新・暮らしの経済手帖 ~時評編~

わたしたちの暮らしを大切にするための経済解説サイトを目指して開設しました。こちらは時評編で基礎知識編もあります。

AIによるシンギュラリティが到来するのか?

2015年に野村総研がAI(人工知能)やロボットなどの発達で人間が行っている労働の49%を代替することが可能になるというレポートを発表しました。


さらに駒澤大学井上智洋准教授も、人間の労働の多くがAIなどの機械に置き換えられ、技術的失業が発生すると共に、民間企業の投資機会が減って民間銀行がマネーを生み出す信用創造もできなくなっていくために、政府がベーシックインカムという形でマネーを供給していく仕組みをつくる必要が出てくるという主張をしておられます。井上さんはベーシックインカムと政府貨幣(公共貨幣)を組み合わせるアイデアを打ち出し、人工知能ベーシックインカム、そして通貨改革(Currency Innovation)の頭文字を並べて「AI・BI・CI」と呼んでいます。このブログサイトを開設した当初は私も井上智洋さんのアイデアに強く興味を持っておりました。(現在私はこのアイデアに疑問を持っております)

しかしながら冷静に世の中全体を見つめ直すと野村総研が想定しているように15年で人々の労働の半分を機械に置き換え可能なのか疑問に感じます。皆さんも自分がいま従事している仕事が機械で置き換え可能になるか想像してみるといいかと思います。意外に人間の手や目、耳、そして脳による判断力が求められる仕事が多いことに気づかされます。

ひとつの例を出すと自動車の自動運転がそうです。自動車メーカーなどが自動運転の研究を進めておりますが、日本においてもバスの自動運転テストが実施されました。しかしながらその公道テストに参加された方の話では自動運転といっても、かなりの頻度で運転士の手動操作をしないと運行ができない状況でかなりのかなり期待はずれだったとのことです。

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バスではなく鉄道についても果たして自動運転化がどこまで進むのか疑問です。自動運転ができそうな鉄道路線となりますと全線高架橋か地下線で踏切とかが一切ない新幹線とか地下鉄みたいな路線なら、その可能性があるかも知れないのですが、一般の在来線でそれができるのかというと、かなり難しそうです。

仮に自動運転が実現したとしても、何もトラブルがない平常時ならばよいのですが、事故や大雨・大雪・台風・地震といった災害が起きたときにAIやロボットで対応できるかです。普段は自動運転をしている新交通システムゆりかもめですが、大雪のときに運転士が乗り込み手動運転していたことがあります。あと新潟の信越線で列車が大雪で立ち往生してしまうということもありました。

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同じ冬に福井でも豪雪が発生し、国道でクルマがまったく身動きできなくなってしまったことがありましたが、その救援は自衛隊員による人海戦術で行われています。

他にも今人間の外科医師が行っている手術を完全にAIやロボットだけでやってしまうことが可能なのかとか、電気やガス、水道工事を機械だけでできるのかなど、考え出したらきりがありません。逆に機械を使うより人間がやった方が手っ取り早い作業もあります。あと高級料理や酒など高い官能品質が求められる世界については職人技が要求されます。そういう意味で人類が労働から解放される日は相当先ではないかと思えてなりません。

そうした疑問については雇用ジャーナリストの海老原嗣生氏が呈しています。


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海老原氏はベーシックインカム導入にかなり難色を示しており、その批判記事をいくつか書いております。これについて私は賛成しかねており、後日批判記事を書くつもりですが、AIやシンギュラリティ(技術的特異点)で失われる雇用はさほど大きくないという氏の予想は妥当だと思っております。

仮にありとあらゆる産業で生産の自動化が進んだとしても、失われる雇用が9%程度だとしたら、ちょうど少子高齢化で減少すると予想される労働可能人口を相殺できるぐらいではないでしょうか。現役世代については今の勤務状況とさほど変わらないと考えていいかも知れません。

次回に井上智洋さんが考えておられる通貨改革とベーシックインカムを組み合わせた案についても一応紹介するつもりですが、「AIやロボットが人間のかわりにモノやサービスを自動的に生産してくれる時代がくるからベーシックインカム」という論法を使うのは、かなり時期早々です。そのような時代が到来するのは少なくとも数十年先でしょうし、そういう時代が来ない可能性も大きいです。

いまこの時点で突然の失業や災害・事故などのためにお金がまったく入らない上に全財産を失ってしまって、生きるか死ぬかの瀬戸際に立たされている人がいます。そんな人たちにとってはいつ実現するかわからないベーシックインカムよりも生活保護を早く支給してくれという気持ちでしょう。「AI・BI・CI」などという呑気な話をしているよりも、今起きている生活困窮者の支援や救護を優先すべきではないでしょうか。そのことを踏まえ、まずは著しく低所得・無所得の状態でありながら、何の公助も受けられていない人に、生活支援のための給付金を支給する制度の整備が急務のはずです。

こちらが考えているベーシックインカム導入構想はまず所得税制と組み合わせた給付付き税控除をプレBIとして導入し、低所得者に最高4~5万円程度の給付を行うようにします。病気や障碍などで就労が難しい人たちには障害年金や手当の他、住宅費支援などの別制度を追加で用意して現行の生活保護給付額と遜色がないよう配慮します。それから経済状況を見計らいながら給付額を引き上げていくようにします。最終的にはベーシックインカムだけでも十分生活費が賄えるようにすることが目標です。

「お金の生み方と配り方を変えれば 暮らしが変わります」

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