新・暮らしの経済手帖 ~時評編~

わたしたちの暮らしを大切にするための経済解説サイトを目指して開設しました。こちらは時評編で基礎知識編もあります。

現物支給型ベーシックインカムはありえない

ベーシックインカム構想 」編と言いつつも国家社会主義に対する批判の話を続けています。
国家社会主義的思考というものは民衆からお金とそれを稼ぐ力と好きなことに遣う裁量権を国家が略奪し、経済的自由を蔑ろにするものです。

私たちは日頃働いて稼いできたお金の一部を税というかたちで国や地方自治体に支払います。言うまでもないことですが、税を支払った額と同じ分のお金を好きなことに遣う自由を放棄したことになります。言葉悪くいえば国や地方自治体に自由を奪われたといってもいいでしょう。しかしながら支払った税が自分や自分以外の誰かが利用する公共サービスや社会保障給付などといったかたちで還元されるならば税を支払うことに納得できるでしょう。

小さな政府主義的思考や自由主義的思考でいえばなるべく国民が支払う税負担を軽くし、経済的自由を損ねないようにするということになりますが、防衛や警察などの治安維持、災害防止・復旧、道路や水道などの公共インフラといったものは国民全員がお金を出し合ってサービスや公共財を共同購入することになります。どのようなサービスや公共財を買うのかは国会議員や県議会議員・市議会議員などが議会で話し合って決めていきますが、そのお膳立ては官僚が行ったりします。それが民意に沿えばいいのですが、必ずしもそうなるとは限りません。

もっとも国民ひとりひとりにとって満足度が高い財政政策は減税か現金の直接給付でしょう。現物支給型の給付は政治家・官僚が定めた内容のもので官給品となります。昔日本が戦時中に行なった食糧品や物資の配給制度はすべてが官給品です。ソビエトをはじめとする社会主義国家も配給制でした。イメージ 5こうした官給品は画一的で人それぞれの好みや価値観にあったものではありません。自分の父親は軍隊経験がありますが、それぞれの足のサイズにあった軍靴を支給されず、上官から「靴に自分の足をあわせろ!」などと言われたものでした。


現金より現物支給型の財政政策の方が政治家・官僚の恣意や裁量が入り込みやすいという問題を抱えています。モノやサービスという形で支給するとなると、官がどこかの事業者に発注し、請け負わせる形になりますが、そうなるとそこで利益誘導(レントシーキング)が行われる可能性があります。税の配分が特定の業界や団体等に偏ってしまう恐れがあることに注意しないといけません。

そういう意味で国民個人への現金支給ではなく現物支給を強調する人が現れたら要注意です。利権がらみで発言しているかも知れないと思っておいていいでしょう。

2012年ごろに自民党片山さつき議員らを中心に扇動的な生活保護利用者叩きが起きました。
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この当時出てきた世論が生活保護の現金支給をやめて、フードクーポンや物品支給といった現物給付に切り替えるべきだという人がたくさん現れています。あと生活保護利用者を施設に収容すべきだという人もいました。私はそんなことをしたら生活保護費をピンはねするような人間が現れて、税金を喰いものにされてしまうと猛反対しております。


現実に元日雇い労働者をかき集めて、生活保護を申請させると共に、狭く劣悪な環境の建物の中に閉じ込めて、保護費を搾取する「囲い屋」という闇ビジネスが存在します。


 日刊SPA

 貧乏かわせみ様

現物支給主義や収容主義は生活保護利用者の意欲を奪い獲り、ますます社会復帰を難しくするのです。

生活保護だけではなく、本来現金直接給付であるはずのベーシックインカムを現物支給方式にねじ曲げようとする動きも現れました。民主党の後継政党である民進党と、さらにそれが分裂した片割れの希望の党とまたその名前を変えた国民民主党です。

まず民進党時代に古川元久議員らが「日本型ベーシックインカム」などというものを打ち出してきました。
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古川元久議員(現在国民民主党代表代行)

これは税制と社会保障給付を一体化させた給付付き税控除の考え方を土台にしたものですが、通常のベーシックインカムや給付付き税控除案のように現金を直接給付することを考えていないようです。かわりに政府が公的年金医療保険料の立て替えをし、低所得者層の社会保険料負担を減らすという内容です。もともと公的年金医療保険といった社会保険財源は政府の一般会計から独立した特別会計となっています。所得税などは一般会計ですが、そこのお金と特別会計社会保険財源をまたがるようなアクロバティックなお金の流れになりそうです。与党時代に歳入庁創設にも失敗した政党がこれを実現できるのでしょうか?それと同じく民主党政権時代に挫折した最低年金制度と実質変わらない内容のものです。

そもそも与党時代に歳入庁創設に挫折した政党にこれを実現できるのでしょうか?

さらに同時期に民進党が発表した経済政策案のプレス資料です。
これを読むと「子ども手当に代表されるお金を渡すという現金給付からサービスを提供するという現物給付へと転換した」などと書かれています。民主党政権時代の目玉公約として掲げていた子ども手当ですが、官僚らの激しい抵抗にあって挫折したことをここのサイトでも書きました。


この当時のことがかなりトラウマになっているのか、元民主党系政党や議員らは下野後、現金直接給付をあまり口にしなくなりました。ちなみに古川元久議員は元大蔵官僚で、彼が現在所属している国民民主党玉木雄一郎代表や大塚耕平代表代行と共に元大蔵・財務官僚や元日銀職員が多くを占めている「御公家集団」です。かなり官僚色が強い政党だと思っておくべきでしょう。
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玉木雄一郎・国民民主党代表と大塚耕平代表代行

民進党はさらに前原誠司代表は慶応大の財政学者・井手英策教授を政策ブレインとして招聘しますが、井手教授は「現物ベーシックインカム」などということを言い出しました。
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井手英策 慶應義塾大学財政学教授

~引用~
普遍的ニーズをみんなに配れば、結果的に格差は解消されます。当初の所得が200万円のAさんと2000万円のBさんがいるとしましょう。それぞれに20%課税すると、Aさんの手取りは160万円、Bさんは1600万円になりますが、税収となった440万円のうち、AさんとBさんに200万円ずつ「サービス」で給付すれば、Aさんの最終的な生活水準は360万円、Bさんは1800万円となります。格差は10倍から5倍に縮まり、税収の残り40万円は財政再建に充てられる。
大切なことは、貧しい人も納税者になり、富裕層も受益者になる中で、格差を小さくできるということです。」
~引用終~

彼の話を聞いて恐ろしいと感じたのは所得税だけを低所得者にまで20%も課しておき、給付は現金で還付するのではなく医療や福祉サービスで給付するといっていることです。さらには所得税収の一部を財政再建にあてがうつもりのようです。
先に所得増税だけ行って、給付側の医療・福祉サービスは政と官が給付を受けるための資格条件や給付水準を恣意的に変更し、削減することができます。つまりは今まで徴税対象でなかった低所得者からも所得税を取り立てた挙句に、医療や福祉のサービスレベル切り下げを食らわされかねないということです。おまけに増税分を財政再建というかたちで医療や福祉サービス以外の予算にも流用されてしまうのです。
現物ベーシックインカムは「やらずぼったくり」行財政になる恐れがものすごく大きいです。「高負担・低福祉」になりかねません。

それと民進党時代から提案され続けている現物支給主義のベーシックインカム案の問題は、現在無・低所得状態で貧困に喘いでいる人の救済につながらないことです。
現在家などの資産はおろか、所持金がほとんどなく、食糧品すら手に入れることができないほど深刻な貧困状態にあるにも関わらず、生活保護などの利用が受けられない人にとって、現物支給型ベーシックインカムはまったく無意味なものです。そういう人は一刻でも早くお金がほしいのです
民主党から民進党、そして国民民主党に至るまで「生活者」の主体として捉えているのは、正規雇用で安定した所得を得られている中所得者層のようです。しかも彼らが厚生政策で力点をおいているのは高齢者を対象としたもので、現役世代の低所得者に冷淡なものです。この政党の支持層が中高年齢層であり、大手企業の労組関係者であるということがそうさせているのかも知れません。

ベーシックインカム導入を望む人たちは実質上国民の厚生関連予算を縮小・削減を狙い、さらに増税も行うといった緊縮型ベーシックインカムが導入されてしまうのではないかと恐れています。それを企てるのは財務省がらみの御用学者や社会保障費抑制を唱える新自由主義者ではないかと言われていたのですが、こともあろうか労働者・生活弱者の味方を標榜する左派政党から緊縮型ベーシックインカムとなりかねないような案を出してきております。

この国には低所得者や社会的不遇者を救済する政党が実質皆無の状況です。

「お金の生み方と配り方を変えれば 暮らしが変わります」

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