新・暮らしの経済手帖 ~時評編~

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標準的なベーシックインカムの制度設計案

ベーシックインカム構想 」の第3回目ですが、今回はわりと標準的なベーシックインカムの制度設計案について解説していきましょう。給付付き税控除(負の所得税)を土台に構築されています。

まず給付付き税控除ですが、確定申告とかをするとわかるように、税制には控除がついています。その分課税負担を軽くしていますが、給付付き税控除の場合は著しく所得が低かったり、無所得の人に対しては税を引くだけではなく給付まで行ってしまいます。

例えば2019年度までの場合、所得税基礎控除は38万円となっており、それが今年の税制改正で10万円引き上げられて48万円となりますが、年間の所得が仮に20万円しかない人の場合ただ非課税になるだけです。しかし給付付き税控除の場合ですと、18万円が逆に現金給付されるという仕組みです。
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このような制度は既にアメリカやUK、フランス、カナダ、韓国などといった先進諸国で導入が進んでいます。

カナダ型の給付付き税控除については元参議院議員の金子洋一氏がレポートを書かれていたことがありましたし、現在日本維新の会でも足立康史議員などが国会で質問を行っています。馬淵澄夫氏も民主党議員時代に給付付き税控除を提言されていました

この給付付き税控除制度をさらに一歩進めると、ベーシックインカムへと展開することができます。
国民ひとりあたり月額1万円のベーシックインカムをやるとなると、
1億2千万人×1万円×12カ月=14兆4千億円です。
ちなみに日本の国家財政の歳入は2018年度で60兆円台に上がったぞという状況です。
となると月額4万円のベーシックインカムを実施したら、それだけで国家財政の歳入を全部使い果たすことになります。

これではさすがに「ベーシックインカムなんてできっこないじゃないか」となるので、一旦国民全員に所得税というかたちで徴税を行い、ベーシックインカムで現金の一律給付という形で還元をする形とします。

非常に単純化させたモデルで説明しますと国民全員に税率30%あたりの所得税を課します。これで所得格差の是正を計ります。それからひとり月額数万円(識者からは7万円という意見が多い)をベーシックインカムで税を払い戻すのです。
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上の図の説明は国民全員にBI一律給付を行ってから、所得税を課税するとしていますが、BI給付額と所得税徴収額を相殺してしまう点は一緒です。無所得の人はBI給付額をまるまる全額もらえる形ですが、所得が増えるにつれ、所得税徴収という形でBI給付額が漸減する仕組みです。下の図は元の所得の高さによって、BI給付と所得税を徴収した後の手取り収入がどう変化するかのイメージを捉えるために描いた図となります。BI給付や所得税徴収をしたとしても、就労して所得を増やしていけば手取り収入が着実に上がるように設定することが可能です。勤労意欲を削がれることを防げます。
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上の説明は全国民に一律税率のフラットタックスを課したという前提で組んだモデルですが、所得税制の累進性を高め、高所得者への課税強化や低所得者~中所得者への給付を手厚くすることもできます。
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さらに経済格差を縮小することができました。

次にベーシックインカムの導入を提案する経済学者が出した具体的な試算の例として2015年に中公文庫から出された原田泰教授の「ベーシックインカム~国家は貧困問題を解決できるか~」を見ていきましょう。

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原田泰教授
原田教授が想定するBIの水準は20歳以上の大人が月7万円(年84万円)、20歳未満の子どもが月3万円(年36万円)としており、これに必要な予算は年96.3兆円となります。財源に関しては、上の例と同じく所得に一律30%の所得税の課税を行うことで賄い、これで77.3兆円の税収を得ることになります。
さらにBIと重複している他の予算を相殺していきます。老齢基礎年金への16.6兆円、子ども手当(現在児童手当)への1.8兆円、雇用保険への1.5兆円はそのまま廃止できる上に、さらに生活保護費も廃止できるとしています。また不要な公共事業費や中小企業対策費、農林水産省の予算、地方交付税交付金の一部も廃止可能です。これで15.9兆円が削減でき、最初にあげた削減できる社会保障費の合計19.9兆円との合計で35.8兆円は現在の予算から削減できると考えると、BIは十分に成り立つというのが原田試算です。

ただこちらの印象論を述べると、原田泰教授の試算は基本的に支持しつつも、かなり割り切ったというか、細かい部分はバッサリと捨象しすぎており、いささかドライというか冷淡で素っ気なさを感じなくもありません。現在生活保護を受けていたり、病気や障碍を抱えている人から見たら、もう少しディティールを詰めてほしいと感ずる点もあるでしょう。これについては私も案を改善していく余地がかなり多くあると思っています。海老原嗣生氏が原田泰教授のBI案に対する批判記事を書いていますが、その記事についても後で取り上げるつもりです。(海老原氏の記事については一部を除き、こちらはあまり賛同できない)

もうひとつ飯田泰之さんのベーシックインカム(給付付き税控除)試案も紹介していきましょう。

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上の記事で飯田さんもやはり給付付き税控除の概要を説明します。飯田さんは年間所得0円の人は年額100万円を支給し、実収入が300万円くらいまで段階的に給付がある形にします。それ以上収入がある人は税を支払っていくことになります。
下の図は飯田さんが描かれた負の所得税の概要図です。斜め点線は給付も徴税もしないままの所得で、年収300万円以下の人は給付という所得の下駄をはかせてもらえます。ただし年収が上がるにつれ、給付額が漸減され、年収100万円だと給付額は66万円になります。それでも就労所得100万円+66万円で166万円に手取り所得が増えます。

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あとやはり原田泰教授と同じく、重複する社会保障給付とBIの相殺についても触れており、飯田さんは「老齢基礎年金は廃止して、ベーシック・インカム型に一本化します。これで15兆円浮きます。」と述べています。

原田・飯田両案共に既存社会保障制度の統廃合について触れておりますが、それでも公的医療保険については相殺対象にしていません。一部でBIを導入すると既存の社会保障制度は全廃になるなどというデマが流されていますが、そのようなことを言うベーシックインカム推進論者はいません。(いたとしてもそれはBIを潰すための悪意でわざとひどい案を出している)

ここでは所得税を主要財源にしたベーシックインカム案を紹介していますが、その理由はベーシックインカムそのものは経済格差を是正する機能がないからです。低所得者から億万長者というべき富裕層に至るまで一律給付となります。所得格差是正は累進所得課税を行わなければできません。
もうひとつは仮に井上智洋さんらが言うように、AI(人工知能)の発達などで技術的失業が増え、生産手段を持つ資本家に富が集中してしまうような状況になったとしても、所得税や固定資産税、キャピタルゲインなどで経済格差の是正ができます。これに上のようなベーシックインカムや給付付き税控除案と融合させることは難しくはないと私は判断しています。
なお消費税をベーシックインカム財源とする考えはまったく賛同できません。

それと一部のベーシックインカム導入案で通貨発行益を使えばいいといったものも出ていますが、これについてもひどいデフレ不況のときだけという限られた条件での話です。ベーシックインカムは何十年以上も継続させるための制度であり、デフレのときでもインフレのときでも制度が維持できなければなりません。

今回述べた既存社会保障制度とBIの兼ね合いや、財源問題は後程くわしく取り上げるつもりです。


こちらでも政治等に関する記事を書いています。

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