新・暮らしの経済手帖 ~時評編~

わたしたちの暮らしを大切にするための経済解説サイトを目指して開設しました。こちらは時評編で基礎知識編もあります。

ベネズエラのハイパーインフレ

中南米ハイパーインフレが多発している地域ですが、いま現在進行形でそれが問題となっている国といえばベネズエラでしょう。前回はアメリカと国際金融資本に振り回される形で中南米諸国の多くがハイパーインフレを引き起こしたことについて触れましたが、ベネズエラの場合は旧ソ連ジンバブエのような共産・社会主義国ハイパーインフレも合わさっています。

まずは簡単にまたベネズエラの歴史から入っていきます。
この国は1914年に油田が発見されたことにより、一気に貧しい農業国から南米屈指の地域先進国となっていきました。しかしながら1830年に独立して以来、1959年に「民主化の父」といわれた民主行動党の創設者・ロムロ・ベタンクールが大統領に就任するまで軍政が続きます。
ベタンクール政権発足で共産党を排除したプント・フィホ協定(現状固定協定)によって主力3政党が選挙結果に関わらず政権を維持する体制が出来上がったのですが、これが後々に政治腐敗の温床となっていきました。
豊富な石油資源によってベネズエラは多いに潤い、オイルショックによる原油高のときはウハウハ状態だったのですが、その富は一部の富裕層のみが独占します。貧富の差がどんどん拡大していく一方で、政府は放漫財政に突っ走り財政赤字が膨張していくなかりでした。政治家の不正蓄財がひどかったです。

当然貧困層を中心に民衆の不満が募り、それが爆発する形でカラカス暴動が勃発します。そして1992年空挺部隊ウゴ・チャベス中佐はクーデター未遂事件を起こしました。
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このときのクーデターは失敗しますが、「既存政党を一掃する」「支配階層を撲滅する」「金持ちは許さない」とボリバル革命を唱えるチャベスの人気は左派系のマスコミの支援もあって高まっていき、1999年に彼は大統領に就任します。
しかしこのチェベスはガチの共産・社会主義者で、大統領就任後は徹底して反米・反市場原理主義・反新自由主義を前面に打ち出しました。まずチャベス政権は人気が落ちないうちに憲法社会主義色が強く、大統領の権限を強化したものに変えてしまいます。


さらにチャベスは電力・電話通信・セメント・ガラス・鉄鋼・オリノコ重油・製紙・コーヒーなどの企業からホテル、スーパーマーケット、建物など1200前後の外資や民間企業を接収し、国営化しました。となってくるとその従業員は国家に絶対服従しないと職を失うことになります。
それだけではなく独裁政権は国家事業や予算をアメとムチのように利用して湯水のようにバラマキをやりはじめました。野党の知事が当選した県は予算を思いきり削り、一部の地域や人間にはふんだんに予算や事業を盛ります。するとその恩恵を授かれなかった地域は「次は自分のところへ事業を」と政府におねだりを始めだし、選挙に協力させるといったことをやるのです。かつて自民の田中角栄経世会がやってきた公共事業や農協へのバラマキで選挙の票を獲るような手をひどくしたようなものです。


チェベス政権のときは原油価格が高かったので、そのオイルマネーでバラマキがいくらでもできましたが、その放漫財政がハイパーインフレの引き金となっていきます。

輸出品は原油一本という状態は非常に脆いものです。ソ連とその後継国家ロシアもそうでしたが、資源の取引価格が下落してしまうと、一気に外貨が入ってこなくなります。サブプライムローンショック後のアメリカでバーナンキFRB議長が行っていた信用緩和が出口戦略へと向かうと同時に、投機家たちが原油取引市場からマネーを引き上げたために原油価格が下落してしまい、ベネズエラオイルマネーを稼げなくなります。そこからが地獄です。

チャベスは2013年に癌で死去し、副大統領だったニコラス・マデュロが後任となって今に至りますが、さらにデタラメ政策が続きました。
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御多分に漏れず共産・社会主義国家が進める企業の国営化は生産効率をどんどん落としていきます。ミルトン・フリードマンが「もし社会主義政権にサハラ砂漠を管理させたら、すぐに砂が足りなくなる」などと言っていたようですが、社会主義国家は生産・供給が死んで深刻なモノ不足に陥るのデフォです。


モノ不足は当然ひどいインフレを招きます。ベネズエラ政府は企業や商店が持つありとあらゆる商品を差し押さえして、それを安く売って価格統制するという暴挙に出ました。
生産者側は政府によって販売価格を強引に抑え込まれてしまっている自国市場に商品を卸すよりも、高く仕入れてくれる国の市場か闇市へ売ってしまいます。つまりはベネズエラの正規市場に商品が出回らなくなります。

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闇市で売る商品は日々の食糧品やトイレットペーパーでも貴重ですのでとんでもないボッタクリ価格となります。(国家)統制経済は市場原理が働かず適正な物価調整ができなくなるのでハイパーインフレがひどくなるのは当然です。

野田加奈子氏   「ベネズエラの食料不足のしくみ
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上は野田さんのブログ記事に掲載されていたものです。

ベネズエラ政府の役人はブラジルやウルグアイなど他国で10ドルで売っている小麦を20ドルという高値で買ってきますが、それを自国民に3ドルという安値で販売します。当然17ドルの逆ザヤが発生し政府は損を被りますが、これを自国の石油を売ったカネで補填してきました。原油の取引価格が高いときはそれで良かったのですが、それが下落してしまうとベネズエラ政府は逆ザヤの損失補填ができなくなります。一挙に財政赤字が膨らみ、外貨も極端に不足します。

一方、ベネズエラの農民が小麦を生産するのに5ドルの経費がかかります。しかし国内では3ドルでしか販売できないため、採算がとれません。よってベネズエラの農民は農耕をやめるしかなくなります。
さらに政府が3ドルという安値で売っている小麦を10ドルという高値で売っているコロンビアに密売し、7ドルの利益を稼ぐ”転売ヤー”も出てきます。そのためにベネズエラ国内に食糧が残らないことになります。

電気は頻繁に停電するは、医療についても薬はおろか、消毒薬や石鹸もない。衛生状態が最悪な手術室と抗生物質の欠乏で患者が命を落とす・・・・・。治安は極悪で一日に50件以上の殺人事件が発生で警察も賄賂づけ。完全にリアル「修羅の国」(←北斗の拳)状態。 もうメチャクチャです。

ベネズエラの貨幣ボリバルは紙屑同然になってしまっていることは皆さんご承知のとおりですが、つい先日ベネズエラで卵を貨幣に見立てるなんて話まで出てきました。それからさらにマデュロは政府公認の仮想通貨ビットコインまで発行するとまで言い出す始末です。
 高橋洋一教授

何でもありですね・・・・・。

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