新・暮らしの経済手帖 ~時評編~

わたしたちの暮らしを大切にするための経済解説サイトを目指して開設しました。こちらは時評編で基礎知識編もあります。

「失われた20年」で露呈した高度成長期型社会保障制度の限界

今回の話はバブル崩壊後に様々なかたちで露わになった日本の縦割り型社会保障制度の綻びや限界について述べていきます。前回の最後でも1990年代を境に社会保険料収入の伸び悩みで社会保障財源の収支が悪化しはじめたことを話しております。1997年より本格的に賃下げや非正規雇用の拡大が進み始め、その影響からか社会保険料収入が伸び悩むことになります。

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アルバイトで食いつなぐフリ-ターやほとんど就労活動を行わない引きこもりやニートといわれる人たちは社会保険料を支払うことができません。
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彼らは保険料未払いや減免措置を受けざるえません。厚生年金や健康保険ではなく国民年金国民健康保険の加入対象となります。彼らが年金支給対象年齢に達したとき、受け取れる年金額はかなり低くなります。まだ就労が可能な前期高齢者でしたらいいのですが、病気や老化で働けなくなってくると低年金・無年金状態となる恐れがあります。生活保護の併給も必要となるでしょう。

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しかしながら現行の生活保護制度は申請の壁が厚く、非常に利用しにくいものです。漏給問題についてもこのサイトで述べました。弊サイト 「簡単にもらえない生活保護 ~保護利用を妨害する水際作戦と硫黄島作戦~

現在の日本の社会保障制度が整備されていったのは戦後の高度成長期のときです。安倍総理の祖父にあたる岸信介氏が総理だった時代に国民皆年金・皆保険を実現させますが、これはこのとき生まれた家族主義的な日本の雇用慣行に依存するような制度設計になります。

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岸信介氏と日米安保闘争デモ活動

公的年金医療保険雇用保険などの保険料を企業側が折半で負担する形としたのですが、企業側もまた一度雇った社員を定年まで雇用し続ける終身雇用制度や家族手当などの厚生福利制度を用意し、労使対立の回避を行います。本来国が面倒を見るべき国民の所得保障や厚生事業を民間企業に担わせるような習慣ができてしまいました。これを昭和型社会保障制度と昭和型雇用制度と呼びましょう。


日本の経済が右肩あがりの成長を続けていたときは、企業が雇った人の各種社会保険料負担をするだけではなく自社の年金や健康保険組合を組織運営したり、終身雇用や年功序列による昇給など手厚い従業員の厚生福利制度を維持できたのですが、1990年代にバブル景気が崩壊してしまうとそれができなくなります。
1990年代から日本の経済はひどく先行きが不透明なものとなり、急激な経済変動や自社の業績悪化を恐れなくてはならなくなりました。企業にとって正規雇用で雇った社員は簡単に解雇できず、何十年も雇い続けないといけません。非常に重い固定費負担となります。よって企業側は正規雇用ではなく非正規雇用や派遣労働といったかたちでの雇用へと切り替えます。昭和型雇用制度の崩壊です。

企業が昭和型雇用制度が維持できなくなると、それに依存していた政府側の昭和型社会保障制度についても綻びや限界が見えてきます。上で述べたように社会保険財政の悪化だけではなく、昭和型のセーフティネットから抜け落ちてしまう人たちが現れます。
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既存の昭和型社会保障制度は老齢年金をはじめ、障害年金医療保険や雇用(失業)保険、労災保険生活保護、児童手当などといったものが存在します。イメージ 5
けれどもこれらは縦割り型のセーフティネットで平成時代から目立ちはじめた長期失業や低賃金で所得が不安定な非正規雇用労働者の増加に対応できているとはいえません。
日本の雇用(失業)保険の給付は完全雇用が当たり前だった昭和の時代を想定したもので、失業してもすぐに新しい職が見つかるということを前提としたものです。ですので給付期間が半年~1年程度と短く、不況の長期化が進むと、失業保険が切れた後は生活保護へ直行となってしまうことになります。しかも上で述べたように生活保護の利用申請は狭き門で、かなり困窮した状態でも簡単に保護開始が受理されるわけではありません。無収入状態に陥ってしまう人が出てきて当然です。

次回お話するつもりですが、日本の雇用慣行をもっと柔軟化させ、解雇規制緩和や同一賃金・同一労働制の導入といった企業の雇用制度改革を進めると同時に、給付付き税控除やベーシックインカムといった包括的所得保障給付制度の導入を計っていかねばならないでしょう。

私が考える次世代型セーフティネットは次のようなものです。

 金融政策及び財政政策によるマクロ経済政策による雇用の安定化と失業発生の防止(需要側の拡大)
 失業者の早期復職を促す職業訓練や雇用制度改革による雇用の柔軟化促進
 (第1次安倍政権の「再チャレンジ政策」や竹中平蔵氏が提言していた自助努力・自立支援型セーフティネット
 老齢年金・障害年金医療保険など既存社会保障制度
 給付付き税控除やベーシックインカムなどの包括的所得保障制度
 生活保護(貧困者支援の最終手段)
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このサイトで一見貧困や経済格差問題から縁遠い印象がある金融政策の解説に力を入れているのは、ありとあらゆる防貧政策の第一歩であるからです。雇用の最大化に勝る防貧政策はありません。
次に失業という事態が発生したときに失業者が早期に復職できることを促す自立支援型セーフティネットを活用して、人々が無所得状態が長引くことを防止します。
それでも(再)就職が難しい人の場合は公助で所得保障を行います。最初に既存の社会保障制度や給付付き税控除ならびにベーシックインカムといった包括的所得保障制度で所得補填をします。最終的には生活保護を適用する形です。

昭和型の雇用制度はバブル景気時代までは人々の生活の安定に貢献しましたが、高度成長期を過ぎたいまの日本経済の状況においては、逆に救済の網から抜け落ちてしまう人をたくさんつくってしまうという問題を生み出しています。雇用制度の柔軟化と併せて、包括的なセーフティネット制度の構築が望まれます。

こちらでも政治等に関する記事を書いています。

「お金の生み方と配り方を変えれば 暮らしが変わります」

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