新・暮らしの経済手帖 ~時評編~

わたしたちの暮らしを大切にするための経済解説サイトを目指して開設しました。こちらは時評編で基礎知識編もあります。

高度先進医療が医療保険制度を破綻させるのか?

前回の「医療費の膨張はなぜ起きる 」で、国民医療費が増大していく原因のひとつに高額な薬剤やダヴィンチなどの手術支援ロボットの普及拡大がその理由のひとつとしてあげられていることを話しました。先に結論を申せば確かに高度先進医療費が国民医療費の増加原因になっているかのように見えるけれども、長い目でみたときにこれらが割高な医療であるとは言い切れません。短期の間はすごく高額な医療行為であってもその治療効果が極めて高く、他の治療法に比べ総合的に医療費が低減されたならば安上がりであるということになります。

昨年平成29年9月20日日本医師会定例記者会見で横倉義武会長がC型肝炎治療薬(ソバルディ ハーボニー)の薬価引き下げや治療薬を必要とする患者に行き渡った結果、平成28年度の医療費の伸びがマイナスとなったという見解を示しています。最初は多額のコストがかかっても、ソバルディやハーボニーの薬効によってC型肝炎患者数そのものが減少し、徐々にその薬の利用の回数も減っていったということです。


C型肝炎治療薬であるソバルディ ハーボーニーは薬効はかなり高いのですが、当初一錠6万円とか8万円もする超高額な薬剤として人々を驚かせました。一ヵ月間この薬を服用すると500万円~600万円以上かかると言われていたのです。
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このようにソバルディやハーボニーはものすごく高額な薬ですが、これによって高いC型肝炎の治療効果が望め、国内の臨床試験では患者の96%が治癒するという結果も出ています。50万人もいるC型肝炎ウィルス患者にこの薬を利用したとなると2兆円もの薬剤費が飛びますが、長い目で見たとき、肝臓がんや肝硬変の発症を予防し、その治療コストを抑えることができます。肝硬変になったときは肝移植手術の必要性も出てきてしまいますが、それをなくすことができる可能性もあります。(肝移植のコストは手術費用をはじめ免疫抑制剤などを含めて700万〜1,200万円程度。合併症などで入院期間が長引けば2,000万円)

さらにソバルディやハーボニーの薬価も当初に比べ低くなりました。2016年にはソバルディが一錠4万2千円に、ハーボニーが5万4千円に値下げされています。新薬は発売当初はものすごく高額になるときがありますが、製薬会社が投じた莫大な研究開発コストを回収し終わるとだんだんと値下げされてきます。

やはり画期的な抗がん剤として注目された小野薬品のオプジーボも当初2014年には100mgで72万9,849円という薬価がつけられ、1年間使用すると3,500万円にもなるとして、國頭英夫(里見清一)医師らが「「この1剤を契機にして、国が滅びかねない」と警告したことがあります。しかしその後オプジーボもかなり薬価が下がってきました。(このことは後で取り上げます) 

それとダヴィンチなどの手術支援ロボットを活用した外科手術も低侵襲で傷も小さくて済むなどといった理由で注目されていますが、その治療コストの高さについても問題視されています。ダヴィンチの初期投資コストは一台3億5千万円で維持費も年間3千万円かかります。さらに使い捨てのアームなど、消耗品代が1回の手術当たりおよそ40万円にも及びます。現時点ではかなり割高な治療といえましょう。

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心臓外科医の天野篤先生は「はやい やすい うまい」をモットーに無駄がなく迅速に、やすく(やり易く・コストが安く)、うまい(巧い・美しい)」手術を心がけておられることで有名ですが、増え続ける医療費のことを案じ、高額な治療コストがかかるロボット手術などはあまり積極的になれないとお話されています。

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*ただし2017年のインタビュー記事においては、天野篤順天堂大学病院長もダヴィンチ手術を受けられる病院であることを売りにする病院経営戦略を打ち出してる。
一介の外科医、憧れの人に会いに行く:中山祐次郎・対談企画 「多くの医師は『ごっつあん体質』」 - 対談:天野篤・順天堂医院長◆Vol.2


とはいえ支援ロボットを活用した手術の普及拡大の努力も否定すべきではないでしょう。ダヴィンチ手術を積極的に行っている外科医といえば藤田保健衛生大学の宇山一朗教授や心臓外科医ですと渡邊剛教授の名が浮かびますが、新しい技術に挑戦的な医師も必要なのです。
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手術支援ロボットの市場シェアはダヴィンチのIntuitive Surgical社が一社独占しており、当然販売価格も高くなっていますが、国産手術支援ロボットの登場も期待されています。そうなった場合支援ロボットの価格がやはり下がる可能性が出てきます。となってくるとロボット支援手術がさらに身近なものになってくるかも知れません。


天野教授が仰るように急性期医療を行う病院の多くが最新治療を無尽蔵に取り入れていけば、国民医療費は天井知らずに上がってしまい、国民皆保険制度を守ることはできなくなっていきます。特定機能病院は臨床試験5%、高額で先進的な医療15%、従来から行われてきた医療80%といったように医療のポートフォリオの割合を振り分けし、従来通りの治療法の価値も見直すといったことをしていくべきでしょう。
医療の世界においてもベネフィット(B)/コスト(C)-便益対費用を考えていく必要があります。

とはいえど財務省などが不要に国家財政危機を煽り、すべきではない緊縮財政を押し付けることによって、医学や医療の世界におけるイノベーションを阻害してしまうようなことがあってはなりません。
医師からソバルディやハーボニー、オプジーボなどの投与を勧められた高齢患者さんが「若い人たちに負担を与えたくない」といって処方を断るケースもありました。日本の国家財政が一般世間で思われているほど深刻に悪化していないことはこのサイトで何度も述べてきております。


財務官僚がついた嘘や緊縮財政が死なないはずの患者の命を奪うようなことになりかねません。医療経済を語る上でもマク経済や財政論の知識が必要です。


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「お金の生み方と配り方を変えれば 暮らしが変わります」

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