デフレ脱却を阻む増税と官僚主導政治との闘い
1990年代から20年近くも日本の経済や人々の暮らしを侵食し続けたデフレ経済からの脱却を目指し、第2次安倍政権はリフレーション政策の理論を採りいれたアベノミクスを打ち出しました。それから5年もの間異次元緩和といわれる量的質的緩和政策を続けてきています。最近になって雇用改善がかなり明確に感じられる状況にまで達しています。
しかしながらここまでのその道程は決して平坦ではありませんでした。それは消費税引き上げをはじめとする増税の動きと官僚主導政治、そして日銀の国債買受や長期金利引き下げを嫌がる金融機関などの妨害との闘いだったといえるものでした。
第2次安倍政権がリフレーション政策を採用し、それを実行してからも財務省や金融機関関係者の息がかかった経済学者・評論家やマスコミ等によって「量的緩和をやるとハイパーインフレが起きる」とか「国債が暴落する」などとメチャクチャなデマを流されたものです。(現実には大きな経済ショックは何ひとつ起きませんでしたね。)
しかしながらリフレーション政策によるデフレ脱却を進める立場の者にとって、こうした反対派からの非難や難癖よりも2014年4月に実施された消費税8%引き上げや財務省による予算引き締めといったノイズの方に苛立ちを覚えます。なぜなら増税や緊縮財政は民間の経済活動を萎縮させ、リフレーション政策の効果を大きく削ぐからです。2014年4月に実施された消費税8%引き上げのショックは深く、一般消費や企業の投資を一気に冷え込ませてしまいました。
グラフ
高橋洋一氏「経済指標は軒並み「景気悪化」の兆候!「消費税10%」の是非判断が安倍政権の正念場になる」2014/07/14(現代ビジネス) より
下は現在までも含めてのグラフです。
このグラフでも2014年4月の消費落ち込みのひどさがわかるかと思います。2015年夏までゆるやかに回復しますが再び下落したり上昇したりを繰り返します。
グラフ
NIPPONの数字様 「家計最終消費支出」
消費税5%引き上げと冷血非情な緊縮財政が実施された1997年に日本の景気に致命的なダメージを与え、逆に歳入減と歳出増を招いて財政悪化がさらに深刻化したことはここで既に述べております。
弊サイト記事「バブル崩壊後の日本経済に止めを刺した橋本龍太郎の緊縮財政 」
もし消費税8%引き上げというノイズがなかったら、どれだけもっと早くデフレ脱却が実現していたのか推し量ることはできません。恨めしい限りです。消費税は来年2019年10月にも消費税が10%引き上げされることが法律で決まっており、今の増税派議員や政党ばかりの政界で安倍総理が鶴の一声で撤廃することは困難です。(民主党政権時代に制定された消費税引き上げのための法律の規定上延期が精一杯だった) 消費増税が実施された後の打撃は深刻なものになることが予想されますが、その直前に安倍総理がもう一度ギャンブルを仕掛けないと増税廃止は難しいでしょう。
経済活動を停滞させる可能性が高いのに消費税の増税に財務省をはじめとする多くの官僚や議員、政党が執着してしまう理由ですが、所得税や法人税に比べ税収が安定していかるからです。衣・食・住など国民の生活を維持する上で切り詰めようがない消費は不景気のときでも企業の収益に比べ落ちにくい傾向があります。つまりは消費にかける税は財務省目線で安定財源となるわけです。そのために財務省は政治家や政党だけではなく経済学者やマスコミに至るまで増税説得工作を行うのです。
バブル時代の大蔵省は経済活発化で税収を伸ばそうという考えを持った官僚が多かったようですが、「失われた20年」といわれるような慢性的デフレ状態が続くようになると、財務省は所得税や法人税をあまりあてにしなくなりました。ですので財務省や日銀はリフレ派が主張していたような景気回復で税収を伸ばすという論理を信用しなくなったのです。
また左派系の知識人たちを中心に「日本の景気はこれ以上よくならない」「よくする必要がない」などという脱成長思想が広まっているのですが、これも「消費税引き上げはやむを得ない」という理由づけになってしまっています。そのおかげで民主党や民進党のような左派政党が消費税を推進してしまうというおかしなことが起きています。
企業の投資を活発化させて国民に増税や厚生予算削減をはじめとする緊縮財政という痛みを負わせることなく財政再建を計るといったロジックは国民をはじめ、政治家やマスコミになかなか理解されません。それぐらい財務省のシャープパワーが強いのです。
もうひとつ財務省が増税に執着する理由は官僚の利権拡大です。消費税という安定財源を拡大することによって自分たちの裁量で自由に使える予算を増やしたいのです。上で私は緊縮財政批判をしましたが官僚組織は自分たちの利権(天下りなどをはじめとする便宜)につながりそうな予算については大盤振る舞いしてしまいます。財務省は「政治主導」「脱官僚」を訴えていた初期の民主党政権や今の安倍政権のように自分たちの思い通りに動かない政権のときは緊縮財政にして潰し、自分たちの言う通りに動く政権のときは予算を大放出みたいなことをやって政治家や政党を操縦するのです。
民主党政権末期の野田佳彦政権は超大物財務次官・勝栄ニ郎によって調教され、消費税10%引き上げを法制化させてしまったのですが、そのときは放漫財政といっていいほど予算が水膨れしています。財務省以外の各官庁もこれに内心大喜びです。
麻生政権から国家予算の歳出が一挙に10兆円近くも上昇し年間90兆円~100兆円で高止まりしたままです。
予算を水膨れさせたままで消費税をどんどん引き上げようとしています。
グラフ チャンネルくらら 倉田満氏のツイートより
普段財務省が緊縮財政にしておけば予算を出したときに企業や個人がいっそう有難がります。おまけにデフレ経済が続くとみんなお金を欲しがります。お金のない企業や個人は土下座して役人の靴の裏を舐めてでも「予算を出してください」としがみついてきます。元通産官僚だった堺屋太一さんは「役人は国民が貧乏であればあるほど自分たちの金にしがみつくようになるから不景気を望んでしまう」というようなことを仰っていた記憶があります。
安倍総理はそうした役人の魂胆を嫌というほど知り尽くしています。だからリフレーション政策で景気を活発化させて歳入を増やし、財務省の口出しを封じ込めようとしていたと思われます。会社でも売り上げを稼いでくる社員は文句を言われにくいし、社内の発言力が増すのと一緒です。
しかし官僚たちは「お上の金で日本の経済は良くなって豊かになれているのだ」という図式でないと嫌なわけです。だからことあるごとに安倍政権やリフレーション政策を潰そうとしているのです。
金融機関も量的緩和政策と日銀国債買受を必死に妨害しようとするのは、彼らが長く国債にしがみついていたからです。バブル崩壊以後民間企業のように貸し倒れリスクがなく、低くても安全確実に金利収入が得られる公債を収益源にします。ところが異次元緩和で国債の長期金利が低くなってしまうと金融機関の収益は減ります。
(弊サイト「マイナス金利とリフレ政策を補強したイールドカーブコントロール」を参照)
安倍総理は就任直後から安定的な支持率を維持し続け、強い政治力を発揮しています。これによって財務省の役人を何とか抑えつけてきました。しかし政治家相手に百戦錬磨で懐柔工作を続け、御用学者やマスコミにリークや悪口を吹き込んで都合の悪い政治家・政党を潰すようなことまでやってきた財務官僚たちです。黙って安倍総理に屈服し続けているわけではありません。
自民党の石破茂や小池百合子と民進党の前原誠司、さらに国立競技場建設の下手打ちと天下り斡旋で安倍総理にクビを切られ恨みを持っている元文部科学事務次官・前川喜平らが連合を組んで安倍潰しを謀る動きが勃発します。それが森友学園・加計学園騒動なのですが、裏で糸を引いていたのは財務省でしょう。
このモリカケ騒動で安倍総理は政治力を大きく削がれます。この騒動のほとぼりが冷め始めた2017年秋に安倍総理は衆議院解散総選挙を打ち出しますが、このときに「消費税10%引き上げは予定通り実施する」と表明しました。このような流れになってしまったのは安倍総理が財務省と手打ちにして北朝鮮情勢対応に専念せざる得なかったという事情が考えられます。
この安倍総理の消費税10%引き上げ発言や緊縮財政気味であることに不満を持っている人たちが、いま安倍は増税・緊縮財政派へ転じたとか新自由主義者だとか詰っていますが、彼らは財務省の老獪さや陰で蠢く政界の権力闘争の流れを読んでいないと私は感じます。財務省の役人がこれまでどういう手を使って政治家を潰してきたり、増税へと導いてきたのかを知らないといけません。
随分と長々と書き綴ってしまいましたが、国民の暮らしを無視して自分たちの既得権益や政治的野心に執着し、増税や緊縮もしくは放漫財政によって経済や国益を破壊してしまうような人たちが山ほどいるということを我々国民は思い知るべきです。そうした人たちの嘘を見破るために我々国民はマクロ経済政策の基礎を学ぶ必要があります。
~お知らせ~
今後日本の政局や北朝鮮問題についての論考は下記ブログで掲載していきます。