新・暮らしの経済手帖 ~時評編~

わたしたちの暮らしを大切にするための経済解説サイトを目指して開設しました。こちらは時評編で基礎知識編もあります。

二度のハイパーインフレに見舞われたハンガリー

第1次世界大戦後のドイツの事例に続き、至上最悪といわれたハンガリーの事例を取りあげます。ハンガリーはドイツと同じく第1次世界大戦後と第2次世界大戦後に二度もひどい悪性インフレに見舞われました。

ハンガリーオーストリアと同じくハプスブルク家に支配されてきており、第1次世界大戦後に敗戦国となってオーストリアと分離します。当然オーストリアはドイツと同じく連合国から多額の賠償金を負わされ、それを捻出するために中央銀行が大量の紙幣を発行してしまいハイパーインフレを引き起こしました。分離独立したハンガリーも同様の理由でハイパーインフレが襲い掛かり、通貨であったハンガリー・コロナは暴落します。
1回目のハイパーインフレはやはり新貨幣発行とデノミで沈静化を計りました。新貨幣はペンゲーとなり、その後しばらくは東欧圏で最も安定した通貨でしたが、世界大恐慌で再びハンガリー経済は苦境に立たされます。

ハンガリーは第2次世界大戦中、ドイツとソ連の板挟みとなり両国に翻弄され続けました。自国内でも矢十字党というファシズム政党が現れ、陰惨極まりないユダヤ人狩りを行います。ハンガリーは当初ヒットラー率いるナチス・ドイツに近づき経済的関係を深め、ハンガリー経済は立ち直りを見せたのですが、ドイツ軍がソ連侵攻に失敗し、ハンガリーの領土はどんどんソ連に押さえられていきます。1945年には首都ブタペストがソ連軍によって陥落させられました。

国土が戦乱で荒廃し、なおかつドイツに大きく依存じ過ぎたハンガリー経済は壊滅的な状況になります。ハンガリーソ連に攻略され、矢十字党のサーラシ政権に代わる臨時政府へと移行した1946年から2回目のハイパーインフレに襲われます。そのインフレ率はたった半年で1垓(がい)倍以上にも及びました。ギネスブックにも載ってしまっております。
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史上最高額の紙幣 10垓ペンゲー紙幣です。
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この場合もやはりペンゲーに代わりフォリントという通貨を導入してインフレを収めました。
デノミの交換レートは1フォリント=40兆京=40穣=4×1029=400,000,000,000,000,000,000,000,000,000ペンゲーでした。

さて問題の2度目のハイパーインフレが起きた原因についてですが、当方がそれを探るべくいろいろ資料を探してみたのですが、なかなか見つかりません。戦時中ハンガリー軍はナチスドイツと共に行動し、多くの戦費を注ぎこみ消耗し続けたことは言うまでもないでしょう。戦災復興をするにも大規模な財政出動が要ることは確かですが、物資の供給不足もしくは国債や貨幣の濫発だけでは説明しにくい点があります。

飯田泰之准教授は「「ハイパーインフレが起きる国は二通りだけである。通貨発行主体の継続性が疑われた場合、例えば外国に占領されるんじゃないかという場合と、すでに占領されてしまった場合。つまり、国が崩壊する、革命、戦争という状況下に起こりえるものである」と説明されていました。
ハンガリーの2回目のハイパーインフレ発生の原因説明はこれがいちばん妥当な答えではないでしょうか。

この国はナチス・ドイツに依存するような形で経済が成り立っていましたが、ドイツが降伏するとその後ろ盾を失ってしまう形になります。通貨を発行する主体である政府もハンガリー第一王国発足以来極めて不安定で、ハンガリーソビエトといった共産政権が生まれたり、上で述べたナチスドイツの傀儡である矢十字党政権が現れたりしています。ソ連に攻略されてしまいドイツが降伏してしまえば、ハンガリー政府は自治権と共に通貨発行権も失う恐れがありました。そうなるとペンゲーは信用を喪失し単なる紙切れとなってしまいます。

第2次世界大戦当時、ギリシャもやはりハイパーインフレを起こしています。それはナチス・ドイツに占領された1943年10月のときでした。

ここでお金とは何かについて再論しておきますと、お金は人々がそれをお金だと信用するからお金であり価値があるというのが、経済学者の中で行きついた答えとなっています。貨幣の自己循環論法と言います。岩井克人教授は「貨幣とは何ぞや?」ということを徹底して問いかけ続けた方ですが、「貨幣は貨幣であるから貨幣である」という答えに辿り着いたそうです。


岩井克人「経済学の宇宙」より
すなわち、それは、今貨幣として受け入れている無価値のモノをそのまま貨幣として受け入れてくれる現存の資本主義経済の永続性に対する、信頼の表明と見なすことができます。その意味で、恐慌とは、それ自体がいくら望ましくない状態であったとしても、資本主義にとっての真の危機とはなりえません。
 真の危機―それは、貨幣を貨幣として支えている「予想の無限の連鎖」そのものが崩壊してしまうことなのです。それは「ハイパーインフレーション」にほかなりません。
 ハイパーインフレーションとは何か。それは、誰もが将来、貨幣を貨幣として受け入れてくれる誰かがいなくなるのではないかと予想することによって、実際に誰もが貨幣を貨幣として受け入れてくれなくなり、誰もが先を争って貨幣から遁走し始めてしまう事態です。不安の自己実現です。その結果、貨幣を貨幣として支えていたあの「予想の無限の連鎖」が崩壊し、それまで百円玉や一万円札や百円の電子マネーであったものが、単なる金属片や紙切れや電子信号にすぎなくなってしまうのです。 

岩井教授の恐慌は真の資本主義の危機ではないという捉え方については私の見解と完全に一致しませんが、ハイパーインフレは人々がこれまで貨幣としてつかってきたものが、そうでなくなってしまうのではないかという不安や不信を抱くことによって発生するという説明はハンガリーギリシャで起きた事例に当てはまります。

もちろんハイパーインフレの発生原因は細かく見るとひとつに断定しづらいところがあるのですが、貨幣が貨幣であり続けるという予想の無限の連鎖が崩壊するからという見方は有力な説のひとつだといえましょう。

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「お金の生み方と配り方を変えれば 暮らしが変わります」

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