新・暮らしの経済手帖 ~時評編~

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高橋是清と重なる安倍晋三元総理の経済政策とその運命

今日は9月19日で、今から168年前の嘉永7年に昭和恐慌などの金融危機に対処した金融政策・財政家の高橋是清が誕生しています。今回は高橋是清と今年7月に暗殺された安倍晋三元総理について比較して論じてみたいと考えます。

この二人は同じ9月生まれであることや、日本では珍しく金融政策を重視して停滞していた雇用や企業活動の回復を計った点、そして最期理不尽極まりない形でテロの犠牲になってしまったということが共通しています。筆者はやるせない気持ちでいっぱいです。高橋の政策は戦後歪んだ形で評価され誤解されてきましたが、安倍元総理が行ったアベノミクスも既にマスコミ等によって不当な評価がなされようとしています。このことは今後何年、何十年にも渡って日本正して国民の生活を貧しくし、産業の衰弱化を招く恐れがあります。それを正しておかねばなりません。

まず先に高橋是清の功績について振り返っておきたいと思います。高橋は何度も大蔵大臣を務め、日銀総裁、総理大臣にも就任しており、その優れた経済政策の手腕で何度も日本を襲った経済危機の修羅場を乗り切ってきました。日露戦争が起きたときイギリスに戦時国債を引き受けてもらうよう交渉したり、昭和金融恐慌のときに債務者の支払い猶予(モラトリアム)を実施するとともに、片面だけ印刷した紙幣を大量発行して銀行の店頭に積み上げて預金者を安堵させるといった方策をとったという話は有名です。

高橋最大の仕事で世界的にも高い評価を得たのが昭和恐慌のときに行った金融政策です。昭和恐慌が起きる前に立憲民政党濱口雄幸内閣と大蔵大臣だった井上準之助は世界的に進んでいた金本位制復帰の流れにのり、為替相場の安定を計るべく金輸出解禁を行います。これに備えるべく濱口内閣と井上財政は緊縮財政で正貨を蓄えていたのですが、金解禁の時期が世界恐慌の直後と最悪のタイミングで、日本から大量の金・正貨が流出。貨幣不足によって会社等に資金が行き届かず、ばたばたと倒産していきます。そして当然のことながら失業者が急増しましました。また円の為替レートがかなり高くなってしまい、ひどい輸出不振に陥ります。濱口内閣が倒れ、立憲政友会田中義一内閣が発足すると高橋は再び大蔵大臣に任命され、昭和恐慌の事態収拾にあたります。

高橋は金輸出を再度禁止して管理通貨制度に移行。高橋はさらに国債の日銀引受も実施して貨幣の発行と供給量を増やせる状態にします。これで企業の資金づまりの解消を行い、さらに財政政策も拡大が可能になりました。ただしここで誤解してはならないのは、高橋は積極財政主導で景気の回復を計ったというよりも、金融緩和政策で事態を収拾させるという考えでした。高橋自身も自分は財政よりも金融の専門家であるというような国会答弁をしています。当時起きた満州事変に対応する軍事費の増大や土木公共事業等を含んだ時局匡救事業などの財政拡大政策は高橋にとって補完的なものであり、恐慌の危機脱出後はそれらの縮小や財政規律を戻そうとしていました。ご存じのとおり高橋が2・26事件で軍部の反感を買ったのは軍事費の縮小に転じたことが要因のひとつとされています。

一方安倍元総理が行ったアベノミクスについても、日本の政治家にしては珍しく金融緩和政策を前面に打ち出したものでした。田中角栄をはじめとする越山会経世会は土木公共事業や農家への補助金を中心としたバラマキ財政で景気浮揚を計るといった政策を好み、それが自民党流経済政策となっていたのですが、安倍政権で画期的だったのは金融政策の意味をよく理解し、それを実行したところにあります。「アベノミクスは効果がなかった」とか「格差を拡大しただけだ」などという無根拠な批判が未だというよりか、安倍氏の死後より高まっているのですが、異次元金融緩和政策によって企業が積極的に事業活動のための投資を行うようになり、それが雇用の拡大につながっていったのです。筆者の近所のスーパーやドラッグストアでも、安倍政権発足以後に店内で従業員募集の放送が頻繁に流れるようになったことを憶えています。とくに一度雇ったら何年、何十年も雇い続けることを前提とした新卒学生の求人倍率が2014年以降からぐんと高まりました。アベノミクスによって生まれた雇用は500万人に上るといわれています。

高橋是清安倍晋三の二人は、失業を大きく減らし、人々の厚生福祉の向上に貢献した偉人であったと云えましょう。にも関わらず、二人はこのことを理解できない浅はかな者たちの愚かな凶行によって命を奪われたのです。さらに高橋の死後、放漫な馬場鍈一財政によってインフレが食い止められなくなりました。高橋が生きていたら、きちんと出口戦略(テーパリング)も行われていたことかと思われます。安倍元総理が殺害されてしまったことについても、当時と状況は異なりますが、来年以降に雇用の再悪化が進むなどして今後の日本経済に大きな歪を遺しかねません。いまの岸田政権の状況をみていたら、日銀の金融政策が無力化して、景気や雇用、物価の統治ができなくなってしまうという深刻な問題を発生させる恐れすらあります。このことは基礎知識編のブログでも改めて取り上げたいです。

安倍元総理が暗殺されたというニュースを聞いた直後に筆者が直感したのは「第二の2・26事件に匹敵する重大事だ」ということです。高橋が殺された2・26事件以後、テーパリングが中途半端になって日本は悪しきインフレに悩まされただけではなく、血盟団事件などが発生し、軍部の暴走と肥大化が突き進みます。2・26事件を起こした皇道派軍人たちは政治や財界の腐敗や昭和恐慌で荒んだ農村の状況をみて憂いの情を抱き、クーデターを決行したのでした。彼らなりの正義感があっての行動でしたが、その行為は昭和天皇の怒りを買っただけではなく、すべての日本国民をさらなる不幸に追いやることにつながったのです。

安倍元総理を殺害した山上徹也に対し「母親が(安倍氏とも関係があったと思い込んでいた)統一教会に入れ込んでおり、不幸な生い立ちだった」とか「減刑すべきだ」などと言い出している人間がいますが、筆者はとんでもないことだと思っています。山上が行ったことは不幸の再生産であり、今後何百万人もの人間が職を得られず、その中の数人が新たな「無敵の人」となる危険性があります。そして覇権主義と強権政治を突き進める中国共産党の暴走を食い止めてきた安倍氏が失われたことにより、台湾や日本が戦禍に巻き込まれるリスクが急激に高まりました。日本は「いつかきた道」を繰り返そうとしています。(狡猾な外交を続けてきた中国のことなので、日本から手をあげたという図式にしてしまうことも考えられます。)

いかなる理由があったとしても、殺人や破壊行為によって社会をよりよい方向に変えられるなどという幻想は捨てないといけません。彼らが高い正義感を持っていたといっても、それは極めて狭視野的なものでしかなく、理論や論理性が欠落したものであったならば無関係の人々をさらなる不幸に陥れます。その正義は経済政策を研究してきた者の観点から見たら自殺行為というべきものであるのです。

現在安倍氏の「国葬反対」の声が高まり、山上を英雄扱いするような者まで出てきている状況ですが、筆者はひどく背筋が寒くなる思いをしています。かつてある自主制作映画の宣伝文句で「ある者は望み、ある者は望まずに、悲劇の滑車を回しつづける」と述べていましたが、いまの日本はまさにそれです。自ら死への道を突っ走っているかのようです。

5ki_c2.pdf (mof.go.jp)

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