新・暮らしの経済手帖 ~時評編~

わたしたちの暮らしを大切にするための経済解説サイトを目指して開設しました。こちらは時評編で基礎知識編もあります。

迅速性が欠けるコロナ休業補償

 前回の記事「コロナウィルスという敵と闘う戦士たちを支えるロジスティクス 」はいま起きているコロナウィルス感染拡大を戦争と位置づけ、その戦争の最前線に立つ兵士というべき民間事業者や個人へのモノやサービス、お金といった物資補給を滞りなく進めるロジスティクス兵站)の重要性について述べました。IMF国際通貨基金)のウェブサイトに掲載されている論評「新型コロナウイルスと戦うための経済政策」において、政府の休業要請や自粛、急激な需要減などによって資金繰り悪化に陥った民間事業者や就労機会の急減もしくは失業で所得が急減してしまった民間個人への各種支援策について述べられています。

下は上のコラムに添付されていた政策一覧表です。

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日本においても上の表に書かれた諸政策に相当する緊急経済対策が打ち出されています。

左の流動性対策については金融政策つまりは日銀側の対応となり、貸し倒れリスク増大で民間銀行が民間事業者・個人に対し貸し渋り貸し剥がしが起こらないよう準備預金(マネタリーベース)の積み上げを行ったり、民間事業者が株式や社債などの価格下落で資金調達が困難になることやバランスシートの毀損が起きないよう各種債券を買い取っていくといった措置を進めました。そして表の右側の支払い能力対策については雇用調整助成金や持続化給付金、中小企業をはじめとする資金繰り支援、国民個人への現金給付などといった財政政策も打ち出しています。

休業補償については個人事業主フリーランスなどにも適用が拡大されました。

 

今回安倍政権が打ち出した雇用調整助成金の拡充は助成率最大9割とかなりいい内容となっています。また売上等が急減しても待ってくれない家賃・借入等の支払いなど切羽詰まった資金不足に対応するための融資制度も日本政策金融公庫・商工中金などから提供されています。実は既にかなり豊富な経済支援のメニューが揃ってはいるのですが、支援の決定や開始、利用手続きの簡素化など迅速性が大きく欠けています。また制度の周知が進んでいないという問題も無視できません。細々とした制度がいっぱいあるけれども申請手続きや利用条件が煩雑すぎて当事者にとって使いづらいものになっているし、給付開始が遅すぎてその前に事業廃止や経営破綻、破産に陥ってしまうという間抜けなことになりかねません。

 

いくらたくさんの制度を乱立させても、現在困窮している事業者・個人のすべてを救済することは不可能で、捕捉率や漏給問題が発生します。生活保護の問題と一緒です。ですのでアメリカやヨーロッパなどが行っているように迅速な全国民への現金一律無条件給付が必要なのです。これならば賃料や債務返済、固定費支出などの決済問題を回避できる可能性が出てきます。長い目でみたとき現金一律無条件給付は結果的に「はやい・やすい・うまい」という政策効果を得られるのではないでしょうか。

 

今回日本の場合、現金一律無条件給付についてはかなり回り道をしました。2020年4月16日現在において自民党と政権ブロックを組む公明党自民党内の一部グループが粘った甲斐があって安倍政権は補正予算を修正するかたちで全国民一律10万円給付を行う方針を採りました。しかしながらここまで来るのに、現金一律給付を渋る財務省経済産業省の官僚らとその影響を受けた議員による激しい抵抗と闘わねばならなかったのです。それは現金の枯渇にあえぐ人々にとって大きな時間のロスでした。

彼らは現金支給額を30万円にすると言いつつも、コロナショックが起きる前から所得が大幅に減少し、なおかつ住民税非課税世帯であるなどといった極めて限定的かつ、証明が難しい資格条件をつけてきたのです。下に総務省が出してきた生活支援臨時給付金の案内を写し撮ったものを添付しておきました。

 総務省「生活支援臨時給付金」

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案内を読むと

 (1)新型コロナウイルス感染症発生前に比べて減少し、かつ年間ベースに引き直すと住民税非課税水準となる低所得世帯
または
(2)新型コロナウイルス感染症発生前に比べて大幅に減少(半減以上)し、かつ年間ベースに引き直すと住民税非課税水準の2倍以下となる世帯
等が給付対象になっています。

となっており、さらには

そのため、例えば、公務員、大企業の勤務者等は一般的には含まれないと想定されます。また、生活保護者や年金のみで生活されている方なども原則として対象とならないことにご留意ください。

とまで書かれています。

 

これだと恐らくほとんど誰も利用する人がいないでしょう。明らかに役人らが使わせないように仕向けた制度設計です。もし仮にこんな欠陥給付制度を実行していたら役所の窓口はコロナ感染クラスタを発生させやすい「集・近・閉」の三密状態となり、不正給付続出で担当窓口は大混乱となっていたことでしょう。

その愚かさを多くの人たちや議員らが見破り、安倍政権に現金10万円の全国民無条件一律給付をせよという大合唱が起きました。その声に圧され安倍政権はようやく無条件給付へと舵を切ったのです。

 

コロナショックが発生する前より多くの民間事業者は消費税10%増税などによって大きな打撃を受けていました。コロナショックはごく短期間の需要萎縮だと思われがちですが、それでも倒産・廃業へ追い込まれる民間事業者の数は少なくありません。雇用の悪化も急速に進むでしょう。

この短期間で多くの民間事業者がバタバタと潰れたり、真面目な勤労者が離職してしまうと、コロナ感染が収束しても経済活動が元に戻らないということになりかねません。最悪ペンペン草すら生えないような状態になるでしょう。f:id:metamorphoseofcapitalism:20200417132405j:plain

日本の財務省はこの非常時において財政の出し渋りをし、民間企業や個人を潰しまくって、経済的自立を損ねるようなことばかりします。こんなことをやっていればモノやサービスの生産活動が低迷し雇用が萎縮したままで、経済活動が沈滞し続けることになります。税収が落ち込んで国家財政の再建が余計ままならなくなるでしょう。

日本のエリートといわれる官僚たちの視野の狭さや先見性の無さは絶望的であるとしか言い様がありません。次回も書きたいですが、それは戦時中の軍部と変わらない体質です。

 

参考 

 

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