新・暮らしの経済手帖 ~時評編~

わたしたちの暮らしを大切にするための経済解説サイトを目指して開設しました。こちらは時評編で基礎知識編もあります。

働かない人にもお金を給付する理由~BIや給付付き税控除は無条件給付であるべき~

前回UKのユニバーサルクレジット制度に関する記事を書いて、改めて気がついたのはベーシックインカムや給付付き税控除は無条件給付で行わないと、やる意味がないということでした。給付付き税控除は所得や資産状態だけを給付判定基準にし、他の条件は課さないようにすべきです。UKのユニバーサルクレジット制度も給付付き税控除に近い制度設計ですが、労働年金省(DWP)によって就労能力があると判定された人は就業するか、できない人は就職活動や職業訓練を行うことを義務づけられます。それに違反した場合は給付金の減額や打ち切りをされます。

ユニバーサルクレジット制度や給付付き税控除の給付条件に勤労義務を課すのは当然じゃないかと思われる人がほとんどでしょう。多くの人は「働いていない人にまで政府がお金を配るのはおかしいじゃないか?」「無条件でお金を配ったら皆働かなくなるじゃないか」と想像します。

しかしながらUKの事例を見ると、医者でさえも就労が困難だと診断した人にまでDWPが「就労可能」という妥当でない判定を下してしまい、必要な人に必要な給付が行われなくなり、路上生活や自殺に追い込まれてしまっている人が大勢発生しています。日本の生活保護問題以上にひどいでしょう。そればかりではなく、生活困難者に食糧を給付するフードバンクの利用者が殺到したり、この制度を巡る訴訟が何件も続出して、とても行政効率がいいとは思えません。その証拠にユニバーサル・クレジット制度の導入で政府が想定していたよりも多額のコストが嵩み、導入に時間がかかっています

私は給付制度の利用資格を厳格化するよりも、金融政策や財政政策などマクロの経済政策やミクロの規制緩和・民活路線に力を入れて、雇用を増やして公助に頼る人を減らすことの方が大事だと考えます。職場に恵まれ、職業人としての誇りを持ち、充実した生活を送っている人はベーシックインカムや給付付き税控除などに頼る必要を感じないはずです。

UK保守党が続けてきた緊縮財政と利用規定が厳格なユニバーサル・クレジット制度は逆に生活困窮者の負債膨張や健康状態の悪化を招き、経済的自立を逆に損ねてきたといえます。こうした給付金制度はなるべく敷居を低く、早く援助を行って、自立能力が完全に腐食することを防止した方がいいのです。受給者の幸福感や健康状態はベーシックインカムの方が高かったです。

私は性善説的な見方かも知れませんが、多くの人は他者や社会のために貢献したい、そして自分の存在が受け入れられ認められたいという欲が本能的に備わっていると信じる方です。労働はただ自分の生活に必要な所得を稼ぐだけではなく、社会貢献であり、社会参加です。自分の仕事によって顧客が喜び、幸せを感じてもらえるという経験を持っている人ならばベーシックインカムや給付付き税控除が導入されても仕事を捨てるということはないでしょう。

また美味しいものをたくさん食べ、きれいな服をきて、居心地のいい家に住み、いいクルマにのりたいなどといった欲のある人はベーシックインカムや給付付き税控除の給付だけでは飽き足らないでしょう。自分はもっと人々の善意や向上心を信じてもいいと考えています。

何らかの事情で家に引きこもってしまい、外へ働きにいくどころか、他人と会うことですら怖くてできないような人が存在します。このような人は甘えや怠惰でそうなったのだと言えるのでしょうか?親からの虐待、学校や職場でのいじめ・パワハラ、あるいは知的障碍や精神障碍によって起きているコミュニケーション能力の欠如といった本人の意思や努力では解決のしようがない問題でそうなっている場合が多いです。
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ある人は骨身を惜しんで働いているのに、ある人は働かず遊んで暮らしているのが許せないという人もいるでしょう。しかしながら国民を全員働かせることが、働いている人をほんとうに幸せにするとは限りません。このようなことを言っては何ですが、人間はひとりひとり顔姿から性格・能力がすべて異なっています。労働に向いている人とそうでない人がいます。やや冷たく突き放したような言い方ですが、労働に向いていない人を無理に就労させることは、その人だけではなく、彼らを雇った会社も不幸にしかねません。職場に合わない人が一人混じったことで、他の社員すべての生産力を落としてしまうこともあります。ある程度割り切って、世の中すべての人を働かせるべきだという考えを捨てた方がいいように思います。

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介護施設を運営していた中村淳彦氏だが、性格資質・介護能力が著しく劣る上に、利用者への虐待を行ったり、他の職員をどんどん潰すといったブラック介護職員を抱え、職場崩壊を起こしてしまったという経験を持つ~

AIによるシンギュラリティが到来するのか? 」でそうなる可能性が低いと書きましたが、今後技術の発展で人の労働力に頼らなくても、多くのモノやサービスを自動生産できる場面が少しづつ増えていき、働き手をさほど必要としない社会が到来することは否定できません。就労者の数とGDPが比例して伸びるとはいえないのは経済学を学んでいると気がつくことです。

「働かない人にお金を与えるなどけしからん」といって、給付金に就労を義務付ける規定を盛り込むことは無駄を無くすことのように思いがちですが、行政機関が膨大な数の受給者の生活状況や人生歴を一人一人こと細かく調べ上げる調査コストや事務コストは膨大なものになります。役人に完璧な受給者の生活状況調査と公正な給付資格判定をさせることは不可能だと考えるべきです。自分は所得や資産状況という数字で割り切って、租税や給付の行政判断をした方がいいと思います。日本だと歳入庁の創設とマイナンバーの普及でそれをやればいいことです。

とにかく今日・明日生きれるか、死ぬかの瀬戸際の人たちを、漏れなく救済できる現金給付制度の創設が一日も早く望まれます。あまり変なことを言うべきではないのですが、完全に孤立して生活が行き詰ってしまい、自暴自棄的な犯罪を犯す人間が出てしまってもおかしくありません。
2014年に出された本ですが、公衆衛生学者であるデヴィット・スタックラー氏とサンジェイ・パス氏の二人が「経済政策で人は死ぬか?: 公衆衛生学から見た不況対策」という本があります。ここでも緊縮財政によって公的医療保険低所得者層への社会保護を削減してしまうと、国民の健康を害して死者数を増加させることはもちろんのこと、経済力を衰退させたり、治安悪化などで多くの財政支出を余儀なくされて、結局は高くつくことを論証しています。
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働かない人にまでお金を給付することは無駄に見えて、実はそうでないのかも知れません。

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