新・暮らしの経済手帖 ~時評編~

わたしたちの暮らしを大切にするための経済解説サイトを目指して開設しました。こちらは時評編で基礎知識編もあります。

世界大恐慌はなぜ発生したのか その2 大衆をも巻き込む負債の魔の手

1929年にアメリカで起きた世界大恐慌の発生を検証する話の第2回目ですが、今回は銀行による信用創造の膨張が大衆をも巻き込んだことについて述べていきます。

ここで思い出していただきたいのは今わたしたちが日頃遣っている紙幣が、市中銀行信用創造によって生まれているということです。信用創造とは資本家などに融資することによって新しいマネーを産み出すことです。銀行は金庫にない幻のお金を膨張させ、それを貸し付けて莫大な利息収入を稼いできたのです。裏を返せば銀行がどんどんカネを貸し付けないと世の中にマネーが行き渡らず、生産や消費活動が停まり経済マヒを起こしてしまうということです。

当初この銀行家による信用創造産業革命で莫大な資本金を必要とする資本家や戦争で多大な戦費を調達しないといけない国家に対し行われてきました。


しかしながら資本家がどんどん資本力を蓄えるにつれ、自己資金だけで設備投資が可能となってきます。それですと銀行は融資先がなくなり経営が行き詰ってしまうので、新たな借り手を探さねばならなくなります。そこで銀行が目をつけたのが大衆です。大衆に負債を発生させて信用創造を行っていくという流れが世界大恐慌前のアメリカで生まれました。

負債の発生でマネーを産むという信用創造という魔のシステムが大衆を巻き込んでいく仕掛けは二通りでした。
ひとつは月賦払いによるローン販売方式の導入。ふたつ目が株式投機行為の大衆化です。日本ではあまりその感覚がないですが、アメリカは個人がローンを組んでクルマや住宅・電化用品等を買いそろえるのが当たり前になっています。株式投資などももっと一般化しています。時が下り2007年に同じくアメリカ発生したサブプライムローンショックもそれが原因で発生しました。

再び1920年代に話を戻しますが、まずひとつ目のローン販売と大量生産・大量消費社会の到来についてお話しましょう。
20世紀初頭まで自動車やラジオ・冷蔵庫・洗濯機などといった電化製品を一般庶民が手にすることは不可能でしたが、工業の世界において効率的な大量生産システムが確立され、それらの大衆化が進みました。1910年あたりに自動車製造会社のフォードが採用したベルトコンベアによる流れ作業方式とそれによって産み出されたT型自動車がその代表といえましょう。
これまで富裕層しか購入できなかった自動車や電化製品の価格が下がってきたとはいえ、まだまだ庶民にとっては高嶺の花です。一括現金払いではとても買えそうもありません。そこで生まれたのが月賦払いというローン販売方式でした。自動車や住宅・電化製品は大量広告とセールスマンの力によって大衆レベルにまで幅広く浸透していき、人々の生活環境レベルをぐんと向上させますが、それと引き換えに信用創造に不可欠な起債の担い手が資本家や国家から一般大衆へとシフトしてしまったともいえます。

次にふたつ目の株式投機についてです。
銀行は当時値上がり一辺倒だった株式の仲買人を新たな融資先としました。銀行から大量の融資を受けた株式仲買人は巨額の財を成す資産家や投機家だけではなく、大きな財産を持たない一般庶民にまで株を売りつけ始めます。それをやるために小さな金額しか持たない人でも巨額の株取引に参加できる証拠金取引(レバッジ)という手法が生み出されました。これは1000万円の株でも売買の損益が±10万円以内であれば10万円の証拠金で対処できるから、それを積めば投資に参加できるという発想です。このレバッジのおかげで株取引量が1920~29年の間に6倍も増えたそうです。
株の証拠金取引を仲介する金融ブローカーは証拠金(当時は株取引額の25%)だけでは株の購入資金が賄えないので銀行から残りの必要資金(75%)を融資してもらいます。当時の銀行や資産家たちはレバッジによる株取引量の増大で株価を吊り上げその利ザヤで稼ぎ、さらに株のブローカーにも融資して利ザヤを稼いで、二重でボロ儲けしていたのです。
株式投機によって泡銭を膨らませるマネーゲームは所詮イリュージョン(幻)であり、弾けて当たり前の危険なゲームだったのですが、一般大衆は株のセールスマンの言葉を信じ込み、どんどん株取引に参加します。当時の売り文句は「コロンブスもワシントンもフランクリンもエジソンもみな投機家だった。」「誰もが金持ちになるべきだ」「人が一ヶ月にほんの15ドルを節約してこれを優良株に投資しすれば、配当金などを別としても、20年後には少なくとも8万ドルの金を手にすることができ、この投資から受ける収入は少なくとも月額四百ドルになる」といったものです。人々は「永遠の繁栄」を本気で信じ込み、雑貨屋、電車の運転手、配管工、お針子、もぐり酒場の給仕までが相場をやるという状態になりました。恐るべきモラルハザードの進行です。

実際のモノやサービスの生産や消費とかけ離れた根拠なき空虚な株価の高騰が1929年の10月24日に停まり一気に暴落しました。株バブルによって膨らんでいた資産はイリュージョンです。信用膨張によって幻のマネーを大量に企業や株の投機家たちへ貸し出していた銀行に対し、預金者経営に対する不信や疑惑の念を持つようになり、一気に銀行から預金を下ろし始めます。これによって銀行は取り付け騒ぎ預金封鎖を起こし倒産し、銀行融資が停まった企業がバタバタ倒産しました。工場の操業停止などによって1300万人が職を失うことになります。4人に1人が失業という由々しき事態です。

ここで皆さんに知っていただきたいのは銀行が生み出した借金によって幻のマネーを産む信用創造というシステムがバブルや恐慌の発生原因に大きく関わっているということです。(信用膨張)
資本主義経済の発展は廉価な自動車や電化製品の普及などによって、わたしたちの暮らしを豊かで便利にした反面、それと引き換えに負債という化け物をどんどん大きく膨らませてきました。わたしたちの暮らしは負債という化け物に呑み込まれ、それによる支配下におかれてしまったのです。
1920年代のアメリカ経済は人々に文明生活の大衆化を進めた一方で、一般庶民をも負債というモンスターの餌食にしてしまったという大きな負をもたらしたのでした。

次回は21世紀に下りアメリカのサブプライムローンショックについて取り上げます。

参考文献紹介
 のらねこま氏 著 「金融緩和の天国と地獄」

今回ならびに次回の記事執筆において上の書籍を参考に書かさせていただいております。さらに詳しくやさしく解説されておりますのでお勧めしたいです。

「お金の生み方と配り方を変えれば 暮らしが変わります」

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