新・暮らしの経済手帖 ~時評編~

わたしたちの暮らしを大切にするための経済解説サイトを目指して開設しました。こちらは時評編で基礎知識編もあります。

新日銀総裁に指名される植田和男氏ってどんな人

先週末の2月10日に新しい日銀総裁として経済学者の植田和男氏を起用するという方針が伝えられました。これまで次期日銀総裁財務省出身と日銀プロパーが交互に入れ替わるたすき掛け人事の慣例からみて、日銀プロパーである雨宮正佳氏か中曾宏氏ではないかと予想されていただけに意表を突かれた格好です。

この植田氏とはいかなる方なのか?

自分は日銀副総裁を務められていた経済学者の岩田規久男さんと日銀官僚であった翁邦雄氏との間で激しい論争が繰り広げられていたときに仲介役としてしゃしゃり出てきた人物であったという記憶が遺っていました。(植田裁定)

植田氏は2000年のゼロ金利解除に反対票を投じたことや、日経新聞への寄稿で金利引き上げを急ぐことは、経済やインフレ率にマイナスの影響を及ぼし、中長期的に十分な幅の金利引き上げを実現するという目標の実現を阻害する」などと述べられていたことから、黒田現日銀総裁が進めてきた異次元金融緩和を継承してくれるのではないかという見方がありました。しかし経済学者の田中秀臣氏は植田氏に対しかなり懐疑的な見方をされており、さらに日銀審議委員であった原田泰氏が書かれた回顧録「デフレと闘う 日銀審議委員、苦闘と試行錯誤の5年間」でも、植田氏が原田氏に対し「長期金利の0%の金利のペッグ(YCC)がハイパーインフレを引き起こす。金融機関経営が厳しくなり、金融仲介機能を壊して経済を悪化させる」などというおかしな質問をしていました。

あと他にも植田氏の金融政策に関する過去の発言を読んでも、短期国債金利を抑えることを認めつつも、長期金利を低く抑え続けるのはよくないといった主旨のものが目立ちます。氏を単純に金融緩和容認派だと見なしてはいけないようです。

www.nikkei.com

上の記事より植田氏の発言引用

本来誘導対象は10年より短い金利にして、10年債利回りは自由に変動させるのが日銀の考え方には合うのではないか

黒田日銀体制のときに導入されたYCC(イールドカーブコントール・長短金利操作)ですが、これは短期だけではなく10年ものといった長期の金利も低く抑えることで、民間企業に投資回収まで時間がかかる超大型の事業や次世代技術の開発、雇用といった投資の拡大を促したり、個人の何十年にもかかる住宅ローン金利の負担軽減を狙ったものです。リフレーション政策は「将来の(実質金利や物価)予想を変えることで積極投資を促すもの」といわれていましたが、植田氏の金融政策観はそれと異なります。どちらかといえば金融機関の経営の方が大事という日銀守旧派にありがちな思考の持ち主だと想像されます。そもそも筆者には「YCCがハイパーインフレにつながる」という発想がどこから出てくるのかわかりません。

植田氏は「バランス感覚がある人」などと評されていますが、悪く言えば風見鶏でその時々の政権や日銀、財務省、金融機関の意向に左右されやすい人物だと思っておいた方がいいでしょう。

 

植田氏が新日銀総裁に就任した場合、予想されることは上で述べたように中~長期の金利引き上げの他に、インフレ目標2%の先送り・棚上げを行うといった形で黒田総裁時代から続けた金融政策の骨抜きです。株式などの市場関係者は今後企業の収益が再び停滞するだろうと予想して株を手放すような動きに出ています。やがて新卒求人倍率の低下などといった形で低成長経済への逆戻りになってしまうことにならないでしょうか。

岸田政権は多くの負の遺産を遺しそうです。

metamorphoseofcapitalism.hatenablog.com


政策研究・提言ランキング

ご案内

「新・暮らしの経済手帖」は経済の基礎知識についての解説を行う基礎知識編ブログも設置しております。画像をクリックしてください。

f:id:metamorphoseofcapitalism:20200814191221j:plain
https://ameblo.jp/metamorphoseofcapitalism/

ameblo.jp

 
サイト管理人 凡人オヤマダ ツイッター  

https://twitter.com/aindanet