新・暮らしの経済手帖 ~時評編~

わたしたちの暮らしを大切にするための経済解説サイトを目指して開設しました。こちらは時評編で基礎知識編もあります。

ベーシックインカムの財源はなぜ所得税主体なのか

前回の記事ではもっとも標準的なベーシックインカムとその露払いというべき給付付き税控除の案を紹介しました。
こちらが推奨するのは所得税制と一体化させた包括的現金給付制度です。

ベーシックインカムは国民すべてに無条件で同じ金額の現金を直接給付する制度であり、平等な分配ですが、人それぞれ異なる身体能力や生育環境といった本人の不可抗力で生じた経済格差を是正する機能はありません。

ある人がこんなツイートをされていました。
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なかなか興味深いツイートです。

上のイラストは右側が「正義」となっていますが、justiceをそう訳したのでしょう。justiceは「公正」とか「適正」といった訳語がしっくりきます。佐々木俊尚さんがjusticeと正義の違いについて述べています。


ベーシックインカムは平等ではあってもjusticeではないのです。上のイラストでいえば背の高さを問わず3人とも1個の踏み台となる箱を与えるのがBIです。justiceな状態に調整することをadjustさせるといいますが、それを担うのが税制で、背の低い子どもには箱を2個、中ぐらいの背の子どもには1個だけといった配慮がそれにあたります。分配そのものは平等ではありませんが、生まれ持った身体条件を問わず皆そろって野球の試合を観戦できるという機会平等は実現します。
いくら小さな政府主義だろうが、自由競争(原語はcompetitionで競技とか参画という訳語が本来適切)だろうが、このようなアジャストが必要ないということはありません。スポーツなどの競技も出場者が片方が有利や片方が不利になったりしないよう極力条件や環境を揃えます。公正(justice)さを尊重しないとまともな競技になりません。

いささか話が反れましたが、ベーシックインカムや給付付き税控除は所得税や資産課税と一体化させることが大事です。

あとベーシックインカムに興味を持った人の多くはAI(人工知能)の発達によるシンギュラリティ(技術的特異点)が到来し、労働需要がうんと低くなる可能性があると言っています。私の予想はそうした時代はまだかなり遠い話で恐らく自分が生きているうちには来ないと見ていますが、まったく夢物語だと切り捨てるわけにはいきません。モノやサービスの生産における省人化が進み、自動化された生産設備という資本を有している者のみが収益を寡占してしまうような社会が到来した場合、資本家からその収益を税という形で徴収し、それを国民に分配していかざるえない時代が来ることも否定できないでしょう。しかしながらそういう時代がきたとしても、所得税や固定資産税で対応すればいいのです。前回お話したベーシックインカムモデルでも技術高度化社会に対応できるかと思われます。

それと通貨発行益や政府貨幣(統治貨幣)によってベーシックインカムの財源を賄えばいいという人たちもたくさんいますが、この発想はあまり支持できません。政府や中央銀行は貨幣をいくらでも刷って増やすことは可能ですが、一定以上のインフレ(日銀の金融緩和政策のインフレ目標は2%)になった時点で、国債の増発や新たな貨幣の発行を抑えないといけません。となってくるとその時点でベーシックインカムの支給額を減額したり、停止する必要が出てきます。
これまで日本は四半世紀近くもデフレ状態に陥っており、今もなお物価上昇がなかなか進まない状況にありますが、永久にデフレ状態が続くなんてありえないことでしょう。ベーシックインカムはインフレだろうがデフレだろうが一定の給付を続けないといけない制度です。となってくると通貨発行益はベーシックインカム財源にふさわしくないということがすぐにわかると思います。

これはひとつの案ですが、ベーシックインカムの財源は基本的に所得税や資産課税から賄うことを原則とし、景気悪化によるデフレが発生したときは通貨発行益でBI財源を賄うかたちにすることです。名付けてハイブリッド財源です。
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不景気で企業の業績が悪化し、賃金低下などで個人の所得も低下しますと、自然と所得税法人税の税収が下がります。逆にベーシックインカム給付額は増えることになるでしょう。この状態ですとベーシックインカム財源が不足します。そういうときは通貨発行益でベーシックインカムの財源を補填します。デフレのときに貨幣=負債を増やしてもインフレへの懸念は心配ありません。むしろマネーの量を増やすのが経済政策のセオリーです。

景気が回復すると賃金上昇や消費の活発化がみられるようになり、物価の再上昇がおきます。そうなってきたら通貨の発行を抑制し、再びBIの財源を所得税法人税に切り替えていきます。

この流れは発進時にモーターで加速をアシストし、中速域でエンジン駆動が加わり、巡行時と減速時は充電というハイブリッド車と同じ流れとなります。

あるいは駒澤大学井上智洋さんが提唱しているベーシックインカム案のように基本BIと変動BIの二本立てにする方法もあります。景気や物価に応じて変動させるBIに通貨発行益を活用させるという方法です。これなら大丈夫でしょう。

ミルトン・フリードマンが言うように「ただ飯はない(ノー・フリーランチ)」です。貨幣発行益は打ち出の小槌ではありません。おカネの量を増やしてもモノやサービスといった富や財が増えるわけではないのです。

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こちらでも政治等に関する記事を書いています。

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