新・暮らしの経済手帖 ~時評編~

わたしたちの暮らしを大切にするための経済解説サイトを目指して開設しました。こちらは時評編で基礎知識編もあります。

あまりに未熟なベーシックインカム導入議論

私はベーシックインカムの実現を望む者であり、その実現性について決して低くはないということを、経済学の知識に基づいて話してきました。自分が紹介してきたベーシックインカム案は原田泰日銀審議委員や飯田泰之明治大学准教授らが示したものを土台にしており、現在の国家財政の歳入・歳出や社会保障費など具体的な数字に基づいて算定されています。荒唐無稽なものではありません。あとは納税者や従来の社会保障制度利用者といった利害関係の調整だけをきちんとやればいいことです。

しかしながらベーシックインカムの導入を希望する人たちやそれを公約に採り入れようとした政党が、十分な経済学の知識を持たないまま、まだ実際に到来するかわからないAI(人工知能)やロボットなどによるシンギュラリティという夢想に酔いしれ、非常に現実離れした主張ばかりを繰り返すことで、多くの人々が実現性を疑い始めてしまうといった愚行を犯しています。さらに最近ですとMMT(現代貨幣理論)をかじって、もっと国家が負債を増やさないといけないのだという彼らの主張にのっかって、ベーシックインカム導入を訴えている人もいます。これまで私が何度か説明してきたようにMMTは理論的煮詰めが非常に浅く、悪性インフレやスタグフレーションの発生といったリスクに対する脆弱性や、国家社会主義官僚主義の跋扈につながりかねないなどといった問題を孕んでいます。アメリカでもほとんどの経済学者がMMTに批判的で、この理論が受け入れられることはまずないでしょう。MMTを引き合いに出してベーシックインカム導入を主張しても、やがてMMTサプライサイド経済学と同じようにブードゥー経済学という烙印を捺され葬り去られると同時に、ベーシックインカムもまた夢想論として扱われることになるでしょう。

前回や前回の記事で書いたように、自分もベーシックインカムや給付付き税控除制度の導入によって、人々に毎月決まった額の所得が入ってくるという安心感を与え、消費行動にいい影響を与えることが期待できると述べました。しかしながら多くの経済学者が説明する景気回復の道筋は、消費からではなく民間企業の投資から回復がはじまり、それが雇用増加や賃金上昇というかたちでの所得分配が進むことで、消費が伸びてくるというものです。私もそれを支持します。
しかしベーシックインカムで景気回復やデフレ脱却を計るべきだという主張はやや賛同しかねます。まずは金融緩和政策などによって企業活動の活発化を促して、経済全体を盛り上げ、それによって殖えた富や財をベーシックインカムなどで幅広くまんべんなく再分配していくという考えでないといけません。
ありとあらゆるモノやサービスの生産は企業が資金を借りて、人を雇い、設備を整え、原材料を仕入れるところからはじまります。お客から前金をもらって設備投資や人材雇用をはじめるのではありません。企業がモノやサービスを売って、お金を得るのは最後です。投資はスペンディングファーストなのです。

ベーシックインカムや給付付き税控除の導入を主張したいのであれば、まずは遠回りでも基礎的な経済学の知識を身に着け、エコノミストとしての信頼を人々から得ることが大事ではないでしょうか。多くの人々がベーシックインカムの導入で不安視するのは極端なインフレや国家財政悪化の懸念があるからです。過去の歴史上で起きた経済混乱の原因をきちんと把握し、人々に説明する能力が不可欠です。こちらはリフレーション政策や金融政策について得に真剣に学んできましたが、それは強い経済力としっかりとした国家財政基盤がベーシックインカム導入の前提だからです。2012年からはじまった異次元緩和政策の開始から企業は雇用拡大や設備投資の増強といった積極投資を行うようになりました。それに伴い所得税法人税などの税収が伸びて、国家財政の健全化も進んでいます。そういう意味でベーシックインカムや給付付き税控除の導入を進言しやすい環境となっています。

今は国民民主党になりましたが、現在東京都知事である小池百合子が2017年9月に希望の党を立ち上げ、そのときにベーシックインカムを公約に採り入れました。このことを知ったベーシックインカム賛成派が何人も、希望の党に飛びついてしまっているのを見ています。しかしながらこの政党は安倍総理衆議院解散総選挙を仕掛けてきたために慌てふためいた民進党議員らが、当時人気絶頂だった小池百合子を利用して目くらませ的に立ち上げたフェイク政党です。
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「政党ロンダリング」というべき姑息なやり方に多くの国民が気が付き、選挙で見事爆死しました。その後国民民主党に党名を変更したときに再びUKのユニバーサルクレジット制度を手本にしたベーシックインカム案を提示してきたことがありますが、今日に至るまでこの政党が真剣にベーシックインカム実現のために尽力してきたとは思えません。むしろこの政党によってベーシックインカムに対する誤解や不信がよりいっそう強まったと言って過言ではありません。

小池百合子に限らず、現在の玉木雄一郎党代表をはじめとする希望の党~国民民主党の所属議員の中で、安倍総理以上にしっかりとした経済政策観を持ち合わせている人間が見当たらないのです。当時代表だった小池百合子ベーシックインカムの説明をしたときにも安倍総理から散々突っ込みを入れられて返答に窮していました。
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BI以前にこの国の経済運営をボロボロに衰退させかねないような連中ばかりです。

希望の党や国民民主党に限らず、冒頭で述べた原田泰さんや飯田泰之さんといったプロの経済学者を除いて、多くのベーシックインカム提唱者たちの経済リテラシーの低さがひどく目立ちます。さらにベーシックインカム実現を望む人たちの性向からか、自分と意見が合うごく少数の仲間うちだけで固まって、閉鎖的なコミュニティに閉じこもってしまい、どんどん他流試合に臨むような人が少ないのです。ベーシックインカム実現には、多くの経済学者や政治家、評論家などと議論をたたかわせ、それに勝ち抜くだけのタフネスな交渉力が要求されます。実際に政策として実現しようとなると、既得権にしがみつく政治家や官僚らの妨害工作に耐えられるほどの強い政治力を持った議員でないとその法案を通過させられないでしょう。

それ以前にBIを実現してほしいという気持ちばかりで頭がいっぱいとなっており、上で述べたようにMMTのようなカルトというべき経済理論に飛びついてしまうような人がいるようでは、ベーシックインカムの実現はかなり難しいのではないでしょうか。

Faraway, So Close!

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