新・暮らしの経済手帖 ~時評編~

わたしたちの暮らしを大切にするための経済解説サイトを目指して開設しました。こちらは時評編で基礎知識編もあります。

高橋是清と重なる安倍晋三元総理の経済政策とその運命

今日は9月19日で、今から168年前の嘉永7年に昭和恐慌などの金融危機に対処した金融政策・財政家の高橋是清が誕生しています。今回は高橋是清と今年7月に暗殺された安倍晋三元総理について比較して論じてみたいと考えます。

この二人は同じ9月生まれであることや、日本では珍しく金融政策を重視して停滞していた雇用や企業活動の回復を計った点、そして最期理不尽極まりない形でテロの犠牲になってしまったということが共通しています。筆者はやるせない気持ちでいっぱいです。高橋の政策は戦後歪んだ形で評価され誤解されてきましたが、安倍元総理が行ったアベノミクスも既にマスコミ等によって不当な評価がなされようとしています。このことは今後何年、何十年にも渡って日本正して国民の生活を貧しくし、産業の衰弱化を招く恐れがあります。それを正しておかねばなりません。

まず先に高橋是清の功績について振り返っておきたいと思います。高橋は何度も大蔵大臣を務め、日銀総裁、総理大臣にも就任しており、その優れた経済政策の手腕で何度も日本を襲った経済危機の修羅場を乗り切ってきました。日露戦争が起きたときイギリスに戦時国債を引き受けてもらうよう交渉したり、昭和金融恐慌のときに債務者の支払い猶予(モラトリアム)を実施するとともに、片面だけ印刷した紙幣を大量発行して銀行の店頭に積み上げて預金者を安堵させるといった方策をとったという話は有名です。

高橋最大の仕事で世界的にも高い評価を得たのが昭和恐慌のときに行った金融政策です。昭和恐慌が起きる前に立憲民政党濱口雄幸内閣と大蔵大臣だった井上準之助は世界的に進んでいた金本位制復帰の流れにのり、為替相場の安定を計るべく金輸出解禁を行います。これに備えるべく濱口内閣と井上財政は緊縮財政で正貨を蓄えていたのですが、金解禁の時期が世界恐慌の直後と最悪のタイミングで、日本から大量の金・正貨が流出。貨幣不足によって会社等に資金が行き届かず、ばたばたと倒産していきます。そして当然のことながら失業者が急増しましました。また円の為替レートがかなり高くなってしまい、ひどい輸出不振に陥ります。濱口内閣が倒れ、立憲政友会田中義一内閣が発足すると高橋は再び大蔵大臣に任命され、昭和恐慌の事態収拾にあたります。

高橋は金輸出を再度禁止して管理通貨制度に移行。高橋はさらに国債の日銀引受も実施して貨幣の発行と供給量を増やせる状態にします。これで企業の資金づまりの解消を行い、さらに財政政策も拡大が可能になりました。ただしここで誤解してはならないのは、高橋は積極財政主導で景気の回復を計ったというよりも、金融緩和政策で事態を収拾させるという考えでした。高橋自身も自分は財政よりも金融の専門家であるというような国会答弁をしています。当時起きた満州事変に対応する軍事費の増大や土木公共事業等を含んだ時局匡救事業などの財政拡大政策は高橋にとって補完的なものであり、恐慌の危機脱出後はそれらの縮小や財政規律を戻そうとしていました。ご存じのとおり高橋が2・26事件で軍部の反感を買ったのは軍事費の縮小に転じたことが要因のひとつとされています。

一方安倍元総理が行ったアベノミクスについても、日本の政治家にしては珍しく金融緩和政策を前面に打ち出したものでした。田中角栄をはじめとする越山会経世会は土木公共事業や農家への補助金を中心としたバラマキ財政で景気浮揚を計るといった政策を好み、それが自民党流経済政策となっていたのですが、安倍政権で画期的だったのは金融政策の意味をよく理解し、それを実行したところにあります。「アベノミクスは効果がなかった」とか「格差を拡大しただけだ」などという無根拠な批判が未だというよりか、安倍氏の死後より高まっているのですが、異次元金融緩和政策によって企業が積極的に事業活動のための投資を行うようになり、それが雇用の拡大につながっていったのです。筆者の近所のスーパーやドラッグストアでも、安倍政権発足以後に店内で従業員募集の放送が頻繁に流れるようになったことを憶えています。とくに一度雇ったら何年、何十年も雇い続けることを前提とした新卒学生の求人倍率が2014年以降からぐんと高まりました。アベノミクスによって生まれた雇用は500万人に上るといわれています。

高橋是清安倍晋三の二人は、失業を大きく減らし、人々の厚生福祉の向上に貢献した偉人であったと云えましょう。にも関わらず、二人はこのことを理解できない浅はかな者たちの愚かな凶行によって命を奪われたのです。さらに高橋の死後、放漫な馬場鍈一財政によってインフレが食い止められなくなりました。高橋が生きていたら、きちんと出口戦略(テーパリング)も行われていたことかと思われます。安倍元総理が殺害されてしまったことについても、当時と状況は異なりますが、来年以降に雇用の再悪化が進むなどして今後の日本経済に大きな歪を遺しかねません。いまの岸田政権の状況をみていたら、日銀の金融政策が無力化して、景気や雇用、物価の統治ができなくなってしまうという深刻な問題を発生させる恐れすらあります。このことは基礎知識編のブログでも改めて取り上げたいです。

安倍元総理が暗殺されたというニュースを聞いた直後に筆者が直感したのは「第二の2・26事件に匹敵する重大事だ」ということです。高橋が殺された2・26事件以後、テーパリングが中途半端になって日本は悪しきインフレに悩まされただけではなく、血盟団事件などが発生し、軍部の暴走と肥大化が突き進みます。2・26事件を起こした皇道派軍人たちは政治や財界の腐敗や昭和恐慌で荒んだ農村の状況をみて憂いの情を抱き、クーデターを決行したのでした。彼らなりの正義感があっての行動でしたが、その行為は昭和天皇の怒りを買っただけではなく、すべての日本国民をさらなる不幸に追いやることにつながったのです。

安倍元総理を殺害した山上徹也に対し「母親が(安倍氏とも関係があったと思い込んでいた)統一教会に入れ込んでおり、不幸な生い立ちだった」とか「減刑すべきだ」などと言い出している人間がいますが、筆者はとんでもないことだと思っています。山上が行ったことは不幸の再生産であり、今後何百万人もの人間が職を得られず、その中の数人が新たな「無敵の人」となる危険性があります。そして覇権主義と強権政治を突き進める中国共産党の暴走を食い止めてきた安倍氏が失われたことにより、台湾や日本が戦禍に巻き込まれるリスクが急激に高まりました。日本は「いつかきた道」を繰り返そうとしています。(狡猾な外交を続けてきた中国のことなので、日本から手をあげたという図式にしてしまうことも考えられます。)

いかなる理由があったとしても、殺人や破壊行為によって社会をよりよい方向に変えられるなどという幻想は捨てないといけません。彼らが高い正義感を持っていたといっても、それは極めて狭視野的なものでしかなく、理論や論理性が欠落したものであったならば無関係の人々をさらなる不幸に陥れます。その正義は経済政策を研究してきた者の観点から見たら自殺行為というべきものであるのです。

現在安倍氏の「国葬反対」の声が高まり、山上を英雄扱いするような者まで出てきている状況ですが、筆者はひどく背筋が寒くなる思いをしています。かつてある自主制作映画の宣伝文句で「ある者は望み、ある者は望まずに、悲劇の滑車を回しつづける」と述べていましたが、いまの日本はまさにそれです。自ら死への道を突っ走っているかのようです。

5ki_c2.pdf (mof.go.jp)

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統一教会騒動の影で忍び寄る紅い魔の手 ~現代版砕氷船理論~

安倍元総理暗殺後より、テレビや新聞などのマスコミはずっと安倍氏自民党清和会と関係があったとされる(旧)統一教会についての話題ばかりを報じています。正直言ってかなり筆者はうんざりさせられているのと同時に、この騒動に便乗する形で安倍政権に頭を抑えつけられてきた財務官僚や日銀官僚、金融機関関係者(とくに地方銀行)らの反撃や中国・北朝鮮・ロシアなどの軍事独裁国家による様々な日本無力化工作が進行しているように見えてなりません。この先数年以内に日本は経済活力をさらに弱めさせられ、さらに台湾の自国領土化を狙う中国による軍事侵攻に巻き込まれる危険性がかなり高まっています

本当はいま日本国民が最も優先的に取り組むべき課題は中国・北朝鮮・ロシアなどの軍事独裁国家による軍事的・経済的侵略行為をいかに防ぐかです。経済を含めた安全保障を第一優先して考えねばなりません。困ったことに現在の岸田宏池会政権は官僚色が極めて強く、外務大臣を務める林芳正氏など媚中派議員が閣僚の中心にいたりします。先日岸田政権は改造を行いましたが、財務大臣鈴木俊一氏、外務大臣は林氏のままにする一方で、防衛大臣岸信夫氏から浜田靖一氏に交代させました。防衛事務次官についても安倍氏に近く、GDP2%枠を超える防衛費増額の必要性を訴えていた島田和久氏を交代させています。新大臣の浜田は国債を財源とした防衛費増額に否定的であるとされ、財務省の意向に圧し切られてしまうでしょう。このような状況下で防衛に手を抜いたり、中国共産党とベッタリの林大臣を留任させてしまう岸田政権のセンスの悪さに閉口させられます。

あと岸田政権の経済政策ですが、さらなる積極的金融緩和政策の強化を唱えておられた片岡剛士さんに代わる日銀政策委員を「国債暴落」を出版した高田創氏と田村直樹氏に指名してしまっています。

アングル:日銀「非リフレ派」審議委員で力学に変化、総裁人事に影響も | ロイター

jp.reuters.com

(reuters.com)

民間への融資ではなく長期国債の運用に依存してきた地方銀行や債券ディーラーたちは安倍政権が進めてきた異次元金融緩和政策を非常に嫌っていました。これはその金利をかなり低く抑え込んでしまうからです。日銀が国債をどんどん買い占めてしまっていたために国債が品薄状態であることが続いていました。債券村や彼らと関係が深い財務省・日銀官僚の意向を重視してしまう岸田政権は、資金を借り入れて投資する民間企業や雇用を考えず、金融緩和政策を早く打ち切ろうとしています。来年4月に任期が終了する黒田東彦日銀総裁や若田部昌澄副総裁に代わって、日銀理論に染まった日銀官僚が総裁になってしまった場合、景気や雇用が急速に悪化し「岸田恐慌」を招く危険性があると筆者は警戒します。日本がここで再び慢性的不況を再発させると、日本の国際的経済競争力がいっそう低下し、我々国民生活はもちろんのこと、国防力の衰弱も進みます。

いまの岸田政権といい、それを擁護するようなマスコミとそれに煽られる視聴者・読者を見ていると、いずれこの国はウイグルチベットのように中国の特別自治区と化すのではないかと思えてなりません。それはまさに現代版砕氷船理論です。

筆者は安倍氏を殺害した山上徹也に対し、「戦後最凶の国賊」「売国奴」「亡国の奸」「万死に値する」と罵りました。

 

metamorphoseofcapitalism.hatenablog.com

 たった一人の男の凶行が、この国を軍事独裁国家から侵略される危険に晒したのです。再び何百万人も労働者の雇用が失われ、自暴自棄的な無差別殺人やテロを企てる「無敵の人」を何人も生み出す可能性があり、「令和血盟団」といったような極右テロ組織が突如現れて政治家やマスコミ関係者、官僚などを次々と殺害するといった事件が起きてしまってもおかしくないなと筆者は想像してしまいます。筆者は犯人の山上を「死刑に処するべき」だと主張していますが、その理由は殺人でテロによって世の中を変えるといった発想を断固として否定する意思を国家が示すべきだと考えているからです。民主主義制度の根幹を破壊してしまったのが山上です。山上がやったことは習近平プーチン既得権益にしがみつく官僚や金融機関関係者たちを大いに喜ばせることになりました。当初筆者は山上の背後に極左暴力集団が存在する可能性を想像していましたが、さすがにそれは勘繰りすぎだと現在は思っています。けれども現代版砕氷船理論というべき情報や思想面での侵略・破壊工作を企てる者たちや国民全体の生活福祉を無視し、自己の利益のことしか考えない既得権益者が山上を利用しはじめていることは確かです。

信者の生活を破壊したり、高額な多宝塔などを売りつけるなどの数々の悪徳商法を行ってきた(旧)統一教会の反社会性については筆者も高校時代より大きな反感を持ち、安倍氏の祖父である岸信介氏についても当時かなり悪い印象を持っておりました。マスコミは「この国を統一教会支配下に置く気か」と非難を続けていますが、筆者は統一教会よりもさらにおぞましく、巨大な怪物がこの日本や台湾などの国を呑み込もうとしていることに警戒すべきだと述べておきたいです。

軍事独裁国家による侵略工作は武力攻撃だけではありません。議員や官僚、マスコミ、学者、評論家、ネット利用者たちを利用した情報誘導・煽動工作も含まれます。こうしたハイブリッド戦争が水面下で繰り広げられていることを知っておくべきです。

 

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ひとりの人間の凶行が引き金となりかねない「悪夢の3年間」「亡国の8年間」

安倍晋三元総理が銃撃を受け殺害されるという痛ましい事件から三日経ちました。事件当日の晩に安倍さんが遺した外交・安全保障戦略や経済政策の政治的資産を賞すると共に、安倍氏の死によってこの国の安全や経済・雇用が非常に不安定なものになる危険性について述べました。さらに今回述べますが、自民党内の派閥抗争激化や党分裂、あるいは1990年代に見られたように政党が合流したり分裂、解党を繰り返す政情不安定化と議会政治不信の発生も危惧されます。

metamorphoseofcapitalism.hatenablog.com

ですのでこの事件は戦前に起きた2・26事件に匹敵するものです。日本という国の根幹をひっくり返してしまうほど深刻かつ大きな影響を及ぼす事件でしょう。筆者が犯人の山上徹也を「売国奴」「国賊」「亡国の奸」として罵っているのはそのためです。山上の母親はカルト教団として悪名高い統一教会の信者であり、多額の寄付で家庭崩壊していたと報じられていますが、筆者はそうした生い立ちは一切無視するつもりでいますし、憐憫をかけるべきではないと考えます。自分が不幸だったからといって他の大勢の国民を危機に晒し、それ以上の不幸に引きずりこむことが許されるわけはありません安倍氏(と祖父の岸信介氏)が統一教会に関わっているという話は筆者も高校時代から承知していることではありますが、山上徹也が起こした凶行は彼が負ってきた何十倍、何百倍もの苦しみを数多くの罪なき国民に被せることになりかねません。この国は今後多くの人々が所得を失ったり、さらには中国やロシア・北朝鮮などの軍事独裁国家による侵攻で生命や財産を破壊される危険に晒されていますが、山上はそれに加担するも同然の行いをしました。このことを今回話していきたいと思います。項目をつけながら今後起きうることを列挙しました。

 

1 経済秩序の混乱と国民生活の窮乏化

前回の記事でも紹介しましたように安倍氏は総理就任中にインフレターゲットつきの異次元金融緩和の導入で企業の積極的な事業のための投資を促し、それが人への投資というべき雇用の拡大を進めております。2020年あたりで消費税率10%増税とその直後の新型コロナウィルス感染拡大という大きなネックがあったものの、そのダメージを最低限に食い止めてはいます。

 

しかしながら岸田文雄政権になってから、金融緩和政策や積極的財政政策を嫌ってきた財務省や日銀官僚たちの顔色を伺うような政策態度をとるようになってきています。金融政策を担う日銀の政策委員人事でも債券ムラといわれる金融機関関係者やその御用エコノミトといわれるような人物を岸田政権は指名しており、安倍時代の金融政策を否定するような姿勢をみせていました。安倍氏殺害事件まで急速な円安とエネルギー・食糧品価格の高騰が続いていましたが、これに乗じて金融緩和をやめさそうという動きが活発化しています。安倍氏の死去によって金融緩和を打ち止めさせようという動きが今後ますます強まるでしょう。市場関係者は安倍氏襲撃の一報が入ると即座に円買いに動きだし、円安から円高に振れていきます。

 

金融緩和の解除=金利引き上げの予想が出てくると、多くの民間企業は投資の抑制と事業の縮小に動き出します。最近「物価が上がった」と言われますが、消費者の購買欲が高まってのことではなく、原油天然ガス、食料品等などの品目の価格上昇であり、生産者の利幅は厚くなっていません。利幅がないと従業員への賃金分配を手厚くできないでしょう。そういう状況を何も考えず「物価が上がったんだから金利を上げるのは当然ダー」と政策金利を上げてしまうと、生産者には原材料などの仕入れ価格上昇だけではなく金利負担まで圧し掛かってきます。ひどい場合は資金繰り悪化で倒産・廃業に追い込まれる中小企業が出てくるかも知れません。多くの生産者は相当の利益が得られると期待される事業しか投資できなくなり、事業規模の縮小を計らないといけなくなります。それは当然、雇用縮小や賃下げ圧力につながります。金融緩和をやめて円高に戻しても資源価格が下がるわけではありません。となってくると石油関連製品や電気・ガス代がたいして下がらないのに、賃金だけが下がるスタグフレーションとなってしまうのではないでしょうか。生前中安倍さんも同様のことを注意されていました。

 

今日の参議院選挙で自民・公明が大きく議席をとれば自民党にとって「黄金の3年間」となるといわれていますが、それに岸田政権が胡坐をかいて増税や歳出削減を推し進め、さらに金融緩和の解除をはじめることで雇用の悪化と国民生活負担の増加していくといったことになれば、国民にとって「悪夢の3年間」となります。

 

2 政界の混迷と議会制民主主義政治の不信増加の懸念

岸田政権の経済政策失敗が国民生活をいっそう苦しくさせてしまう可能性を述べましたが、それと同時に自民党内の派閥抗争激化と党分裂が起きる可能性も指摘しておきましょう。安倍氏自民党最大派閥の清和会会長を務めており、積極財政でコロナ禍で苦しむ事業者への支援や消費税などの一時減税(軽減税率も利用)の他に、金融緩和政策継続の必要性や、露骨な覇権主義を剥き出しにする中国・ロシア・北朝鮮などの軍事独裁国家による武力侵攻に備え、台湾・アメリカなどと核シェアリングする考えや防衛費の引き上げなどを進言されていました。安倍氏に近いとされる高市早苗政調会長も積極財政や防衛強化を主張されていますが、安倍氏の死により、そうした声が低くなってしまうことでしょう。清和会がバラバラに分裂する可能性があります。金融緩和解除で金利を引き上げて民間の生産活動を抑圧してしまったり、税負担の増加による家計圧迫が岸田政権下で進行していくことになるのではないでしょうか。

 

となってくると国民の自民党政治への不満や不信がじわじわと高まっていきます。しかし今回の参議院選挙で自民・公明が安定多数の議席を獲得すると、景気や雇用が深刻に悪化したり、国防上の不安が高まってきても、簡単に選挙という方法で政治家の政策行動を改めさせることがしばらくできないでしょう。「悪夢の民主党政権」といわれた3年間と同じように相当国民を苛立たせることになりそうです。暴力による政治への圧力をかけたいという誘惑を生み出します。国民の不満が高まっていくのをみて自民党内外で政局を仕掛ける勢力も出てくるでしょう。複雑極まりない派閥抗争の激化と岸田下ろしの勃発に収まらず、自民党議員の一部が党を割って抜け出し、維新の会や国民民主党、あるいは立憲民主党と合流するといったアクロバティックな状況となり、有権者がついていけなくなるかも知れません。マスコミは国民不在の理念なき権力闘争といった調子で記事を書くことだと思います。そうなると国民の政治家不信が決定的なものになっていきます。1990年代に党が分裂したりくっついたりと”野合政治”といわれる状況がありましたが、それとよく似た状況です。自民党宏池会系の議員が政権の座につくと下野するというジンクスがありますが、今回の岸田政権もそうなるのでしょうか。

 

第2次安倍政権前のように総理大臣が短い間に何度も交代したり、あるいは政党が割れたり、くっついたりの繰り返しをしたり、民主党政権のように政権運営にまったく慣れていない政党が内政・外交をグチャグチャにしてしまうようなことをすれば、中国やロシア、北朝鮮に蹂躙される隙を与えてしまうことでしょう。

 

3 外交・防衛の混乱

現在の岸田政権は宏池会主体の政権で、穏健ハト派外交だと云われていますが、清和会に比べ中国・韓国寄りの姿勢です。外務大臣林芳正議員は大臣就任直前まで日中友好議員連合の会長に就いていました。

アメリカだけではなく他の西側諸国も中国政府の覇権主義的な態度に対し警戒心を持つようになってきています。アメリカのバイデン大統領たちも媚中的な態度が目立つ岸田総理や林外相に疑いの目を持っていても不思議ではありません。

安倍さんは地球儀外交アメリカ政府をはじめ、各国の首脳から厚い信望を得ると共に、トランプ前アメリカ大統領と組んで中国共産党政府の軍拡の動きを牽制していく策を打ってきました。総理退任後も外交・防衛・経済政策に対し有益な進言を続けてきました。安倍さんの死によって金融引き締め・緊縮財政や空気が読めない岸田政権の外交姿勢に釘をさせる人がいなくなってしまったのです。安倍さんいなくなった後の清和会は恐らくバラバラになり、党内での発言力が大きく低下していくことになるでしょうが、このパワーバランスの崩れが自民党内の派閥抗争を激化させ、筋が通った外交や防衛戦略を党が打ち出せなくなる恐れがあります。党内のガバナンスが緩んだ自民党政権はみるみると弱体化し、政情不安定化の間隙を中国やロシアなどに突かれてしまう危険性を孕むことになります。

 

前回も記事の最後にリンクを添付させていただきましたが、経済学者の浜田宏一さんは「500万人もの雇用を生み出した安倍氏は日本の救世主だといえる。ただ、日本経済を十分に効率的にするところまで行かなかったのは残念だ。」と仰っていました。

参考

「今でいう新しい資本主義を狙っていた」 経済ブレーンの浜田氏、安倍氏悼む - 産経ニュース (sankei.com)

 

逆をいえば安倍さんの死によって、今後数百万人もの人々の将来が失われてしまうかも知れません。誤った経済政策によって数多くの日本国民が困窮するようなことになれば、最悪血盟団事件のようなテロを誘発したり、とんでもない極右・極左政党が登場して議会制民主主義を崩壊させるようなことも想像されるでしょう。日本の政情不安定化と他国からの武力侵略によって現在のウクライナのように圧倒的多数の日本人が血を流さねばならぬ状況になることもありうるのです。

 

筆者はツイッター上で山上容疑者について「万死の値する」「殺処分すべきである」と断じました。これについて「過剰反応はよくない」だの「統一教会に加担しなければ安倍さんは殺されなかった」などといったレスがつきました。彼らは今後この事件が想像を超えるような災厄に日本国民全体を巻き込む可能性があることに気が付いていないのです。筆者は山上徹也は安倍晋三氏というひとりの人を殺しただけではなく、日本を殺した男として後世までその悪名を残すのではないかと想像しています。

 

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「ミスター総理」安倍晋三さんの死去で失うもの

本当は別のことを書くつもりでしたが、今日2022年7月8日、安倍晋三元総理が奈良市内で参議院選挙候補者の応援演説中に山上徹也という男が銃で氏に向かって発砲し、病院に搬送されたものの死亡するという事件が発生しました。あまりのショックと悲しみ、犯人山上に対する激しい怒りと愚別、そして安倍さんの死によって大きく揺らぐであろうこの国民生活の安全や経済・雇用に対する危機意識で頭の整理ができない状況です。ここでは経済知識のことを中心に取り上げ、政治的な話や時評は時評編ブログで書くようにしていますが、今回この場で安倍さんの追悼をさせて頂きます。

安倍さんは2012年末に四半世紀近くにも及び慢性的デフレ不況体質に陥っていた日本の経済と雇用を立て直すために、異次元といわれるインフレターゲットつきの量的・質的金融緩和政策の導入や積極財政、規制改革の3つを軸とした経済再生プランを公約に掲げ、衆議院選挙に挑みました。その選挙に圧勝し第2次安倍政権を発足させアベノミクスを始動させます。

 

筆者は東日本大震災直後の2011年あたりより、俗にいうリフレ派といわれる論客の論考に興味を持つようになり、金融政策の重要性に気づくようになります。その後2012年に安倍自民総裁(当時)が大胆な金融緩和政策を導入するといってくれたことに大きな期待と喜びを感じたものです。筆者が「暮らしの経済手帖」を開設したのは2017年のことでしたが、大きく誤解されていた金融政策についてブログ上で丁寧に解説していきたいと思い、記事を何本も書きました。それらの記事は「リフレーション政策(異次元金融緩和政策)|新・暮らしの経済手帖 ~経済基礎知識編~ (ameblo.jp)」でまとめてあります。

 

日本の新聞・テレビなどのマスメディアや左派系の野党は金融緩和緩和政策について「輪転機をグルグルまわしてお札を刷りまくり、ばら撒く政策だ」とか「突然ハイパーインフレを起こす」「株式投資をする富裕層だけを肥え太らせるだけだ」「トリクルダウン理論だ」などというトンチンカンな批判ばかりを繰り返していましたが、金融緩和政策で大事なのは民間企業が資金繰りを心配することなく、積極的に事業を行って雇用や設備投資などを拡大させることです。安倍さんは雇用の拡大を第一に考えて異次元金融緩和をはじめたのです。その結果として企業投資がぐんぐん伸びて、2018年には人手不足状態が叫ばれるようになったのです。残念ながら一般家計の消費の方がなかなか積極的にならず、インフレターゲット2%にはなかなか到達しませんでしたが、2014年あたりから新卒求人倍率が伸び、近所のスーパーに行っても従業員募集の案内放送が頻繁に流れるほどの状況になります。企業の事業意欲活性化と雇用改善は安倍政権が遺した大きな政治的功績といえましょう。

 

あと経済政策ではないのですが、安倍総理は在任中に自国が主導するかたちで日・米・豪・印の戦略協定(クワッド)構想をまとめていくなど、従来の日本の政治家にはなかった世界レベルで通用する外交センスを魅せつけていました。アメリカのトランプ(元)大統領とも巧くタッグを組み、覇権主義を露骨にみせる中国共産党を牽制します。安倍さんは極右だと揶揄されてきましたが、実際には自国日本だけではなく世界全体の平和と安全保障に大きく貢献した政権だったといえましょう。筆者は日本国民に対して非常に誠実な政治家であったと安倍さんを評価しており、「憲政史上最も偉大な総理」という言葉を捧げたいと思っております。

 

2020年9月に安倍総理が病気療養のために辞任をされ、菅義偉政権がその跡を引き継ぎました。この内閣はしっかりと安倍政権の経済政策や安全保障戦略を忠実に継承していたのですが、岸田文雄現政権になってから財務省や日銀官僚の顔色を伺うような態度ばかりとるようになり、安倍・菅政権の政治的資産を食い潰したり、否定するような動きをみせています。

 

安倍さんは生前、コロナ禍から民間の経済活動が十分回復していない状況をみて金融緩和の継続や積極財政の必要性を進言されてきました。

日銀金融緩和の継続を 自民・安倍氏:時事ドットコム (jiji.com)

外交・国防についてもロシアによるウクライナ侵略や中国・北朝鮮による軍事侵攻の危険性が増加する中で防衛強化についても訴えかけています。

安倍元首相、防衛予算のための国債発行の必要性に言及 - 産経ニュース (sankei.com)

安倍さんの死でただでさえ懸念されていた金融緩和解除の動きや財務省による防衛予算削減の動きが加速していくことにならないでしょうか。あと自民党内で金融政策について理解しようとしたり、積極的財政政策を進めるべきだと主張する議員さんがじわじわ増えてきましたが、筆者は安倍さんという重石がなくなり彼らが変節して過剰な財政規律偏重主義者や金融引き締め一辺倒の日銀理論に戻ってしまうことを警戒しているところです。

 

安倍さんがいなくなったことで、再び日本の景気や雇用が低迷し、ますます国力を衰弱させ、やがては外交力や防衛力も綻んで、中国共産党やロシアに蹂躙されるようなことになることを危惧しています。そのようなことになった場合、安倍さんを殺害した山上徹也は売国奴国賊として末代まで罵られることになるかと思います。

 

参考

「今でいう新しい資本主義を狙っていた」 経済ブレーンの浜田氏、安倍氏悼む - 産経ニュース (sankei.com)

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「暮らしの経済手帖」5周年 経済と平和について

7月に入りました。今日7月1日は5年前にこのブログの前身である「暮らしの経済手帖」を開設した日であります。なおこのブログのプロモーショナルキャラクターとして制作した友坂えるも今日が誕生日です。



5年前に「暮らしの経済手帖」を開設したあとに「~ブログ開設記念~ 経済と暮らし そして平和について」という記事を書きました。また当時のブログタイトルの副題として「O Espírito Da Paz (平和の心)」とつけていました。健全な経済の発展が人々の暮らしを潤わせ、そのことが人々の心の荒廃を防ぎ、結果として戦争や暴力、略奪の縮小につながっていくのであるという話を書いております。なお友坂えるの名前は「ともに栄える」という意味合いでつけたものです。

 

それから5年目の今日世界で起きていることは、ロシアや中国といった軍事独裁国家による自由主義・資本主義経済システムの破壊と挑戦であります。2020年初頭には中国・武漢より発生した新型コロナウィルスの全世界的な感染爆発によってモノやサービスの生産と供給そして消費が混乱・停滞します。このことは現在世界的にみられる過剰な高インフレ発生の元凶にもなっています。そこへまたロシアのプーチン大統領ウクライナ侵略戦争を仕掛け、これによって原油天然ガス穀物をはじめとする食糧生産・供給が滞っております。プーチンはエネルギー資源や食糧不足を人質にとって全世界に対し恫喝しているかに見えます。

 

筆者は本田悦朗さんが2020年4月にされたツイートが忘れられません。新型コロナ禍やウクライナ侵略戦争はどちらも旧社会主義国家が引き起こした災厄です。これは人類にとっての癌細胞というべきものではないでしょうか。軍事独裁政権や社会主義国家は世界的な平和秩序と経済システムを破壊させ、共栄・共生どころか共貧・共死を招きかねないものです。

 

経済活動の活性化や合理性を追求していった場合、戦争というものは極めて邪魔なものです。自分自身で事業を興して商売されておられる方ならば顧客をはじめ、不要な争いごとを起こさない方がいいということに無意識的に気づかれているかも知れません。「金持ち喧嘩せず」という諺があるぐらいです。いや一般の勤め人であっても、四六時中顧客や上司、同僚と喧嘩ばかりしているような人は会社に居づらくなるでしょう。ビジネスの世界では腹の底で苛立ちや怒りがあったとしても、ポーカーフェイスでそれを表に見せず、紳士的に振る舞う方が得策だったりするわけです。

国家でも自国の経済活動・商業活動活発化によって国富を殖やすという姿勢であったならば戦争で他国を侵略して、その富を奪うようなことをしなくても済みます。むしろ戦争を引き起こすことで、生産設備を破壊されたり、人や資源を食い潰してしまうことは愚の骨頂であります。自由主義国家・民主主義国家・資本主義経済は戦争がない方が上手く機能します。あと商業活動にとって先がどうなるのかまったく予測不能な不確実性が高い状況もさまざまな不効率を生みます。

ところが軍事独裁政権や社会主義国家の場合はそうでなかったりします。民主主義国家の場合、あちこちに戦争を仕掛けて経済活動を麻痺させ、民衆の生活を疲弊させてしまったら、その国の為政者や政党は政権を奪われてしまうことでしょう。しかし軍事独裁国家や社会主義国家の場合はそうでないです。民衆が困窮しても独裁者とその取り巻きは肥え太ったままであったりします。逆をいえば社会主義国家は経済運営が上手くいかず、自国でまともにモノやサービスを生産できないからこそ、他国を侵略して資源や物品を略奪するようなことをやるとも言えます。軍事力で他国を威嚇したり侵略することで国威を高める覇権主義に陥りやすいのが軍事独裁国家・社会主義国家です。これまで歴史上において社会主義国家・社会主義者が行ってきたことは「奪う・壊す・殺す」の3つだけでした。

 

もし仮に今回のウクライナ戦争でロシアがウクライナ侵略に成功した場合、中国や北朝鮮核兵器をはじめとする武力による威圧や恫喝行為を周辺国に繰り広げることになりかねません。そればかりではなくこれらの国は図に乗って自由主義国家・民主主義国家・資本主義経済で支えられている国際秩序や経済秩序を破壊していくことでしょう。これを防ぐためにアメリカや欧州、そして日本はウクライナを支援し、ロシアの覇権主義を食い止めなければなりません。自由を護るための闘いです。

 

私たちはかけがえのない自由主義と民主主義を護るために、多大な負担と非効率を受け入れていかねばならないかも知れません。防衛費の増大だけではなく、軍事独裁国家・社会主義国家に依存しないエネルギーや食糧資源の供給網や生産活動です。既に中国は「世界の工場」といわれるぐらい工業製品の生産活動において無視できない存在になってしまいましたが、今後はこの国を供給網から外していかないといけないでしょう。それは静かに時間をかけて行っていくしかないのですが、この間世界中の民間企業は長年中国に対して行ってきた投資を捨ててでも事業撤退をするなどの痛みが伴います。この痛みは多くの一般消費者も物価上昇などといった形で受けることになるでしょうが不可避なものです。

 

食料品やエネルギー価格高騰による負担は人々に大きな不満を与えることになるでしょう。問題はその不満をプーチン中国共産党に向けるのではなく、自国の為政者や中央銀行に向けてしまうことです。エネルギー価格や食糧品価格が高騰する原因は経済制裁をかけているロシア産原油天然ガスが輸入できなくなったことや、ロシアから攻撃を受けているウクライナが小麦などの穀物供給において世界的に大きなシェアを占めていたことにあります。とくにEU圏は天然ガスをロシアからの供給に依存していました。またアメリカにおいても激しいガソリン価格の高騰がバイデン現政権の支持を危うくしています。日本においても同時に進んでいる円安と混同させるかたちで、マスコミが石油関連製品や食料品の値上がりに対する消費者の不満を煽り、日銀の金融緩和政策をやめさそうとしています。それと同時にウクライナ側に対し「ロシアの戦力には敵わないのだから、これ以上無駄な血を流さないように、早く降伏して停戦すべきだ」といった発言をする人や政党が出てきました。左派系だけではなく自ら自由主義リバタリアン)を自称する者の一部までもが、そこに含まれていたので呆れかえります。自ら自由主義者を名乗るのであれば、独裁軍事国家や社会主義国家に対し毅然とした態度を示すべきですし、理不尽な侵略行為と自由主義と民主主義の破壊を行う国家は破滅させられるという教訓を与えるべきです。

 

自由主義や資本主義経済システムは完璧なものではなく、戦争や暴力をゼロにすることはできないでしょう。しかし筆者はその最小化を計り、人々の幸福と暮らしのゆたかさを最大化させるのはこのふたつと民主主義であると信じます。この信念のもと、今後も「新・暮らしの経済手帖」を通じ、人々の安全かつゆたかな暮らしのための経済評論を続けていく所存です。

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マスコミはほんとうに国民の立場で経済政策を語っているのか?

コロナ感染拡大による生産活動の停滞とロックダウンなどで抑えつけられていた需要の反動増によって原油や食糧、半導体などの価格が高騰し、さらにロシアのプーチン大統領ウクライナに対して仕掛けた侵略戦争によって、さらにそれらの供給不足が深刻化しています。また今年3月あたりから円安の動きが急速に進んでいます。このことが円換算した輸入品の価格をさらに高騰させていると人々に思わせ、現在マスコミなどが日銀が進めてきた金融緩和を解除して金利を引き上げ、円安是正を計るべきだと言い出しています。

しかしながら筆者はこうしたマスコミの論調に異議を唱え、金利引き上げを行って円高にしても石油製品や食料品などの価格はさほど下がらないどころか、雇用の悪化を招いてますます国民生活を苦しくしてしまう危険性があると警鐘しました。リンクは今年1月に書いた記事です。

金融緩和打ち止め誘導の「悪い円安」論 | 新・暮らしの経済手帖 ~経済基礎知識編~ (ameblo.jp)

今年に入ってから自分のツイッター上などを通して何度も上の記事で書いたような注意を促してきましたが、その主旨を簡単にまとめておきます。

  • 金融政策(金利操作)は、基本的に民間企業の事業投資意欲を活発化させたり、抑制させるもので、それによって雇用という形での所得分配、消費意欲、最後に物価というかたちで政策効果を波及させる。
  • 戦争やコロナ禍によるロックダウンなど海外の事情や天候に左右されるエネルギーや食糧などの資源価格は自国の金融政策で統治することはできない。そのためにその品目を除外した消費者物価指数コアコアCPIの方をみて金融政策の判断をすべきである。
  • 仮に日銀が金融引き締めをして円高に誘導しても、石油製品や食料品などの価格抑制効果はさほど大きくない。
  • 金融政策の判断は物価だけではなく雇用状況や企業の投資態度(生産活動にお金を遣う意欲)を見なければならない。
  • 為替相場の操縦を金融政策の目的にするのは禁じ手である。
  • 家計負担の軽減については特別減税や給付金、補助金等で対処した方がいい。

というものです。

多くの人たちは物価安を求めることが国民目線とか、庶民感覚だという捉えていますし、マスコミや政党・政治家たちもそれをスローガンにしたりします。筆者自身も自分の食事の材料を自分でスーパーやドラッグストアに行って買い出しに行きますが、やはり小麦製品や食用油などの価格上昇がキツいと感じているところです。

しかしながら国民の多くは消費者であると同時に生産者・勤労者でもあります。このブログは「暮らしの経済手帖」と名付けていますが、その「暮らし」は消費者としての「暮らし」だけではなく生産者や勤労者としての「暮らし」も含まれます。懸命に自分が働いてつくったものが、ひどく安く買い叩かれたり、賃金が下落したり、職そのものを失ってしまうようなことがあったら、ものの値段が下がってもそれを買うことができません。価格上昇は消費者目線でみたとき大きな不満となるのですが、それが下がったとしても所得がそれ以上に下がったら生活は苦しくなります。経済は消費者目線と生産者目線の両方を見ないといけません

今月6月6日に日銀の黒田東彦総裁が講演中に行った発言の中で「日本の計の値上げ許容度も高まってきている」という部分だけがマスコミに切り取られ、「誰も商品の値上げなんか受け入れていない」という反発の声が出ました。本来黒田総裁の発言の意味はコロナ禍でお金を遣いたくてもできなかったためにできた「強制貯蓄」があったために、何とか多くの家計は商品の値上げがあってもどうにかやりくりできたかも知れないが、今後良好なマクロ経済環境を維持して本格的な賃上げにつないでいかないといけないというものでした。しかし「日本の計の値上げ許容度も高まってきている」の部分だけが独り歩きし、報道をみた人たちが「黒田総裁は庶民感覚がない」などといって騒ぎ立てているわけです。

黒田総裁の話だけに限らず、岸田総理についてもネット上で「岸田やめろ」のハッシュタグが流れてきたり、これまで高支持率だった岸田政権の支持率が下がったと報じられています。筆者は岸田政権の経済政策や外交政策についての評価は低いのですが、マスコミの論調は円安や商品価格上昇を野放しにしているから岸田政権はダメだというもので、その背後にあるのは金融引き締めの催促です。筆者はこうした論調に賛同できません。今回の場合は金融引き締めが商品価格引き下げにさほど貢献しないばかりか、後の雇用縮小や金利上昇による中小企業などの資金調達コスト上昇という弊害をもたらすだけではないかと予想しているからです。円安で製造業などが輸入原材料や原油などの資源高でコストが上昇し、経営を圧迫しているといわれていますが、金融緩和解除で金利引き上げをやると資金の借り入れコストの方が上昇してしまい、結果として企業の経営を圧迫します。そのことは雇用にも影響してくるでしょう。そうした視野がマスコミにないのです。アメリカの場合は景気が過熱気味で、雇用の方も人手不足がかなり逼迫しています。そのために金利の引き上げで企業の事業投資を抑制するということには一理あります。日本についてはそこまで景気が過熱しているとはいえないでしょう。うっかり金利を引き上げると景気だけを悪化させ、ものの価格だけは下がらないというスタグフレーションを招く恐れがあります。円高にしても原油や食糧の資源価格そのものが高騰してしまっており、その分の価格抑制はできません。ウクライナ戦争終結までその期待はもてないでしょう。

商品価格上昇の対策については商品価格自体を下げることは無理だと思わねばなりません。戦争などの影響で生産供給が滞っている商品についての入手難は為替相場を弄ろうが解消されないのです。対処療法的ですが、資源高や円安で経営が苦しくなっている事業者への補助や減税・給付金などを通じた家計支援でやり過ごすしかありません。輸出を行っている大手企業などを中心に円安で業績が大きく伸びている事業者が多くあります。そうした事業者から所得税法人税を多く徴収できるはずです。それによって得た税収を逆に円安で損をしている事業者や個人の家計に補助金や減税、給付金などで補填するという方法があります。そういった提言ができないのが今のマスコミです。

「物価が低い方が庶民は助かるはずだ」とか「円安より円高の方が海外のものを安く買えていい」という発想は買い手の立場だけのものです。多くの勤労世帯は商品や労働力の売り手でもあります。基本的に「買い手」の立場だけでいられる人たちとは、働かなくても生活に困らない資産家、景気に影響されない公務員、年金生活者たちのことです。マスコミは就労や生産活動に参加していない人たちの都合しかみていません。

ものの値段を下げることだけではなく、自分たちの稼ぎをいかに殖やすのかという発想が必要です。よく円安について「日本の経済力が弱くなったために起きたのだ」と勘違いしている人たちが多いですが、そういう因果関係がどこにあるのでしょうか。むしろ円安の状況を活かして自国産業の建て直しやイノベーションを起こすことで、自国経済を立て直していくべきです。借り手の事業者の収益性が改善されていけば高い金利負担ができることでしょう。そうなったときに金利を引き上げればいいことです。

ともあれいまの商品価格上昇について金融引き締めや円高に向けた為替相場操縦しか対処方法がないというのは大きな間違いです。国民ひとりひとりの所得を殖やしインフレ下でも生活が苦しくないようにしていくという考え方を持つべきではないでしょうか。

 

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狂人プーチンによる全世界を巻き込んだ史上最悪の自爆テロ

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ほんとうはもっと早くこのブログでも取り上げるべきだったのですが、今回はロシアのプーチン大統領がはじめたウクライナに対する侵略戦争についてです。ロシア軍はウクライナの首都キーフをはじめとする都市にミサイルで無差別攻撃を行い、ウクライナ兵士だけではなく、罪なき子どもや女性らを含めた一般人を含めて数多くの犠牲者を出しています。さらに恐るべきことにウクライナ領内にある稼働中のザポロジエ原子力発電所にまで攻撃を仕掛けました。ジュネーブ協定違反です。この攻撃の目的はウクライナ国内の電力供給を断つ兵糧攻めではないかといわれていますが、さらに恐ろしい考えをプーチンは持っており、ウクライナ全土をチェルノブイリのように放射能汚染させて人が住めない状況にし、非武装中立地帯にしようとしているとまで囁かれています。核兵器を使わずにウクライナ全土を核攻撃したのと同じ状態にしてしまうというのは完全に悪魔的所業です。

このようなプーチンの蛮行を他国が黙って見過ごすわけではありません。理不尽極まりない侵略行為と決死の覚悟で闘うウクライナ兵士や市民たちに対し、欧米諸国は武器や支援物資を送り込むことの他に、ロシアに対しSWIFT(国際銀行間金融通信協会)やロシア中央銀行が持つ海外資産凍結といった金融制裁を与えます。これによってロシアの通貨ルーブルは国際的な商取引の決済に使えなくなり、国外では紙屑同然になります。当然ルーブルの価値は暴落するのですが、ロシア中央銀行保有している外貨準備を吐き出して為替市場介入することができず、ルーブル暴落を加速させます。ロシア側は天然ガス原油の輸出で積み上げた国益を吹き飛ばすことになり、自国通貨暴落で必要な物資の輸入価格が暴騰します。すでにロシアにおいてかなり高いインフレが発生しており、ロシア中銀の20%というとんでもなく高い政策金利で企業投資ができなくなっています。ロシア経済は破綻必至でしょう。SWIFTからの閉め出しや中央銀行の資産凍結は「金融の核兵器」といわれるほどの強硬手段です。ロシアは恐慌とハイパーインフレのダブルアタックに見舞われるでしょう。これはハイパースタグフレーションの発生といった方がいいでしょうか。

ウクライナ国民だけではなく自国兵士や自国民まで困窮状態に追い込むことを辞さないプーチンの行動は狂気の沙汰です。彼の行動は彼自身を含め全世界誰ひとりも幸福にしないでしょう。仮にウクライナを武力で征服しても、または逆にプーチン政権がクーデター倒され戦争が終結したとしても、リスクと不確実性の塊というべきロシアへ投資する他国企業はなくなっていきます。この戦争でロシアから事業撤退した企業は戻ってくるはずがありません。この国の窮乏化は何年、何十年と続くことでしょう。プーチンの行動に合理性は何ひとつなく、彼の思考がどうなっているのか理解に苦しみます。

ネット上でロシアをDV彼氏、ウクライナを元カノ(彼女)に例えている人たちがいますが、筆者はDV彼氏ことプーチンが、元カノのいるマンションに侵入し刺殺して、その後ガソリンを撒いて火をつけてマンションを丸ごと爆破させたように思えてきます。マンションに住んでいた関係のない住人も巻き添えになって死亡、マンションの近隣にもガラスの破片が飛び散ったといったところでしょうか。

筆者がこの戦争について第一に思ったことは、(旧)社会主義共産主義国家が全世界に撒き散らした災厄であり、自由主義に対する挑戦であるというものです。自由主義を護るためにもわれわれはウクライナに対し、最大限の支援をすべきです。ある自称・自由主義者ウクライナ大統領のゼレンスキー氏に「早く降伏しろよ」みたいなツイートをしていましたが、プーチンの暴走が自由主義最大の危機であるという認識が欠落しています。今回の戦争の行く末は中国共産党習近平もしっかりとみているでしょう。もし仮にウクライナプーチンの手によって陥落した場合、それをみた習近平も台湾や尖閣諸島を侵略してくるでしょう。日本も呑み込まれるかも知れません。

以前にも紹介しましたが、経済学者の本田悦郎さんが中国・武漢から新型コロナウィルスの感染が全世界に拡がってしまった状況について、旧ソ連時代に起きたウクライナチェルノブイリ原子力発電所事故(1986年)を想起すると仰っていました。 

このように国家社会主義共産主義は何度も世界中を巻き込む形で大規模な破壊と殺戮、汚染を繰り広げ続けたのです。非常に多くの尊き人命が失われたと共に、経済システムの混乱、巨額損失も与えています。国家社会主義共産主義は人類文明の癌細胞というべきものです。

コロナ禍と今回のプーチンによる侵略戦争は世界の経済構造やエネルギー戦略を大きく転換させることになるでしょう。民間の経済活動が積極的に進められる条件とは平和と安全、安定、そして自由が保障された社会です。ロシアや中国のように独裁者の恣意によって安全や自由が常に脅かされる国において、民間が安心して事業活動を行うことはできません。今回のプーチンの乱心によってロシアに投資した企業は巨額の損失を被ることになります。この国に事業進出したいという企業はもう現れないでしょう。

ロシアと取引していない民間事業者や一般個人も今回の戦争によって天然ガス原油高、電力コスト上昇という打撃を被ることになります。ロシアや中国に依存しない資源や工業製品の供給網(サプライチェーン)の構築が求められますが、それには時間がかかります。残念ながら我々はその大きな損失や負担を背負わないといけません。

しかしながらわれわれはその巨大なコストと犠牲を背負ってでも、国家社会主義との訣別を計り、自由主義と民主主義を護るために闘っていかねばならないのです。傍若無人な権力者を倒し、民衆が自由と民主主義を勝ち取るための闘いは無血ではありませんでした。数多くの過去の先人たちの血が流されています。それは現代においても変わらないという現実を突きつけられた思いであります。

 

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