新・暮らしの経済手帖 ~時評編~

わたしたちの暮らしを大切にするための経済解説サイトを目指して開設しました。こちらは時評編で基礎知識編もあります。

誤解と偏見だらけの生活保護問題

日本の社会保障制度の基本体系から歴史をはじめ、年金ならびに医療保険問題、介護福祉問題、そして前回・前々回の保育問題を取り上げ続けた「社会保障・福祉・医療問題 」編ですが、今回から最後のテーマである生活保護問題に入っていきます。

生活保護問題といえば2012年の夏頃によしもとの芸人で当時多くの所得を得ていたK氏の母親が生活保護を受給していたことが報道されたのをきっかけに、不正受給問題が炎上し、生活保護受給者に対する激しい攻撃が繰り広げられました。この騒ぎを煽ったのは自民党片山さつき議員や世耕弘成議員であり、産経新聞もそれに加担しましたが、背後に生活保護予算削減を行い、自分たちの裁量で遣える予算の拡大を狙う財務官僚が潜み、筋書きを書いていたのではないでしょうか。
イメージ 1イメージ 2
イメージ 3
生活保護バッシングが勃発したときの財務次官

以後生活保護の申請はさらに難しくなり、役所が「水際作戦」とか「硫黄島作戦」といった方法で生活保護の利用を妨げる行為がひどくなっていきます。(両方とも軍隊用語だが役人の世界ではかなり根強く遺っているようだ)
俗にいう”ネット右翼”や在特会などの極右活動家たちも生活保護バッシングを繰り広げました。2012年末には夫からのDVを受けていた女性が子供と一緒に餓死してしまうといった事件が発生した他、この騒動に苦しめられ、自殺に追い込まれたもしくは未遂した生活保護受給者がいたという話もあります。

生活保護バッシング事件は自分が今こうして今経済問題を扱うブログを開設した動機のひとつにつながっています。

みなさんに広く知っていただきたいのは生活保護という制度は、ありとあらゆる防貧セーフティネットの中でいちばん底側の網であるということです。生活保護法の条文にも書かれていますが、この制度は本人の自助努力や近親者からの援助に加え、老齢年金ならびに障害年金雇用保険、児童手当などといった他の社会保障制度を活用してもまだ最低限の生活水準に満たない場合にはじめて利用が認められるもので、最後の救済手段であります。
イメージ 4

防貧セーフティネットのいちばん底の網が穴だらけになってしまい、そこから抜け落ちてしまった人はホームレスに転落したり、死という最悪の顛末を迎えることになります。あるいはあえて殺人や放火などの犯罪を犯し刑務所に入るという人間もいたりするでしょう。最終セーフティネット生活保護ではなく刑務所だという記述をみたこともあります。もともと生活保護法が生まれたのは第2次世界大戦直後の混乱期で、失業者だらけの上に盗みは当たり前で治安がひどく悪化していたときに、それを治めるために登場したようなものです。生活保護貧困政策であると同時に防犯・治安維持政策でもあったのです。

生活保護は不正受給問題に目が行きがちですが、逆の漏給問題や捕捉率の低さの方がさらに深刻であるといわれています。役所に生活保護の申請をして受給が認められればいいのですが、実際にはかなり生活状況が逼迫していてもなかなか受給が認めてもらえないことの方が多いです。甘くはありません。不正受給といっても「生活保護を受けながら高級車を乗り回していた」とか「ナマポ御殿」といった極めて悪質な不正受給よりも所得を得たときの申告ミスといったものが多くの割合を占めます。このことは実際の数字を確認しながらお話していきたいです。

生活保護問題の議論は非常にヒステリックなものになりやすく、統計の数字すら確認しないまま、強い思い込みだけで「生活保護を廃止しろ」とか、「不正受給を取り締まれ」と怒りをぶつけるだけに終わりがちです。受給者が皆パチンコやアルコールに依存しているかのように思われていたり、働きたくないから生活保護に頼っているといった誤解や偏見がかなり強く持たれています。貧困の烙印=スティグマです。

逆に自分が別のブログで書いた記事に「高い年金保険料を払い続けるよりも生活保護」などというコメントがついたことがあります。あとネットのどこかに書いてあった話ですが、引きこもっていた男が親と喧嘩し、家を飛び出したのはいいが、役所に生活保護を申請したものの却下され、その後自殺したなんてこともあったようです。こういう人たちは「生活保護なんか申請すれば簡単にもらえるものだろ」と高を括っている・いたのではないでしょうか?

生活保護に限ったことではありませんが、いま日本の国にどういう社会保障制度があって、どういうときに支給されるのかを理解していない人をたまに見かけます。

今回の生活保護に関する話は次の「貧困・雇用・格差問題 」編やさらにもうひとつ先の「ベーシックインカム構想 」編とも深く関連し、内容が重複する部分がかなりあるでしょう。当方がベーシックインカムの導入を提言し続ける理由のひとつは生活保護が非常に利用しづらいもので、保護開始・廃止の決定も行政の恣意に左右されてしまう欠陥があるからです。このことはこれから順を追って説明していきます。

~お知らせ~
今後日本の政局や北朝鮮問題についての論考は下記ブログで掲載していきます。

「お金の生み方と配り方を変えれば 暮らしが変わります」

サイト管理人 凡人オヤマダ ツイッター https://twitter.com/aindanet
イメージ 1