新・暮らしの経済手帖 ~時評編~

わたしたちの暮らしを大切にするための経済解説サイトを目指して開設しました。こちらは時評編で基礎知識編もあります。

ベーシックインカムの財源はヘリマネ(通貨発行益)にできないのか?

ベーシックインカムの話をすると決まって出てくるのは財源の話ですが、私は所得税を財源の基本とし、不況でそれが落ち込むときに政府や日銀がお金を発行して補填するという方法を提案しました。不況のときは消費が落ち込み物価が下がります。市中の貨幣の量を増やすことはインフレにつながる可能性がありますが、デフレ不況のときは中和されることになります。

景気がいいときは所得税収や法人税収が増えるので、それでBIの財源を賄い、不景気でデフレ状態になり、所得税法人税収が落ち込んだら、政府や中央銀行が通貨を発行して不足財源を補填します。ハイブリッド財源とかデュアルモード財源といえます。
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しかしながら完全に通貨発行益(俗にいうヘリマネ)を主要財源にするかのようなベーシックインカムを唱える人がかなり多くいます。これについては明らかに無理です。いわゆるヘリマネとは中央銀行が市中の国債をどんどん買い占めたり、直接中央銀行が政府が発行した国債を引き受けるといった方法で生み出されるマネーです。リーマンショックのときなど、恐慌といってもいいレベルのひどいデフレ不況のときに、ヘリマネという特効薬を使ってそこから脱出する方法をこのブログでも紹介しています。アベノミクスが軌道にのる数年前まで私はそれをやるべきだと強く主張してきました。


あるいは中央銀行ではなく、政府貨幣を発行してしまうという手もあります。紙幣は「日本銀行券」ですが硬貨は政府貨幣です。新天皇が即位され令和という新しい世となった記念として、政府が記念硬貨を発行してもいいでしょう。それか「日本銀行券」を「日本国政府」と変えた紙幣でもいいのです。

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ということで私はヘリマネとか政府貨幣に対し、まったくアレルギーを持っていませんが、完全にこれをベーシックインカムの財源にしてしまえばいいというのは誤った考えだと指摘しておかねばなりません。

もう一度繰り返し言いますが、ヘリマネや政府貨幣などを活用するときはひどい不況で、なおかつデフレ状態であるときに限ります。デフレ不況から脱したときには不必要なことです。

前回MMTの批判記事でポール・クルーグマン教授がMMT支持者であるステファニー・ケルトン教授をこっぴどく批判したことを書きました。

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 NewYorkTimis  Paul Krugman 「Running on MMT (Workish)

クルーグマン教授がケルトンに詰問したのは、金利が十分に上がっているときに財政赤字を出してまで財政拡大をする必要があるのか!というものです。
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私はクルーグマン教授同様に不必要なときに、不必要な財政赤字や財政政策をすべきではないと考えますし、これを「緊縮財政ダー」などと言うのはおかしいことだと思います。
雇用がしっかり改善し、賃金や物価、金利とかが上がってきた状態になったら、財政の引き締めをはじめるのは当然のことです。ヘリマネの必要はありません。

さすがにヘリマネ・ベーシックインカム論者やMMT支持者たちも、インフレに転じたら財政政策を縮小するか、増税などをしないといけないことまでは理解していますし、反対していません。しかしながらベーシックインカムという制度は基本的にすべての人に一定額の給付金を恒久的に支給し続けるものです。景気が良くなったらベーシックインカムの給付をやめたり減らしたりできるのでしょうか?またそれをやったとしても、それがベーシックインカムといえるものでしょうか?

井上智洋さんのように基礎BIと変動BIの二階構造にして、変動BIの方だけを通貨発行益(ヘリマネ)を財源とし、景気に合わせて給付額を変動させるという話ならわかります。ヘリマネや政府貨幣をBIの主要財源にするという話はおかしいでしょう。

あるいはBIは支給し続けるけれども、徴税額を増やしてインフレを抑えればいいということを言う人もいます。
所得税制ならば税率変更をしなくても徴税額が自然に増えますが、消費税とかの税率を変動させたらいいなどというおかしなことを言う人がいます。こんなことをやったら小売・流通業界はメチャクチャになるでしょう。アバ・ラーナーの機能的財源論の悪用としかいいようがありません。改めて批判をしないといけませんが、私は政府が負債や財政赤字を出すのは当たり前で、徴税はインフレ抑制のための手段という発想については支持しかねます。

企業の投資や政府の国債はspending first、まずは負債ありきであることは間違いありません。顧客や国民からお金をかき集めて、それで投資や財政支出を行うのではなく、社債国債の発行で資金や財源を賄って投資や財政支出を行っているのだという点は私も認めることです。しかしそれは先に支払ったものに見合う収益や税収が得られるという信用や期待があるという前提で行われるものだということを忘れてはなりません

NHK大河ドラマの「いだてん」で嘉納治五郎役所広司さん)が借金とりに追われているときに
「返さぬとは言うとらん!返さんとは言うとらんぞ!」と言っておりました。国債も同じことです。すぐに全部償還する必要はないけれども、ちゃんと返せますよということを示す必要はあります。

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国債や政府貨幣は打ち出の小槌ではありません。
やはり「ノーフリーランチ」です。(ミルトン・フリードマン

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「お金の生み方と配り方を変えれば 暮らしが変わります」

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