新・暮らしの経済手帖 ~時評編~

わたしたちの暮らしを大切にするための経済解説サイトを目指して開設しました。こちらは時評編で基礎知識編もあります。

ベーシックインカムと合わないMMT(現代貨幣理論)

ベーシックインカム構想 」の本筋からやや外れますが、ここ最近急にアメリカや日本でMMT(現代貨幣理論)への関心が高まっています。アメリカの次期大統領選挙に急進左派といわれるバーニー・サンダース上院議員などといった候補者が名乗りをあげております。あと米国史上最年少で民主党下院議員として当選したオカシオ・コルテスもマスコミで大きく取り上げられています。彼ら・彼女らが注目される背景にアメリカの極端な貧富の格差が存在し、低所得者層の不満が爆発しかけていることにあるでしょう。

オカシオ・コルテス

アメリカの急進左派候補らは国民皆保険や大学の無償化、所得税制の累進性や相続税の強化といった格差是正の政策の他に再生可能エネルギーに投資して温暖化ガスの排出量を減らす「グリーン・ニューディール政策」も公約に打ち出しています。そして彼らがMMTという経済理論を持ち上げているために、ポール・クルーグマン教授やローレンス・サマーズ元財務長官などといった大物経済学者が一斉に批判をはじめだしました。

まずMMTとは何なのか?ということから簡単に話をしますが、これは元々お金とは何なのか?どのようなかたちで生まれたものなのかを問う貨幣論です。MMT論者は貨幣は太古の時代から負債として生まれ存在し続けたものであると説明します。そして貨幣は国家から税を納める手段として認められるから、市場での交換価値が生まれるという認識を持ちます。(貨幣国定説) それがやがて政府が財政赤字(負債)をつくらなければ貨幣や民間の資産が生まれないという思考に結びついていきます。これは私も説明したことがありますが、誰かの資産は誰かが負債を背負ったから生まれております。お金という資産も政府部門か、民間企業部門か、個人の一般家計あるいは海外部門のいずれかが負債を生んだから存在するのです。MMTの場合、政府が財政赤字を増やさないと我々民間個人や企業のお金や資産が増えないのだと考えます。「政府は財政政策で通貨を発行・供給し、徴税によって通貨を消している」というのがMMT的貨幣観であり、経済政策観です。

アメリカのみならず日本を含めた各国の経済学者がMMTをなぜこれだけ批判するのかという理由については後に取り上げるとして、今回はベーシックインカムMMTについて論じていきたいと思います。

ベーシックインカム導入を望む人の中にMMTを論拠に、政府がもっと負債=貨幣を増やし、それをベーシックインカムの財源に充てたらどうかと考えている人がいます。しかしながらMMTを支持する人たちの多くはベーシックインカム導入に反対しています。日本でそれに傾倒している代表者は中野剛志や藤井聡三橋貴明などですが、彼らも同様です。ベーシックインカムをやるならば公的なJGP(Job Guarantee Program 就業保障制度)で失業者に職を与えるべきだと主張しております。
JGPが不景気で民間の働き口がないときでも、労働意欲や能力を持ったすべての国民を政府や地方公共団体が用意した就労先で働かせ、最低賃金レベルの所得を保証するといったものです。MMT論者たちはベーシックインカムのような不労所得をバラ撒いて、失業者を遊ばせたままにしてしまうことは、勤労意欲を消失させ、職能(スキル)を腐食させてしまうことになり、労働資源が効率的に活用されなくなってしまうと考えています。それが供給(サプライサイド)の劣化につながるので、JGPが雇用を創出して失業状態を続けさせてはいけないというわけです。高失業にも関わらず物価だけがどんどん上昇していくスタグフレーションを引き起こし、「ケインズは死んだ」といわれた1970年代の反省もあってか、JGPで支払われる賃金は最低賃金水準に止め、民間の事業者が再び積極的に雇用を拡大してきたときに、JGPから民間へ労働者が移動するように仕向けます。労働意欲や能力の腐食を防ぐことで供給力の低下を防止しているので、1970年代のようなスタグフレーションを起こすようなことはなかろうということでしょう。

しかしながら私はこのJGPがうまく機能するのか疑問が残ります。私がJGPについて直感的に思い浮かべたのは日本がリーマンショックのときの麻生政権や、東日本大震災のときに行った緊急雇用対策事業です。恐慌というべき深刻な不況で突然解雇された派遣労働者や震災で職を失った被災者のために政府や地方自治体が急遽、町内や林野などのパトロールや、復旧・復興工事に、慢性的な人手不足状態の介護業界や農業分野といった場所での仕事をつくって、半年ほど働かせたというものでした。これらの事業はわざわざ公費をつかって仕事をつくっていたのです。この当時私は奇妙な違和感を感じていました。
さらに「日本列島改造論」を唱えた自民党田中角栄やその子分らの派閥である経世会議員らは土木建築関係の公共事業を盛んにやっていましたが、これについて「公共事業の目的が生活保護になってる」とか「社会資本整備と生活保護と、景気雇用対策が、ごちゃごちゃになっちゃってる」と評している論者がおりました。
MMTJGPはそれに近い感覚を覚えます。

あと隣国の韓国ですが、左派色が強い「共に民主党」の文在寅大統領の経済政策がうまくいかず、日本で起きたものを超える深刻な就職氷河期を招いています。文政権は無理な最低賃金の引き上げで余計失業者を増やしてしまうに留まらず、準公務員を増やす形での官製雇用拡大政策を行おうとしています。こんな政策がうまくいくのでしょうか?
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文在寅韓国大統領

 室谷克実 新・悪韓論

韓国では失業対策で「コピー担当専門員」「日程専門担当秘書」といった準公務員の他に、大学の構内を回り、講義が行われていない教室の照明やエアコンの電源を切ってまわるだけの「電気管理士」といった仕事までつくっています。上の記事では「韓国は財政破綻になるぞー」と言っていますが、どうなることでしょう?いい実験台ですね。

公平のために言っておきますが、「どんどんヘリマネ増やしてベーシックインカム」でも同じことになりかねません。けれどもJGPも「目糞、鼻糞を嗤う」ような結果が予想されます。

MMTについて、それを主張している人たちの文章をいろいろ読んでみましたが、彼ら・彼女らの多くは財政政策をどんどんやれば景気や生産活動、雇用が改善するという発想に留まっており、雇用に直結する民間企業の投資意欲をどう高めるかという考察が見えてこないのです。MMT論者は金融緩和政策による投資や雇用改善効果をあまり認めておらず、金融政策はあくまで財政拡張政策のための財政ファイナンス国債の現金化)や金利上昇の抑制手段という隷属的な位置づけでしかないように思われます。

MMTというものをベーシックインカムの財源獲得法に活用することは、MMT論者から反発されるだけではなく、MMT自身も多くの経済学者から「ブードゥー経済学」として激しく批判され、跡形もなく消え去る命運を辿ると私は予想しています。

私は金融政策で企業の投資や雇用、物価の統治を計ることをマクロ経済政策の基本とし、民間企業の生産活動を活発化させることが第一だと考えます。それによって雇用を最大化させ、完全雇用状態になっても就業が難しい人たち向けにベーシックインカムやその他社会保障制度によって最低限の生活保障を行っていくことを主張します。

「お金の生み方と配り方を変えれば 暮らしが変わります」

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