新・暮らしの経済手帖 ~時評編~

わたしたちの暮らしを大切にするための経済解説サイトを目指して開設しました。こちらは時評編で基礎知識編もあります。

なぜ物価がなかなか上がらないのか? ~アベノミクスが残している宿題 その1~

ここまでアベノミクスの理論的支柱のひとつであるリフレーション政策についてずっと解説し続けてきました。私はリフレーション政策を支持し、その効力はしっかり出ていると評価しています。その証拠は企業の投資がちゃんと伸びていることです。
雇用は人への投資です。いまの雇用回復は民主党政権時代からの医療・福祉労働者の増加や団塊世代の定年退職という理由だけではなく、企業が将来の見通しがよいと判断して投資や雇用を伸ばしはじめたと見るべきでしょう。ですのでリフレーション政策はまだ成功というのは早いけれども、効力は発揮していると判断できます。
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しかしながら手放しで喜んでばかりはいられません。ここのサイトで「インフレ目標は物価上昇が目的ではない。企業や銀行・投資家の予想を変えるための手段だ」と何度も説明してきましたが、だからと言って賃金や物価が伸び悩んでいる状況は無視してはいけないと思います。
インフレ予想で実質金利や実質賃金を低下させたことによって、企業は従業員を新たに雇うハードルが下ったことは確かです。そのおかげか雇用情勢はかなりはっきりと改善が見られ、どこの会社やお店も必死に求人広告を出して人集めをしています。

失業率の方はかなり減少しましたが、それでもまだ本格的な賃上げの動きは出ていません。そのため多くの消費者の消費意欲や購買力の回復がいまいちです。
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就労者=消費者ですので彼らの所得が伸びていかないとモノやサービスを生産し販売している会社の方も商品の価格を上げたくても簡単に上げられない状況が続くでしょう。人件費や原材料費等は着実に上昇してきているので、結構企業側にとってはきつい状態かと思われます。

日銀側は「今後物価上昇を目指す」と言って企業に投資や雇用を促してやったのですが、このまま物価を上げられないとなると企業を屋根の上まで昇らせて梯子を外すようなことになりかねません。
企業が雇った新たな雇用者や賃上げで分配を進めたけれども、同時に消費者でもある彼らが積極的に消費をしていかねば今の企業の投資・雇用も息切れしてしまうリスクがあります。金融緩和だけではなく消費者に対する直接的な給付金支給といった財政出動も組み合わせて、いっそうの消費拡大と生産拡大を促さないといけません。
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ただしさらなる金融政策や財政出動の強化を訴える前にひとつ頭に入れていただきたいことがあります。それはただお金を市中にいっぱい供給すればいいという単純な考えではいけないということです。お金をたくさん刷って増やしたりバラ撒くだけではなく、市中でのお金の流動性を改善しないといけません。

ここで思い出していただきたいのはフィッシャーの交換方程式です。
 MV=PT マネーの供給量×貨幣流通速度=物価×モノやサービスの取引量 

物価上昇がなかなか起きない原因はこのシンプルかつ古典的な等式にヒントが隠されているのではないでしょうか。今の時点(2018年1月現在)でもまだ上の式の貨幣流通速度(V)が極めて低いままだと仮定すれば腑に落ちそうです。つまりは市中のおカネがまだ十分活発に動いていないということです。
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ここで注意しておきたいのは「だからリフレは効果がない」「流動性の罠に陥っているときは金融緩和の効果がない」「財政出動しかない」という安直な答えにしがみついてはいけないということです。それは安倍総理が嫌いだからアベノミクス反対だとか土木公共事業をゴリ推ししたいアンチリフレ派の人たちがよく使う論法ですが、彼らの多くは「流動性の罠(蟻地獄)に嵌ったらデフレから抜け出すことはできないのだ」とか「貨幣流通速度を上げることはできない」と考えている節を私は感じます。

しかしながら貨幣流通速度を上げることは本当に不可能なのでしょうか?「できない」といって不況を放置するわけにはいきませんよね。そこで登場したのがゲーム理論に基づく予想の転換で投資や消費行動を変えるという手法です。つまりは予想によって貨幣の流通速度を上げてやるのです

日銀の岩田規久男副総裁はこう仰っています。
 「多くの人が誤解しているが、マネタリー・ベースの持続的な拡大によるデフレ脱却は、中央銀行がばら撒いた貨幣を民間がモノやサービスに使うことから始まるのではなく、自分が持っている貨幣を使って株式を買ったり、外貨預金をしたりすることから始まるのである。」

不況下でいちばん落ち込む有効需要である企業の投資を動かしてやることがデフレ脱却の第一歩であるということでしょう。岩田教授が仰ったようにインフレターゲットや長期国債の日銀積極買受で長期に渡り金利を抑え込む質的緩和が奏功し極寒の中でずっと動かなかったクルマのエンジンが再び回り出しました。
しかしながらまだそのエンジンは十分に温まっておらずガタガタいいながら回っているような状態です。再びエンジンが停まってしまう恐れもあります。エンジンの回転を維持するためにも今後は投資だけではなくモノやサービスの消費の方についても活発化させるナッジ(nudge)が必要となってくるでしょう。これは中央銀行の金融政策の役割というより政府側の財政政策の役割です。

長くなりそうなので一回ここで切って、次回は積極的な消費活動を促すための恒常所得の向上について話していきます。

~お知らせ~
今後日本の政局や北朝鮮問題についての論考は下記ブログで掲載していきます。

「お金の生み方と配り方を変えれば 暮らしが変わります」

サイト管理人 凡人オヤマダ ツイッター https://twitter.com/aindanet

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