新・暮らしの経済手帖 ~時評編~

わたしたちの暮らしを大切にするための経済解説サイトを目指して開設しました。こちらは時評編で基礎知識編もあります。

何のためにベーシックインカム?~BIへの期待は多様~

国民の誰もが無条件で分け隔てなく、現金が支給されるというベーシックインカムという制度に期待を持つ人が徐々にですが増えつつあります。このアイデアは非常にシンプルかつ包括的なもので、右派左派問わず、その魅力に惹かれます。しかしながら慎重派や反対派も右派左派問わず多いことも確かです。このことは後で触れますが、今回は多様なベーシックインカムへの期待について話していきましょう。

まず私がこの制度構想を支持する理由を述べますと、個人の生活や日本の経済にとって確実性の回復が必要だからと考えていることが第一にきます。1990年代以降の日本は不確実性が高まった社会になっています。人々の所得や企業の業績、そして日本の経済そのものが不安定化し、先行きの不透明感が投資や雇用・消費の萎縮を招いていると常々思っているからです。流動性の罠という状態を招いた原因もそこにあるのではないかと考えています。
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ベーシックインカムが導入されたと仮定した場合、経済面で影響を与えるのは企業の投資ではなく一般家計の消費でしょう。国民ならどのような人でも一定の所得が継続的に保障されるために、不足の事態に対処するための貯蓄が最低限で済むようになり、消費に回すお金が増えることが期待できるからです。お金は投資や消費という形で遣われてこそ存在意味が出てくるのですが、貯蓄という形で死蔵されてしまうことは非常にもったいないことです。お金をフル稼働させることが経済活性化の肝となります。
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しかしながら私以外のベーシックインカム推進論者の人たちは別の期待を持っています。
左派的な人で再分配指向の強い人ですと、経済格差の是正や貧困の防止といった理由で支持していることでしょう。前回も少し述べましたが現行の生活保護のようにひどい困窮状態に陥ってもなかなか利用が認められないという漏給問題がベーシックインカムにはありません。

一方保守派の人や「小さな政府」志向で俗にいう(新)自由主義者と呼ばれるような論客もベーシックインカム支持を表明していたりします。新古典派の代表的経済学者の一人であるミルトン・フリードマンベーシックインカムに近い給付付き税控除の導入を提案していました。他にも堀江貴文氏や竹中平蔵氏、橋下徹氏といった人がベーシックインカムや給付付き税控除に賛成していたりします。(新)自由主義者といわれるような人がベーシックインカムのような制度に興味を持ち賛同する理由は、官僚などによる恣意や利権誘導の排除や、行財政のスリム化につながるという理由からです。ベーシックインカムは無条件給付で生活保護のように官の裁量が入る余地がありませんし、制度構造もシンプルなために行政コストが低くなります。つまりは支払った税の還元率が高まりますし、土木公共事業や特定業界や団体への補助金のように政・財・官が利権誘導のために公費を濫用するようなことをするよりははるかにマシなバラマキでしょということです。

あと少し前のことですが、駒澤大学井上智洋さんを代表にAI(人工知能)の発達とシンギュラリティ(技術特異点)によって、今より労働需要が大きく減少する可能性があるために、賃金というかたちでの所得分配に代わってベーシックインカムで生産された財の分配を行うことも考えていくべきだという主張も出ています。
さらに井上智洋さんの場合、民間企業の投資機会が減少することに伴い、民間銀行が信用に基づく融資によって貨幣を生み出す信用創造が縮小していく可能性があることや、逆に異常に過剰な信用創造でバブルが発生し、崩壊してしまうような事態を防ぐために、マネーの供給を完全に政府が管理していく形にしていくべきだという通貨改革(CI)も提唱されており、ベーシックインカムの給付というかたちで政府から市民に新しいマネーを供給するというアイデアを打ち出されています。この構想の検証については後日改めて行いますが、こちらではあくまで「そういう考えもある」という程度での紹介にとどめるつもりです。

ベーシックインカムの推進目的や理由は明らかに増税社会保障給付の削減を目論み、国民が好きなことにお金を遣う自由を奪うような偽BI(?)でない限り、人それぞれ違っていてもいいと思います。ベーシックインカムは所得や資産、能力等の有無に関わらず、さまざまな人々が広く恩恵を受ける可能性のある制度です。
ただしベーシックインカムの制度設計や財源確保の方法、導入過程については意見や主張が割れてくるでしょう。それに備え、こちらの態度をあらかじめ示しておきますと、先がどうなるかわからない何十年先の問題について論ずるよりも、今起きている貧困問題などの解決をどうすべきかという観点で、ベーシックインカムの導入議論を進めるべきだと考えています。現時点で困窮状態におかれている人たちにとって、実現できるかどうかわからないようなベーシックインカムよりも就職先の確保や生活保護の支給拡大の方が大事であり、死活問題です。支給額月額数万円程度のベーシックインカムや給付付き税控除であれば、今の時点でも実現は可能です。ひどい困窮状態におかれているにも関わらず、生活保護の認定から外れてしまっているような人たちへの現金給付はすぐにでも実行しないといけないものです。

井上智洋さんのようなAI/BI/CI構想はいずれ我々が向き合わざるえない問題かも知れませんが、AIやCIについてはゆっくり時間をかけて議論していけばいいことです。先にBIだけ実現させ、来るべきときが来たらAIやCIとBIを融合させていけばいいのです。
所得税制と組み合わせるかたちのベーシックインカムや給付付き税控除ならば、シンギュラリティといわれるような状態が到来したときでも、僅かな制度設計変更で対応が可能です。

こちらが進めるベーシックインカム構想は実績のある経済理論に則った形で進めていく方針です。

こちらでも政治等に関する記事を書いています。

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