新・暮らしの経済手帖 ~時評編~

わたしたちの暮らしを大切にするための経済解説サイトを目指して開設しました。こちらは時評編で基礎知識編もあります。

防災はある「線引き」があることを示していくべきだ

今回は「ちぐはぐな防災観が命を奪う危険性」の続編です。

上の記事は木村貴氏が書いた防災に関する記事についての批判でしたが、付け加えたいことがあります。

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それは「防災は行政任せにしてはいけない」「行政による(堤防などのハードを中心とする)防災には限界がある」という論調についてです。

結論を言いますと私も行政に任せきりにせず、住民自らが防災に関する知識や情報をつかんで、非常時にどう行動すべきかを考えていくという自主的な防災姿勢をもつべきだと考えます。木村氏の記事で引用されている東京大学大学院の片田敏孝特任教授(災害社会工学)が「最終的に身を守るのは自分自身」と仰るとおりです。

しかしながらそれを「防災関連の公共事業工事よりも住民の防災意識を高めるべきだ」とか「堤防や耐震補強工事をやっても100%安全が保障されないのだから意味がないのだ」みたいな解釈がまかり通るのはまずいことだと思います。私は災害の被害規模が巨大化してきている現実を受け止め、ソフト・ハード共に高い被害想定に改め、対策を強化しないといけないと考えます。

地球温暖化による大型台風や集中豪雨による洪水の増加や地震や火山の活動活発化が進んでいるといわれている現在において、行政による防災事業の強化は不可避だと覚悟しています。しかしながらそうしたハード面の減災投資を行ったとしても、限度があるから、住民自身が大きな台風や地震等が発生したときはいち早く避難するといった自主的な行動を採らないとダメなんだという文脈で防災の話をするべきなのです。

 

災害対策に限らず交通安全もそうですが、安全性を高めるといっても実はある想定までの範囲内までの対処しかできないのです。自動車の衝突安全性についても「時速~kmで衝突した場合において」といった感じでボディの設計を行い、衝突実験を行っているわけです。時速150Km以上もぶっ飛ばして事故を起こしても乗員が無事なクルマなんてできるわけがありません。

洪水対策の堤防なんかも過去の被害データに基づき、「堤防の高さを~mに設定しておけば、恐らく浸水被害に遭う確率が~%以内となる」と想定しながら設計や計画が進められるでしょう。

 

「被害想定」という線引きは堤防や耐震強化工事といったハード面だけの災害対策だけではありません。自治体が作成するハザードマップ避難訓練といったソフト側の災害対策も線引きをひいて作成や計画がなされています。

東日本大震災後の津波や洪水等で犠牲になった人たちの多くが、ハザードマップの被害想定区域から外れていた場所に住んでいたという話は片田教授も語られていますが、これも実際に起きた災害が事前に想定していた線引きを超えた被災規模であったために起きた悲劇であったとみていいでしょう。

 

今後の災害対策で重要なことは行政が進めている防災対策というのはソフト・ハード共に被害想定という線引きを超えない範囲の災害しか対応できないということを、住民ひとりひとりに周知させていくことです。その線引きというかハードルの高さは上げていかねばならないのですが、無限に上げることは不可能です。不幸にも実際の災害がそのハードルを越えてしまうことがあることを想定してわたしたちは行動をすべきだと肝に銘ずるべきでしょう。

 

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