新・暮らしの経済手帖 ~時評編~

わたしたちの暮らしを大切にするための経済解説サイトを目指して開設しました。こちらは時評編で基礎知識編もあります。

年金・健康保険財政の悪化は少子高齢化のせいだけか?

いまこうして私が「税と国家財政問題 」編を書き綴っている最中に自民党二階俊博幹事長が変なことを言い出しました。「子どもを産まない方が幸せじゃないかと勝手なことを考えている人がいるといった内容の発言です。
 二階氏の暴言について書いた記事

二階氏が述べたことをもう少し詳しく取り上げますと
 「戦前の、みんな食うや食わずで、戦中、戦後ね、そういう時代に、「子どもを産んだら大変だから、子どもを産まないようにしよう」といった人はないんだよ。この頃はね、「子どもを産まない方が幸せに送れるんじゃないか」と勝手なことを自分で考えてね。」
 「今晩、飯を炊くのにお米が用意できない」という家は日本中にはないんですよ。だから、こんな素晴らしいというか、幸せな国はないんだから。」

イメージ 1

二階氏は典型的な旧い時代の自民党政治家で、「オモテに出てはいけないおじさん」という人までいました。悪い意味で「昭和の政治家」です。この御方の素晴らしい人格について話すのはこの辺で止めるとして、「少子高齢化の進行が日本経済や社会保障制度を崩壊させる」と考えている人は二階氏に限らず相当多くいます。

下のイラストのように昔は多くの現役世代が、少ない老人を支えるだけで済んでいたが、いまは老人一人人の現役世代で支えねばならないことになるといった話がよく持ち出されます。

イメージ 2イメージ 3イメージ 4

確かに単純に見たら現役世代の負担が今後ものすごく重くなっていきそうに見えます。
しかしそれは高度経済成長期以前のように機械技術があまり発達しておらず、産業全体が労働集約型であった時代の発想です。われわれの暮らしに必要なモノやサービスといった財の生産は生産効率の高い機械などの投入によって自働化・省人化が進んでいます。現代は資本集約型の産業構造です。生産された財や富の再分配さえ行えば少子高齢化による生産年齢人口減少の問題は乗り越えられる可能性があります。それこそ井上智洋さんの「AIからBIへ」ではないですが、技術高度化によって雇用の場が縮小していくという技術的失業発生と少子高齢化による生産可能人口の減少が互いに問題を相殺するという見込みも出てきます。そういう意味で私は少子高齢化問題についてはさほど深刻に考えていません。(とはいえ社会保険料等の引き上げや支給額の削減を回避できるとまでは言っていません。これは後にお話します。)

年金・健康保険財政の問題深刻化は既に「増税と緊縮財政が余計に財政悪化を進める謎 」と「緊縮財政が招いた財政膨張の皮肉と流動性の罠の発生 」で述べたように、1990年代の金融政策や財政政策の失策、雇用の不安定化が招いたものです。グラフを見れば一目瞭然です。
イメージ 5
1990年代初頭に日銀の三重野康総裁がバブル退治と称し、金融引き締めを行ったのですが、これが銀行の貸し渋り貸し剥がしを招き、企業の投資を一気に萎縮させます。

イメージ 6

雇用も「人への投資」ですので削減対象となります。このことで高度経済成長期から続いた終身雇用制度や年功序列制度が崩壊し、賃金は引き上げどころか切り下げが行われます。さらに雇用縮小のしわ寄せは当時18~20歳代の若年層に及び、正規雇用ではなく不安定な非正規雇用に甘んじなければならなくなりました。ロスジェネの発生です。
イメージ 7

正規雇用者の場合、各種社会保険についても厚生年金や厚生健康保険に加入するのではなく、国民年金国民健康保険対象者となり、自前で保険料を負担しないといけません。正規雇用者に比べ賃金が低めで、さらに収入が不安定気味となる非正規雇用者にとって社会保険の負担は非常に重いものです。保険料の未払いも増加します。上のグラフを見ると社会保険料収入が1997年以降横ばいになってしまっていることに気がつくでしょう。
従業員を雇用する側の企業にとっても、社会保障負担の肩代わりは大きな負担です。「高度経済成長期に整備・発展した日本の公的医療保険・年金保険制度 」でも述べたように、厚生年金・健康保険の保険料は労使折半で事業者側が半額負担です。この重い負担が企業の雇用拡大意欲をさらに萎えさせることになります。企業が正規雇用ではなく非正規雇用化を推し進めた背景のひとつに非正規雇用だと事業者側の社会保険料負担が小さくなるという事情もあったことでしょう。(現在は法改正でパートタイム労働者等にも厚生年金や厚生健康保険の対象を拡げている)

なお1990年代の就職氷河期に見舞われたロスジェネ世代の第1期生は1970年代生まれです。この層は第2次ベビーブーム時代に生まれた団塊ジュニア世代といわれ、割りと人口層が厚く、彼らが結婚・出産することによって第3次ベビーブームが起きるのではないかと期待されていました。ところが運悪く結婚・出産適齢期に「失われた20年」がはじまり、所得の不安定化で結婚・出産どころではなくなりました。このことが少子化をさらに加速させたと考えてもおかしくはありません。

高度経済成長期に多くの就労所得を得て、割りと手厚い厚生年金・健康保険や企業の共済組合の庇護を受けてきた団塊世代を、就職難に見舞われ所得が少なくなってしまったロスジェネ世代が支えるという理不尽な状況も生み出しています。世代間格差や断絶の要因にもなっています。

国民年金や健康保険の赤字分を国庫負担でカバーしている実状も既にお話しました。国民年金や健康保険は当初3分の1を国庫負担としてしましたが、2分の1に引き上げる話が出てきます。国の一般会計の社会保障費が膨張する一方ですが、これまでの経済低迷や雇用不安定化がもたらした国民年金・健康保険の財政悪化がその要因になっています。

イメージ 8


こうしてみていくと
イメージ 9
「国民の血税はオレ(官僚・政治家)たちのカネ! オレ(官僚・政治家)たちの失策は国民の責任!」

という声が聞こえてきそうです。ノモンハンの辻正信やインパール作戦大牟田廉也の時代から何も変わっていません。

結局社会保険制度の財政を不安定化させたのは1990年代以降の金融政策や財政政策・雇用政策の失敗によるものです。子どもを産まない人の身勝手さが社会保障制度の崩壊を招いているのではありません。日銀や大蔵→財務官僚、財界と自民党政治家の身勝手さと無能さがもたらしたものです。

再び二階氏批判に戻りますが、「戦前の、みんな食うや食わずで、戦中、戦後ね、そういう時代に、「子どもを産んだら大変だから、子どもを産まないようにしようといった人はないんだよ」発言についてもそんなことはありませんでした。戦前から終戦後しばらくの間まではむしろ日本の人口が殖え過ぎていることが問題視されていたこともあります。日本が満州の植民地化を計ったのは明治維新以降急激に増加した人口の受け入れ余地が農村、都市部共になかったことだと云われています。当時アメリカやブラジルへも貧しい農民を移住させていましたが、アメリカの排日移民法によって阻止され、満州に進出せざるえなくなったという事情があります。
さらに終戦後日本を占領したGHQが日本の領土面積に対する人口の多さを警戒しており、このことが共産主義化や帝国主義の復活を警戒し、産児制限に乗り出していたようです。


おまけに終戦後ですが、貧困や食糧難で育てられなくなった赤子を「子どもがいないお金持ちの家に養子として出すから」といって預かったものの、そのまま見殺しして、預けた親から養育料だけを奪い取ったという事件があったぐらいです。(寿産院事件

つい先日水産業の研究で知られる勝川俊雄先生がこんなツイートをされていました。
イメージ 10

~日本の人口減少と漁獲量減少には類似した構図がある。
1)公的機関が、やるべき事をせずに、事態が悪化
2)構造的問題を無視して、現場(女性や漁業者)に責任転嫁
3)非現実的で楽観的な将来予測で問題先送り~

仰り通りですね。

官僚主義がもたらした失策のツケを国民が背負わされているようなもののです。

~お知らせ~
今後日本の政局や北朝鮮問題についての論考は下記ブログで掲載していきます。

「お金の生み方と配り方を変えれば 暮らしが変わります」

サイト管理人 凡人オヤマダ ツイッター https://twitter.com/aindanet
イメージ 1