新・暮らしの経済手帖 ~時評編~

わたしたちの暮らしを大切にするための経済解説サイトを目指して開設しました。こちらは時評編で基礎知識編もあります。

労働者の貧困を救えなかった社会主義国家

貧困・雇用・格差問題 」の前回はカール・マルクスエンゲルスによって著された「資本論」の内容について触れました。商品の交換価値(市場価値)はその商品を生産するために投じられた労働量によって決まる労働価値説や剰余価値説について簡単に説明すると共に、よくよく考えてみたらその学説は間違いが多く含まれているという話もしました。とはいえど近年「21世紀の資本」をまとめたトマ・ピケティ教授が証明したように、国全体の経済成長率よりも資本が膨張する率の方が高くなっており、ごく少数の個人や企業に富が集中してしまっていることは確かなようです。結果的にいえばマルクスエンゲルスたちの仮説が正しかったと言っても、それを証明する論法は拙かったといえましょう。


その話はさておき、今回はマルクスエンゲルスたちの思想に傾倒した社会主義者共産主義者たちが革命を起こし設立した社会主義国家のことについて論じていきます。もうみなさんが御存じのとおり、現在ロシアに戻った旧ソヴィエト連邦をはじめとする社会主義国家は1970年以降に制度破綻を来たしはじめ、1980年以降に次々と崩壊していきました。社会主義国家は労働者の生活を良くするどころか、官僚主義的な統制経済によって生産・供給力の著しい低下と不効率化を招き、慢性的なモノ不足状態を生み出したのです。その結果国家財政もひどく悪化して破綻に陥ったり、ハイパーインフレを引き起こしたりしています。ここでも経済破綻した社会主義国家の例をいくつか取り上げました。

社会主義国家が引き起こした経済崩壊やハイパーインフレに関する記事

社会主義共産主義思想は「産業革命の陰で進んだ労働者の貧困 」でも書いたように産業革命当時の資本家・実業家たちが、強欲と横暴の限りを尽くし、一日十数時間にも及ぶ過酷な長時間労働で労働者階層から搾取を行っていたことへの批判や反発から生まれたものです。社会主義共産主義思想は階級格差のない自由で平等な社会を目指していました。

1917年のロシア革命によってロマノフ朝による帝政が倒され、ウラジミール・レーニンボリシェヴィキの主導によって社会主義国ソヴィエト連邦共和国が生まれます。
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ウラジミール・レーニン

ところがレーニンが死去する2年前にソ連共産党書記長となったヨシフ・スターリンはトロスキーやジノヴィエフなどをはじめとする古参ボリシェヴィキを失脚・追放・暗殺し、極めて強権的な独裁者となっていきます。スターリンの専横ぶりは凄まじく、政権幹部から一般党員や民衆まで数千万人以上を次々と処刑したり、シベリア収容所送りするという「大粛清」を行っています。
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第2次世界大戦後にソ連と同じく社会主義国家となってしまった中華人民共和国も同様でした。
この国の最高指導者である毛沢東レーニンと同じく政敵をどんどん抹殺し、冷酷非情かつ抑圧的な独裁者と化していきます。毛は大躍進政策の失敗で2000万人の餓死者を出した後、自らに向けられていた人民の不満の矛先をずらすべく悪名高き「文化大革命」を起こしました。これは毛による「上からの革命」だったのですが、それによって170万人もの人の命を奪いました。
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文化大革命当時の紅衛兵らの蛮行は鬼畜というべきおぞましさで、反吐が出るほどです。

参考
 Minade Mamoru Nowar様
 浮世風呂様 
 ぼやきくっきり様

ソ連や中国に限らず、北朝鮮ベトナムポル・ポトなど、多くの社会主義国家において非常に血生臭く残虐な大量殺戮が繰り広げられております。
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社会主義国家において学者や医師などといったインテリ層や実業家たちが「走資派」とか「反革命分子」というレッテルを張られて吊し上げられたり、惨殺されました。そのために科学技術や工業の発展が停滞し、ますます社会主義国家は貧国化します。

結果的に共産党が権力を握ってしまった国家のほとんどは中央集権的かつ官僚主義的な独裁国家となり、共産党による思想弾圧や言論ならびに経済活動の統制が強化され、民主主義や基本的人権が著しく制限されていました。自由主義・資本主義経済を選んだ国家よりも民衆の生活は圧迫されます。共産党幹部や役人たちは特権階級化し「赤い貴族」と呼ばれます。彼らは強大な権力を持つと共に物資を独占しました。資本主義経済よりも理不尽かつひどい格差が生まれております。

さらに社会主義国家において指摘すべきことは大きな経済政策の失敗を経験していることですが、その原因は国家による中央集権的な統制経済に起因します。社会主義国家は農地や工場などの産業設備の私的所有を認めず、国家が資本家や農民からそれを収奪し、その経営権も国家が独占します。
旧ソ連の場合、農地は完全国有のソフホーズ、半官半民的なコルホーズとされますが、都会人のボリシェヴィキらは農民を「恐ろしく貪欲で負けず嫌い」「農民は屑」と蔑んでいたこともあり、ロシアばかりではなく肥沃な農地だったウクライナの農業まで破壊し尽くしました。農民の労働によって生んだ収穫物は凶作であろうがお構いなく
ソ連政府が没収していきます。さらに高い生産能力を持っていた富農をどんどん大粛正で殺戮してしまいました。
そのあとコルホーズソ連政府は官僚を責任者として派遣しますが、彼らは農業のことなんか全然わかっていません。彼らの無知と怠慢で農業収穫は激減します。農耕者は懸命に労働して収穫を上げても全部国に没収され、自分たちにはほとんど物資や賃金が分配されません。やる気をどんどん無くします。ソ連政府や役人たちは一方的に収穫ノルマだけを押し付けるだけ。逆に農耕者たちは上から与えられた命令だけをこなすだけになるので農業の生産効率はどんどん下がる一方です。

 参考

ソ連は「五カ年計画」を代表するように極端な工業重視の経済計画を推し進め、1929年に起きた世界大恐慌による打撃をまったく受けずに工業生産力を高めていきました。しかしながらそこで産み出される製品の改良や新規産業の育成、技術開発投資が進まず、製品の質が西側諸国のものと大きく劣るようになっていきます。これによって工業もダメになっていきました。

毛沢東が支配する中国もやはりソ連と同じ道を辿ります。
毛はやはり悪名高き大躍進政策で全人民製鉄・製鋼運動を唱え、中国の鉄鋼生産高を倍増させると言い出しました。ところが中国はコンビナートを建設する資金や時間がなく、驚くべきことに産業革命以前の「土法高炉」を全国のあちこちの村につくって、人海戦術で鉄鋼生産を増やそうとしました。ムチャクチャです・・・・。
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土法高炉

素人がつくった鉄鋼はものすごく質が低く、文字通りの”屑鉄”です。
毛に媚びる共産党上層幹部は課せられたノルマをこなすべく、屑鉄を粗製濫造して、高い数字をつくろうとします。当然東芝粉飾決算の如く、鉄鋼生産は水増し報告されることになります。
毛は工業だけではなく、ソ連コルホーズと同じく農地の人民公社化を計っていきます。やはりソ連と同じく農業生産もダメにしました。
毛は畑にびっしりと種や苗を植え付ければ収穫率がうんと向上するというシロウト考えの「密植」を提唱し、それを奨励します。こんなことをやるとれば逆に作物が育ちません。しかし毛の歓心をひくべく公司の上級幹部たちはそれで収穫が激増したかのように、出来高を水増し報告しました。 
出来高の水増し報告により、上納すべき量も増やされ、農民たち自身の食料が削れらます。さらに農民たちも製鉄運動への駆り立てられているのでますます食糧生産力が低下します。これが元で1960年から61年にかけて、中国全土を猛烈な飢饉が襲い、人喰いまで起きたようです。

参考

社会主義国家の多くで共通して発生したのは国家主義的かつ官僚制によるモノやサービスなどの財の生産・供給力(サプライサイド)の著しい低下や劣化です。前にこのブログで書いたように、国家社会主義ハイパーインフレスタグフレーションを招く場合が多いのです。

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社会主義共産主義者の多くは生産や供給を強化して、富や財のパイを大きくするということよりも、資本家や富農たちの富や財を暴力的に略奪することしか関心を持っていません。優れたモノやサービスを産み出す人たちを”粛正”や”文化大革命”で根絶やしにしてしまうようなことをし、さらにモノやサービスづくりのことを全くわかっていない無能かつ怠惰な官僚・役人が介入して生産活動を低下させていきます。

社会主義共産主義は人々を貧困から救うどころか、それを拡大し、その上理不尽な特権階級による富や財の搾取や蓄積を蔓延らせました。
産業革命の陰で進んだ労働者の貧困 」で述べたように産業革命期のイングランドでかなりひどい資本家による労働者からの搾取が行われていましたが、社会主義国家においてはそれを上回る貧困と格差が発生していたのです。

結果的にわたしたちを貧困や格差から救うものは社会主義共産主義ではなく、自由主義・資本主義経済でしかないのです。資本主義経済をより多くの人々に質の高いモノやサービスを分配できるように改善していくことを考えた方が賢明です。

こちらでも政治等に関する記事を書いています。

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