評編で基礎知識編もあります。

解雇規制緩和はベーシックインカム導入が前提

貧困・雇用・格差問題 」編の「一見誤解されやすい解雇規制や最低賃金・金利・実質賃金の話 」という記事で昭和時代の終身雇用制度や解雇規制が逆に労働市場流動性を損ね、労働者の雇用促進や賃金上昇を阻む要因になりかねないという話をしました。

ここ最近1990年代の日銀や政府による金融政策の失敗を批判せずに就職氷河期が発生し、ロスジェネといわれる層が生まれたのは解雇規制の緩和をしなかったためだということを言う人が多く見られます。こちらは金融緩和政策や財政政策といったマクロ経済政策を行わないまま、ミクロの解雇規制緩和だけすれば雇用は回復するという見方は否定しますが、それでも昭和時代のように労働者の生活保障を民間企業に担わせるようなことは無理があると私は考えます。
ひとりの従業員に多大な人件費を何十年間も支払い続け、さらに社会保険料の負担まで企業に背負わせるとなると、逆に企業が新規雇用を控えて少人数に長時間の過密・過重労働を従業員に負わせるようなことがおきます。さらに企業にとって著しく能力が劣ったり、行動や性格に問題がある人物をうっかり雇ってしまうと社内の人間関係をおかしくして、ひどい場合会社を潰しかねません。(「ルポ中年童貞」の著者中村淳彦氏が運営していた介護施設ですが、かなり劣悪な人材を雇ってしまったために施設を閉鎖せざる得なくなってしまいました。)

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私は金融政策やベーシックインカムもしくは給付付き税控除といったセーフティネットの整備をきちんとやるという前提のもとでの解雇規制緩和ならば賛成します

金融政策によって労働需要の最大化を計らず、おまけにベーシックインカムか給付付き税控除制度が導入されないまま、解雇規制だけを緩和してしまうと、リーマンショッククラスの恐慌がおきたときなどに、路頭に迷ってしまう人がたくさん出てしまいます。デフレ状況ですと、解雇を恐れる従業員の弱みにつけ込むように、長時間過密労働を押し付けたり、パワハラを行う経営者がたくさん出てくるでしょう。これですと解雇規制緩和はうまく機能しません。適切な金融政策によって企業の投資意欲を伸ばすことで、雇用を最大化し、求職者にとって有利な雇用情勢にしないと解雇規制緩和は逆に失業者の増大を招きます。

金融政策やベーシックインカムや給付付き税控除といった雇用拡大政策やセーフティネットの整備を行わないまま解雇規制緩和や賃下げだけ進めると、労働者=消費者の所得は不安定で低いものとなり、消費活動を萎縮させる可能性があります。1990年代後半に日本は実質上の解雇規制緩和となる派遣労働などの非正規雇用拡大が進みました。おまけに企業は賃下げやリストラという形での人員整理を進め、古くから長く勤めていた従業員を辞めさせるような動きがありました。それと同時期に連続的な物価下落がはじまり、日本経済は金融政策も財政政策も効かない超悪質な流動性の罠に陥ってしまいます。


1990年代のときは日本の失業保険給付は半年~1年程度に限られたもので、昭和時代の終身雇用制度や完全雇用が崩れ去った状況に対応したものではありません。1990年代以降は失業によって無収入になってしまうリスクがはるかに高まりました。労働者=消費者はそうした危険にいつでも対処できるように、普段は極力消費を抑制し、貯蓄を増やしていかねばならなくなります。彼らが働いて得た所得の中で自由に遣えるお金が実質減っていくことになり、世の中全体に行き渡るお金の量や動きが少なくなっていくのは当然です。日本がひどい流動性の罠に陥った原因はこれかも知れません。

そのために勤労者が突然の会社倒産や人員整理などで無収入になったとしても、最低の所得が保障されるような制度が必要となったのです

それともうひとつは人を雇う企業側にとっても、従業員の生活費を何十年も保障することは不可能になっております。本来国民に健康で文化的な最低限の生活を保障する責務は国家が担うべきもので、民間企業の責任ではありません。昭和型雇用制度や企業依存型の社会保障制度を脱して、政府と企業の社会的責任分担の明確化を計っていくべきです。民間企業は本来効率的な生産活動を追求して、富や財を殖やしていくことが目的の組織です。民間企業が背負う社会的責務は税を支払うことであり、それ以上の責務を背負わせる義務はないはずです。

昭和時代の雇用制度や社会保障制度がバブル崩壊によって成り立たなくなってしまいました。解雇規制緩和などによって雇用の流動性を生み出すと共に、セーフティネットも浮き沈みが激しく不安定化した日本経済や雇用情勢に対応できるものに切り替えていかねばなりません。柔軟で普遍性が高い包括的現金給付制度であるベーシックインカムや給付付き税控除の実現が望まれるのです。

解雇規制緩和と包括的現金給付制度を導入する目的は適正(justice)な状態を目指すということも含まれます。
社会において適正(justice)な状態を決めるのは市場における自由競争(コンペテイション)です。モノやサービスの取引だけではなく雇用についてもそうで、無意識のうちに職を求める労働者は自分を有利な条件で雇ってくれる企業を選別しています。企業はより優れた人材を選び出すコンペテイションを行います。両者が互いにコンペテイションを行っているのです。

このコンペテイションが結果的に社会での生産活動において最適な人員配置へとつながり、働き手は自分の能力を最大限に活かすことができるようになり、企業はより効率よく収益を得られるようになります。両者WIN・WINとなるのです。

解雇規制緩和によって企業にとって適正でない人材を外すことが容易になり、就労者側も自分にとって適切でない職場を去り、最適な職場へ転職する機会を増やすことになります。包括的現金給付制度があると安全な転職が可能になるでしょう。

「お金の生み方と配り方を変えれば 暮らしが変わります」

サイト管理人 凡人オヤマダ ツイッター https://twitter.com/aindanet

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