新・暮らしの経済手帖 ~時評編~

わたしたちの暮らしを大切にするための経済解説サイトを目指して開設しました。こちらは時評編で基礎知識編もあります。

ベーシックインカム導入になぜか反対する左派・社会保障関係者

ベーシックインカム導入に反対する人は右派にも左派にもいるということをここで書きました。前回は保守(?)側の藤井聡氏や三橋貴明氏、中野剛志氏とその”信者”らによるひどく悪質なベーシックインカム攻撃を批判しております。

今回は左派側である藤田孝典氏らのベーシックインカム慎重論や反対論について取り上げます。
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藤田孝典氏

藤田孝典氏は社会福祉士であり、さいたま市を拠点に反貧困を訴える社会活動を行っている方です。NPO法人ほっとプラス代表理事反貧困ネットワーク玉代表を務められています。私も30年ほど昔のことですが、某大学の福祉学科に属していたこともあり、彼の志や思考についてはかつての自分とよく似たところがありました。

生活保護利用者に対する理不尽なバッシングについても、藤田氏同様に私は強い憤りを持っており、こちらもその批判記事を書きました。

生活保護利用者バッシングについての批判

私の方は紆余曲折を経て、政治的には革新左派から中道保守へと転向し、大きな政府志向から自由主義的な小さな政府志向に転じています。これについては山崎元氏の影響があります。


さらに私の場合はマクロ経済学のうち、とくに金融政策を強く重視するようになってきました。
そういう意味で私と藤田氏は始点が同じでも、現在ではかなり隔たりがある人です。私は今でも社会保障や福祉の拡充を強く願っていますが、民間企業が多くの富や財を生産しなければその財源を担うことは不可能だと考えています。「福祉は大事だ。しかしその前に経済を強くしろ!」というのが今の私の主張です。

されはさておき藤田氏はベーシックインカムに関して次のようなツイートをしたことがあります。
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藤田氏がわりとベーシックインカムに否定的だというのはわかりますが、その理由は次のことではないかと思われます。

1 現金給付主義のベーシックインカムが導入されることで、医療や介護福祉といった現物支給すなわちサービスの支給が疎かになるのではないか?

2 藤田氏自身が反経済学や反資本主義、反(新)自由主義思想を強く持ち過ぎてしまい、民間企業=金儲け主義 資本主義・(新)自由主義市場原理主義=競争至上主義で社会保障・福祉軽視の弱肉強食思考だという思い込みを強く持ち過ぎている。ベーシックインカムも(新)自由主義者社会保障や福祉を抑制するための手段として導入しようとしているのではないかという妄想に囚われている。

1の藤田氏らの懸念について私はベーシックインカムの主要財源として多くの賛成派が想定しているのは所得税であり、既存の社会保障制度の整理統合や行政コストの軽減化による財源捻出は補足的なものに過ぎないことを説明しております。「標準的なベーシックインカムの制度設計案
ベーシックインカム導入によって生活保護や公的医療保険、介護福祉サービスといった既存社会保障制度を全廃してしまい、BIに統合してしまえなどという暴論を吐いている賛成派はいないとも述べています。それを勝手に言い出しているのは三橋貴明らのようなデマゴーグです。

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2についてですが、藤田氏に限らず社会保障や福祉関係者の多くは左派イデオロギーに傾倒してしまっております。福祉系大学も左派色が強い学校が多いです。上で述べたように反経済学や反資本主義、反(新)自由主義思想を持ってしまい、経済学者や民間企業の実業家、小さな政府志向の自由主義者の言うことに耳を傾けないのです。福祉関係者はこのような人たちを反福祉や社会保障軽視であると決めてかかっているのです。
ベーシックインカムや給付付き税控除は(新)自由主義者と目されているミルトン・フリードマン堀江貴文氏、竹中平蔵氏といった論客が支持を表明していたりしますが、それについても福祉関係者は一方的に既存の社会保障や福祉を縮小するためのものだと思い込んでいます。
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ベーシックインカムについては俗にリフレ派と云われる原田泰先生が本を出されていますが、原田先生はリフレ派の中でもかなりハードコアな市場原理主義者であり、小さな政府志向の自由主義者リバタリアン)です。それだけに左派界隈から敵視されているのです。
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そのような話はさておき、藤田氏は井手英策教授や今野晴貴氏らと「未来の再建」という共著を出されているようです。
ここで次のような記述がありました。

ベーシック・インカムの最大の問題点は、受け取った現金を、たとえば飲酒やギャンブル、借金の返済で消費してしまった人びとの生存・生活は、完全な自己責任となるということだ。もらったお金を使ってしまった人たちに対して、さらに現金を給付することはとてもではないが正当化し得ない

社会保障給付が一部の人にだけ支給されるから、対象外の人が不満を持つのだ。みんながベーシック・サービスの受給者になれば、社会保障制度への不満は解消される

現金給付の最大の問題点は、受益と負担の関係が可視化されることにある。自分より負担の少ない人たちが自分と同じ現金を得られることに対して、多くの人びとが反発することは想像に難くない。
他方、サービス給付の場合、自分の受益は可視化されない。子どもが幼稚園や保育園にいったとき、いくらの受益があったかをわかる親はいない

この発言を読んで私はものすごく背筋が寒くなるのを感じました。官憲主義の臭いがプンプンするのです。

藤田孝典氏や井手英策教授、今野晴貴氏は国民にカネを与えてしまうと、好き勝手なことに濫用してしまうから、国が民衆をしっかり監督・管理してやらないといけないのだなどと考えているのでしょうかこれは国家社会主義者の発想です。旧ソビエトや中国の共産党の役人と同じです。

あと現金ではなく現物支給主義のベーシック・サービスという発想もまた社会主義国家や戦時中の日本で行われていた配給制と変わりがありません。井手英策教授は現在非課税の低所得者まで所得税を徴収し、消費税率の引き上げを行うことも支持していますが、このように増税を行う一方で、給付側を現物支給化してしまうということは国民が自分にとって最も適切なものを選ぶ自由を剥奪するものです。現金ではなく医療や介護福祉というサービスの給付を行うとしていますが、その利用資格認定基準を増税後にどんどん締め付けてしまうことで徴税額>給付ということになってしまう恐れがあります。役人らが国民から税だけ召し上げてしまい、医療や介護福祉サービスの給付水準を引き下げたり、医療や介護労働者の報酬をどんどん切り下げて、役人らがそれ以外の予算に濫用するといった危険性を孕んでいるのです。

サービス給付の場合、自分の受益は可視化されない」と言っていますが、私はこれがもっとも恐ろしいことだと思います。これは天下りなどの利権誘導を狙う役人たちにとって非常に美味しい話であります。

井手英策教授はともかくとして、藤田孝典氏と今野晴貴氏は基本的に善意の人だと自分は想像していますが、増税とカネがかかる社会保障費削減によって、レントシーキングを狙う政治家や役人らに体よく利用されているのではないかと思えてなりません。

あるブログサイトでも藤田孝典氏や今野晴貴氏、井手英策教授の三氏が国家社会主義的な方向に突き進み、国家の財政や社会保障制度を破壊しかねないという批判をしていました。

 若年寄りの遺言様 

中国で「狡兎死して走狗烹らる」という諺があります。これは狩りで兎を捕まえた猟犬は、用済みになって煮て喰われてしまうという意味です。つまりは利用するだけ利用したら、使い捨てで平気で潰してしまうということです。民主党政権は途中から財務官僚の言いなりになって、野田佳彦首相は消費税10%引き上げのための法案を可決させてしまいましたが、財務省に利用されるだけ利用されて、最後は犬鍋ならぬ泥鰌鍋にされております。

経済学に興味を持たず、財務省をはじめとする官僚らによる利権誘導や省益拡大のための増税工作の悪辣さに気がつかない日本の社会保障・福祉関係者は私の目から見たら、かなりナイーブでおぼこく見えてなりません。藤田氏は反貧困活動の最前線に立つ現場主義者であるという自負を持たれているかと思われますが、結果として国民に重税を課し、逆に社会保障や福祉の削減を狙う勢力に加担してしまっているのです。

今回は藤田氏や今野氏らについて批判的なことを述べましたが、2015年のインタビュー記事で藤田氏は実質給付付き税控除というべき部分的ベーシックインカムならいいという主旨の発言を行っています。

 biglobeニュース

以下引用

僕は、部分的ベーシックインカム、つまり一定の所得水準に達していなければ、審査なく生活保護を出してしまえばいいと思っているんですけどね。マイナンバー制度が施行されて、国民の所得がわかりやすくなるわけですから、申請なしで生活保護を出すのは容易になるでしょう。今の政権での運用することは、僕は反対ですが(笑)。なにをされるかわからないので。

この藤田氏の発言なら賛成できますが、最後にやはりというか今の安倍政権で運用することは反対などと言ってしまっています・・・・・・。私は誰がやるかではなく、何をやるかの方を重視しますけどね。

とにかく特定の政治イデオロギー固執することが第一になってしまい、結果的に低所得者や福祉サービスの利用者に大きな損失を与えるようなことはあってならないと私は考えます。日本の社会保障・福祉関係者には猛省してもらいたいところです。

「お金の生み方と配り方を変えれば 暮らしが変わります」

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