ベーシックインカムと教育バウチャーや住宅バウチャーの組み合わせ
もし仮にベーシックインカムや給付付き税控除を実現したとしても、最初のうちは最高でひとり月数万円程度の給付になるだろうという話を私はしました。経済状況を見計らいながら給付額を少しづつ増やしていけばいいかと思いますが、それでもすぐに生活保護と同水準の給付まで引き上げるには時間がかかることが予想されます。ベーシックインカムもしくは給付付き税控除だけで生活が成り立つようなことにはならないでしょう。この制度は働いて所得を得ている人に対し、補助的に生活費の一部を援助するといったものになります。
しかしながら現実社会では病気や障碍などで就労が極めて難しい人々がいます。そういう人に対してはベーシックインカムや給付付き税控除以外の生活費や療養費などの給付が必要となってきます。これまで生活保護を利用してきた人の場合ですと、生活扶助はベーシックインカムや給付付き税控除で置き換えができますが、住宅扶助や教育扶助といったものはできません。
そこで出てくるひとつの案ですが、ベーシックインカムや給付付き税控除だけでは生活が成り立たない人に対し、住宅バウチャーや教育バウチャー、保育バウチャーといった支援策も併用させたらいいのではないかと考えます。これは個人に対し直接住宅の入居費や教育費などといった経費を支援するものです。
教育バウチャーついては橋下徹氏や維新の会が導入に熱心でした。実現に至っていませんが保育バウチャーや住宅バウチャーの導入も目指していたようです。
とくに住居は人間にとって最も大事な生活基盤です。安全で安心して休息や睡眠、食事、娯楽やくつろぎができる場は人にとって必要不可欠なものです。就業するにも住居が不定では難しくなります。
ひとくちに生活困難といっても状況は様々ですが、毎月の所得はかなり低いけれども、両親の実家が残っているなど住む家は何とか確保できている場合がある一方で、働いてお金を稼ぐ能力や意欲はあるが、住まいの確保に困っている人がいたりします。場合によっては現在ホームレスでも、住宅を確保できれば就労が可能になるという人もいるでしょう。
とりあえず日々の生活費だけ何とか補助してくれたら生きていけるという人は給付付き税控除やベーシックインカムだけで事足りるかも知れません。逆に住宅費さえ助けてくれたら仕事に就いて自立した生活を送れるという人もいます。日本の生活保護ですと生活扶助や住宅扶助、医療扶助、教育扶助とかが一体化してしまっております。単体での扶助もあるみたいですが、結果的に保護世帯にワンセットで給付してしまうこととなり、ひとり当たりの給付額が増えてしまうことになっているということも考えられます。
その人にとって必要な部分の援助だけを行う形とし、就労が難しい障碍者や傷病者、高齢者といった人々についてはベーシックインカムか給付付き税控除の他に住宅バウチャーや障害年金・手当なども支給すれば必要な生活費は何とか間に合うことでしょう。
一般勤労者の多くは「貧困問題」と聞くと「自分はそうなるわけがない」「働く意欲のない一部の人たち」といった捉え方をしがちですが、住宅弱者については誰でもいつでもなってしまう危険性があります。日本は災害大国であり、大きな地震や台風で一瞬のうちに大切な自分の住処を失ってしまうことがあります。
阪神淡路大震災のときは倒壊で家を失ってしまった人に対し、国は自力再建が基本だという姿勢を見せてしまいました。運悪く住宅ローンの支払いが終わっていなかった人は再建した家と合わせて二重ローンを組まざるえない人が大勢出ています。東日本大震災のときも同じく津波で住居や仕事場を失ってしまい、何年も仮設住宅住まいを続けている人がいる有様です。
「ベーシックインカム 国家は貧困を解決できるか」を書かれた原田泰先生ですが、その少し前に土建国家再来を想起するような東日本大震災の復興政策のあり方を批判した「震災復興 欺瞞の構図」という本も出されています。ここで原田泰先生は被災者個人に直接現金給付というかたちで住宅再建資金を配ってしまうやり方の方がはるかに安上がりの復興が望めると提案します。
原田泰教授
よくベーシックインカムは既存の社会保障制度を統廃合させ、行政コストの削減を進めるためのものだという解釈がなされており、今回提案した話はそれと逆行するようなかたちになっていますが、私がベーシックインカム導入を進める目的はすべての国民が無所得状態に陥るようなことを防止したいというものです。幅広くいろんな人が生活支援制度の恩恵を受けることで安定した生活を送れるようになってくれることを願っております。
生活保護は非常に硬直的で使いづらい制度です。もっと柔軟にきめ細かく人々の暮らしを支えられる制度に置き換えをすべきだと私は常々考えています。